承太郎と花京院

あっさりこどもできちゃう系
 
 

木の枝の先に承太郎が留まっていたので連れて帰ってきた。
黒くて体も大きいし、抵抗されたら諦めようと思っていたのだが、おとなしく手の中に収まり、わたしの家にやってきた。
住処を整えようと、まず籠に入れて部屋に置いておいたら、隣の水槽の花京院が目に留まったようだ。
しきりに鳴いて、体を揺らしてディスプレイしている。
花京院もまんざらではないらしく、水槽の端に寄って来て承太郎のアピールを眺めている。
そこで承太郎を、花京院と一緒に入れて飼うことにした。

 

承太郎はその体格に見合い、かなりの大喰らいである。
ピンセットで虫を差し出すと、あっという間に咥えて持って行ってしまう。
だが花京院の食べるものが奪われてしまうのではという心配は杞憂に終わった。
承太郎は手に入れた餌をまず花京院の元へと運び、求愛のためのプレゼントにするのだ。
出す餌出す餌を花京院へ貢ぎ、花京院がもう満腹だと見向きしなくなった餌を、ようやく自分で食べる。
食事と睡眠の時間でさえも、それ以外も、二匹は常に寄り添いあって過ごしていた。

 

春のある日、承太郎と花京院それぞれの喉付近がオレンジ色に染まっているのを見つけた。
そろそろだ。
数日後、承太郎の鼻面に引っかいたような跡を見つけた。
急いで仮の水槽を整え、承太郎をそこに移す。
承太郎は不満そうに尻尾を打ち付けていたが、こればかりは仕方がない。
今の花京院は気が立っていて、承太郎が相手でも攻撃を加えるのに躊躇しないのだ。
そのうち、花京院のお腹が出っ張り始めてきた。

 

それからしばらくして、土に掘り返した跡ができ、花京院のお腹も引っ込んでいるのに気付いた。
花京院が眠っている間にまわりの土ごと別の容器に移し変え、承太郎を戻してやった。
花京院が起きたとたんに首筋に噛み付いて愛情表現していたが、いつもより優しげだったのは、何が起きたのか承太郎にも分かっているのだろう。
「はじめてだったのに、よくがんばったな」
君たちの大事な愛の結晶は、わたしが責任を持って孵化させる。
そう話しかけてはみたものの、二匹はとっくに自分たちの世界に入って再会を喜んでおり、わたしの話など聞いてもいないようだった。