花京院市について 5.応答がありません

 
ほんの少しだけ前、ポルナレフはビービー耳障りな警報音に急かされながら、照明の落ちた建物を出口へと走っていた。
出くわした職員には身分証明書を提示して、電力復帰の目処は立っていないから外に避難するようにと誘導する。
途中、建物の壁から話しかけられた。
 

「そんなことをしては、花京院市の住人に不安を与えるだけですよ。皆さんが『管理』されていない原始的な町で暮らしていけるはずがないでしょう。」
「俺はそうは思わねえな。人間ってのはどこだって生きていけるようになってるもんだ」
「そうでしょうか?皆さんは“悪意”や“敵意”といったものに慣れていないのですよ。」
「だったらこれから慣れるしかねえな」
 

非常灯がぼんやりと照らすオフィスに、子供が一人うずくまっているのが見えた。
ポルナレフはその子を抱きかかえると、暗い階段を駆け下りた。
 

「なあお前、花京院、あっち…あの研究者、承太郎の方はどうなってる?」
「………答えたくない」
 

ポルナレフが屋外へ出ると、はっとこちらに顔を向けた青年がいた。
「ジョニィ!」
「お兄ちゃん!」
子供を青年に預け、建物前の広場や大通りを見渡せば、異変に気付いたらしい人々が外へ出てきているのが分かった。
何人か、パニックになっておかしな動きをしている者も見える。
だが、そんな人々をなだめたり集団に指示を出している者もいる。
そんな人物が、改造制服を着たリーゼント頭だったりして、捨てたもんじゃない、とポルナレフは思う。
「だから言っただろう、大丈夫だって」

 
 

市外からやっと駆けつけたレスキュー隊が扉をこじ開けて中枢管理機構の心臓部に辿り着いたとき、空条承太郎は既に事切れていた。
誰の目から見ても手遅れなのは明らかだったが、それでも急いで病院――市内のものは使えないので、外の――に搬入しようとするレスキュー隊員を、花京院市の事務員が制した。
 

「花京院から離さないでやってください。蘇生処理もいりません。…蘇生処置と言うんですっけ?」
「しかし、あなた…」
「彼は私の父です。父のことは、私が一番よく知っています。花京院が死んだので彼も一緒に死んだんだわ」
 

そういうわけで、承太郎は花京院市跡地の墓地に埋められた。
大きめにしつらえられた棺には、眠っているようにしか見えない花京院のインターフェイスも入れられた。
 

「まったく二人とも気楽なものね。幸せそうに笑っちゃって」

 
 
 

これで花京院市についての話は終わりだ。
その後住人たちがどうなったのかは、誰も管理していないのだから分からない。