スタッフト・ゾンビー・ラヴァー(グロ?)

 
病床の母が今際の言葉に明かした父の住所に行ってみたならば、そこはその界隈でも有名なホーンテッド・マンションだった。
ほとんど城のような屋敷の裏には古い墓場があるらしいのだが、夜な夜なそこで穴を掘る男が居て、彼は館の主で、つまりはあたしの父だという。
少しの服に一本のブーツ、母の写真、そしてヘンドリクスのCDを一枚だけ持って、あたしはお化け屋敷へ赴いた。
昼なお薄暗い森を背後に、これでもかとおどろおどろしい雰囲気を放つ建物、錆びて変形した門にはこれまた錆びて真黒になった鎖が厳重に巻き付いていた。
それであたしはその横の、煉瓦の崩れた上を跨ぎ、腰の高さまで伸びた雑草を掻き分け屋敷の入り口へと向かった。
ところが困ったことに、無駄にでかくてグロテスクな装飾の扉ときたら、当たり前みたいな顔で押しても引いても開かない。
その上ノッカーは蔦でびっしり覆われていて使えないし、当然だけど電機で動くベルなどない。
これは困った、勝手口か何かないかしらと庭に戻り、屋敷の裏に回るところの茂みに、何か落ちているのを見つけた。

 

脚、だった。

 

しかも普通の脚じゃない。
太ももはがっしりした男のものなのに、すね付近は明らかに女のものである。
膝の辺りで無理矢理くっつけて、しかも太い糸で縫った跡があるのだ。
うわあ嫌だなあと思いつつ、けれど他に何もアクションを起こせそうな対象が無いので、恐る恐る近寄ってみる。
足首もまた、別の肌の色をした男のくるぶしが、傷口を縫われて続いている。
とはいえ脚そのものが全体的に土気色をしているのは言うまでもない。
これから住むことになっている家の、荒れ放題の庭に死体を縫い合わせた脚が落ちていて、もうなんだかショックやら恐怖やらを通り越してあたしは、好奇心という名のその場の衝動だけで行動していた。
動かないわよね、とほとんど口に出して更に近付き、おっかなびっくり手に取ってみた。
かさりと音をして持ち上がったそれは思ったより随分軽く、とうとう目に入ってしまった、足の付け根に当たる部分の切断面も、白い骨に鮮やかな赤い肉―――かと思いきやそうではなく、黒ずんだ、綿か木屑のようなものの塊が詰まっていた。
ついまじまじと見つめてしまっていて、気配に気がつかなかった。

 

がさり、と草を掻き分ける音。
はっとして振り向くと、そこにはあたしと同じくらいの年頃の、少年が居た。
けれど彼があたしと同じような立場でないのは、一目で分かった。
彼はとりあえず全裸で、そして身体中に縫い目があった。
つまり、あたしが今手にしている脚と同じに、死体を繋ぎ合わせて出来ていたのだ。
ところが残念ながら、血色も悪く活動している彼を、見てすぐ悲鳴を上げて脚を放り投げて逃げ出しても良かったんだけど、あたしの姿を認めていきなり及び腰になり、「ぼく、の、あし……」と消え入りそうな声で目も合わせずにつぶやくから、ホラービデオのヒロイン役にはなり損ねた。
「これ。あんたの?」
持ち上げて尋ねればおずおずとうなずく。
見れば背の高い草に隠されていた彼の右足は、付け根がばっさりと切り取られ、中には黒ずんだ詰め物が見えている。
いや、切り取られたというよりはもげたように見える、接続部分の糸がぶちぶち切れた痕跡がある。
そういえばあたしが持っている脚の先っぽにも、縫い合わせた後ちぎれた糸が飛び出している。
「はい」と差し出したらひょこひょこ歩いて近付いてきた。
脚を受け取って、おっかなびっくり目線をあわせ、彼は「ひろってくれて、どうも、ありがとう。」と言った。
その様子がなんだか―――なんというか、可愛くて、あたしは警戒するのが馬鹿らしくなった。
「どうして脚なんて落としたの?」
「まど、そうじしてたら、おっこちちゃったの。そしたら、おきたら、あし、なかったの。…じょーたろに、くっつけてもらわなきゃ。」
「承太郎?」
聞き覚えのある名前。
母の口から聞いた、この屋敷に住むというマッドサイエンティスト。
「あなたは、だあれ?どうして、ここにいるの?」
「……あたしの名前は空条徐倫。空条承太郎の、娘よ。」
「むすめって、なあに?」
話してるうちに向こうの警戒も解けてきたみたいで、無邪気な目を向けてあたしに聞いてくる。
「あなたこそ、名前はなんていうの?空条承太郎の、何?」
「ぼく、かきょーいん。じょーたろの、えっと、こいびと?それです」

 

それがあたしと、あたしの父親の恋人、動く剥製花京院との出会いだった。