「音声は入っているか?」
わこつ
わこつー
わこつ
聞こえますよー
大丈夫
てかなんでヒトデの写真?www
なんかきれいなヒトデだなwwwww
「今回の生放送についてだが、一番リクエストが多かったのが『顔出し』だったな。これは顔を映して見せるということらしいが、止められたのでやめておく。次が『歌』だったので、話をしながらたまに歌うという放送にする」
おk
分かった
何歌うの?
「何を歌うかはリクエストを募る。………一番多いのは…知らない曲だな」
知らんの?
ボカロ曲だよ
最近人気なのに
「曲名で調べる。………♪~」
今wwwww聞くのかよwwwww
ほんと自由だなこの人wwwwwww
「分かった。これを歌おう」
無理だろwww
初見だろwwww
それから歌が終わるまで、コメントはほとんど書き込まれなかった。
数少ないコメントも、「!?」や「え」といった程度のものだ。
Y太はヘッドホンをはめたまま固まった。
めちゃくちゃ、うまい。
その上すごく色っぽい。
歌詞をところどころ間違えていたりハミングだったりしたが、まったく気にならなかった。
「すげえ」とか「うめーーー」とか「888888888」だとかいうコメントが流れる。
Y太は震える指で、「さすがに前から知ってただろこれ」と打ち込んだ。
Y太は動画サイトに実況プレイ動画をUPしている実況プレイヤーである。
人気は、正直、ない。
はやりのゲームや人気のゲームを選んでいるからか、再生数はそれほど悪くはないが、コメントが伸び悩んでいるのだ。
動画投稿はかれこれ4年ほど続けているが、名はほとんど知られていない。
そこに、ジョジョの登場である。
彼は動画投稿もゲームそのものも初心者であるというのに、急速に人気を勝ち得てランキング常連者になったのだ。
アンチというほどではないが、面白く無いのは確かだ。
今日の生放送でも、何かボロが出ないかうっすらとだが期待していたのに、初っ端からこれである。
Y太は「いや、聞いたのは先ほどが初めてだ」という言葉を聞きながら、ため息をついた。
天は二物を与えずというのは、嘘のようだ。
それから生放送は質問のコーナーに移った。
ジョジョは、「答えないほうがよいものはリストにしてもらった。職業や住んでいるところなどだ」と前置きした。
「ああ、生放送をするといいとアドバイスをくれたのと同じ人物だ。ん?恋人だ」
爆発しろ。
Y太はそう思い、その思いの丈をコメントにした。
スルーされた。
「いや、私が花京院くんのファンなのは知っている。彼には動画作成にあたっても色々と教えてもらっている。声?ああ、花京院くんに似ているかどうか、か……ノーコメントとさせてもらおう」
なんだそれ、いい恋人すぎんだろ。
Y太の彼女は二次元から出てくる気配がない。
「ん?ああ、男だ。いや、私が今まで交際してきたのは女性ばかりだ」
ばかり、ということは、少なくとも複数人であるという意味だ。
Y太はつい、デスクトップにいる彼女の顔を見た。
「いや、彼で最後だから、他の男性とも女性とも付き合う予定はない」
ノロケか!!!
この話題は不快だ!!
Y太は流れを変えるために、次の曲を歌えとコメントした。
今度は得意な曲を、というコメントに、ジョジョは「得意というか、最近練習しているアーティストならいる。ああ、彼氏の好きなアーティストだ」と答えた。
その!!話題から!!!離れろよ!!!!
促されてジョジョは、そのアーティストの曲を歌い始めた。
しっとりしたメロディラインが印象的な、それは洋楽だった。
発音はめちゃくちゃ滑らかだった。
またコメントが途絶え、歌が終わってからは画面が称賛で埋まる。
こんなたくさんコメントもらえたら、嬉しいだろうな。
Y太は寂しくなった。
自分だったら、「コメントたくさんありがとう」って言う。
ジョジョは、このコメントが当然のような顔をしている(顔は見えないけど)。
それがとても悔しいけど、どこか切ない気もする。
普段から、人に褒められるのに慣れているんだろう。
きっと彼は、この画面がとても幸せな状態だというのに、気づいていないのだ。
歌が終わってから、話題は件のBLゲームに移った。
ジョジョはきっぱりと、プレイをやめる気はないと断言した。
「私が楽しむためにゲームを購入してプレイしているのだ。もちろんBLを揶揄するつもりはない」
やゆ、をぐぐってから、Y太は「プレイしてもいいけど動画うpはやめたら?」と書き込んだ。
「荒れてコメント稼ぐのが目的だろ」という攻撃的なコメントも見える。
呼応するように、「つかコメント見てんの?」というものも流れた。
「毎回コメントは見ている。だが人に言われて自分のやることを曲げるつもりはない。荒れようが荒れまいが投稿する予定でいたから、投稿する。それだけだ」
ジョジョの言葉は、悩んだ末の結論、という感じではなかった。
この人は最初からそのつもりで、周りの評価など気にも留めないのだ。
Y太はふと、この人に会ってみたいと思った。
それは好奇心や敵対心からではない。
いったいどんな人生を歩んできたなら、こんなに自分に自信を持てるのだろうか。
「そろそろ時間だな。延長するつもりはないからこのまま終わるぞ」
そう言った通り、生放送は一枠で終わった。
Y太はヘッドホンを外した。
そして、もうこの人のことは気にしないことにしよう、と決めた。
きっと、住む世界が違うのだ。
「承太郎、生放送お疲れ様」
「あんな感じでよかったのか」
「大人気だったじゃあないか。なんだか僕の話題が多かった気がするけど」
「まだ話し足りないが」
「勘弁してくれ……」
それから承太郎は愛しい恋人との明日のデート(in電気街)の時間を確認し、電話を切った。