※話の都合上花京院とイギーが一緒にいますが分かって書いてるので勘弁してください
※まあさすがにここまではないだろうけどひとつの軽いファンSSということで
敵の本拠地エジプトに乗り込んでから、彼らの旅は当然ながら困難を極めることとなった。
刺客との戦闘ばかりではない。
日用品を買ったり、食事を取ったりするのさえ気を張らなければならない。
旅をバックアップしてくれているスピードワゴン財団にも、全てを丸投げして任せるわけにはいかないのだ。
砂漠に助っ人と物資を届けてくれたヘリコプターが落ち、財団のスタッフが二人、無残な死に方をしたのも記憶にあたらしい。
だが、神経を高ぶらせながら現地で大量の医薬品を買い込むというのも難しい。
なるべく目立たないように狙われないようにと、慎重を期して財団から物資を受け取る日々が続いていた。
確かにスピードワゴン財団は、あらゆる分野に手を広げている、世界屈指の財団だ。
訓練を受けたSPのような人材も多く在籍している。
だが目に見えない超能力に襲われる危険にうまく対処できるような技量、あるいはそれに立ち向かおうという勇気のあるものは、それほど多くはなかった。
あのヘリに乗ってきたスタッフだって、貴重なその中の二人だったのである。
あの眼光は、伊達というわけではなかったのだ。
銃も刃物も効かない”水”の前に、為す術がなかっただけなのである。
さて前置きが長くなったが。
これは、そんな旅の一行の、ある日の話だ。
逆探知を防ぐためGPSのようなものを持っていない彼らは、基本的に町の電話で財団に連絡していた。
受話器を置いたジョセフが、少々緊張した面持ちで、待機していた一行のもとに戻ってきた。
「どうした、ジジィ」
「いや、また薬やら何やらが減ったじゃろう。財団のスタッフが、物資を届けてくれるそうじゃ。じゃから…」
「彼らが命を狙われないように気をつけて、場合によっては戦わなければなりませんね」
「そういうことじゃ」
承太郎たち一行に襲い来るのは、そのほとんどがスタンド使いだが、財団のスタッフのもとに来るのは、そうではない普通の殺し屋であることも多かった。
そういう者たちは、承太郎たちには手出しをしようとはせず、財団のスタッフを直接狙う。
そういうわけで、財団から物資を受け取るときには、いつもとは違う気の配り方をしなければならないのだ。
その日町外れで待っていた一行のところにやってきたのは、大型のジープだった。
一行が乗っていた車の鍵が壊されたので(ちなみにそれをしたのはオインゴであるが、一行はケチなこそ泥のしわざだと思っている)車の交換もついでに行うことになっていた。
助手席の扉が開く。
そこから降りてきた人物を見て、一行は目を丸くした。
なにせその人は、財団のツナギを着て目を光らせた屈強な男性、ではなかったのだ。
その人が地に足をつけたとき、ハイヒールのカツンという高い音が鳴った。
砂の混じる風をものともせず、涼しげに髪をなびかせている。
つややかでさらりとした、長い黒髪だ。
腰に手を当ててしゃんと立つ姿はいかにも凛々しげで、適度に引き締まった四肢は、グラマラスながらも肉食獣のような瞬発力を感じさせる。
真っ赤なルージュがよく映える顔にかけられた大きめのサングラスを、彼女は気だるげな様子で外した。
その目はきりりと鋭く、生半可なものでは体がすくんでしまうだろうと思えるほどだ。
皺が刻まれているから、50代ほどだろうか。
だが、老いは微塵も感じさせない。
そう、彼女はとても、美しかった。
ところが、そんな彼女を見て、ジョセフ・ジョースターが「ぐえッ」とカエルが潰れるような声を上げた。
「り、リサリサ先生~~~ッ!!?」
「え」
その言葉に承太郎も反応した。
それから、その女性を無遠慮なほどにじろじろ眺めて、そして
「リサリサひいおばあちゃんか…?」
と言った。
彼女は優雅に口の端を上げた。
「そうですよ承太郎、久しぶりですね。ジョセフも元気そうで安心しました。そちらの皆さんは初めまして。私の名はエリザベス・ジョースター。ジョセフ・ジョースターの母親です。リサリサと呼んでくださいね」
「えっ」
ジョセフと承太郎、ついでに全く興味なさそうなイギー以外のメンバーは、しばし固まった。
それから数秒、言われたことを反芻して、やっと。
「ええええええええ――――ッ!!!??」
最初に動いたのは、ポルナレフだった。
「いやいやいやいや!マダム!冗談きついよ!かさ増ししても60代だろォ~!?」
「私は101歳です」
「え~~~~~ッッ!!!???」
「ま、待ってくれリサリサ先生、なんであんたがここにィ!?」
「なんでも何も、物資を届けに来たにきまっているでしょう。かわいいホリィのためだもの」
「それはありがたいが、ひいおばあちゃん。あんたスタンドは」
「見えないわ。わたしはジョナサン・ジョースター氏とは血が繋がっていないものね。だから悔しいけれど、後方支援ね」
「ちょ、ちょっと待てって、ホント~~~~にジョースターさんのママなの!?姪っ子とかじゃなくて!?」
「ええ、そうよ。あなたたち、ジョセフから波紋のことは聞いていないかしら?」
「波紋なら、わたしたちもよくお世話になっています。傷が驚くくらい早く治るもので」
「そうね。でも波紋は、怪我を治すためだけのものではないわ。太陽と同じ力を得て、人体の能力を引き出すことができるものなの。肉体を若々しく保つことができるように、ね」
その言葉で、一行の視線はジョセフ・ジョースターに集まった。
確かに彼は、69歳とは思えないほど壮健だが、さすがに30だとか40だとかには見えない。
「しッ…仕方ないじゃろ~!波紋の力で戦った相手はもうおらんかったし、わしの嫌いな言葉は一番が努力で二番がガンバルなんじゃぞ!」
ジョセフの言い訳に、しかし、リサリサはふっと優しげな笑みを見せた。
「そうですね。それに、スージーQは波紋の修行をしていなかったものね」
「ああそうか、ジョースターさんだけいつまでも若いというのも…」
アヴドゥルがそう言うと、ジョセフは苦いような照れているような顔をした。
「まあそういうわけだから、わたしは普通の人よりは不測の事態に対処できます。それで今回来たのです。後部座席に食料品と、トランクには日用品を積んであるわ。必要な荷物をそちらから下ろしてちょうだい」
リサリサに言われて、一行は新しい車に荷物を移した。
運転席から財団のスタッフが降りてきて、ジョセフと握手を交わす。
それから、彼とリサリサが前の車に乗り込んだ。
「……幸運を祈っているわ」
「リサリサ先生も、気をつけて」
「あなたに言われなくても大丈夫よ」
そう言って彼女は美しく笑い、少しツンとした華やかな香水の香りだけ残して、町の方へ行ってしまった。
「いやー、びっくりしたなあ。波紋ってあんなに若さを保てるもんなんだな」
「まあ彼女は特にすごい達人なんじゃがな。わしの波紋の先生でもあったんじゃ」
「それで彼女のことを先生と呼んでいるんですね」
「そうじゃ」
アヴドゥルとポルナレフは、まだジョセフにリサリサのことを聞いていたが、花京院は「なあ」と承太郎に話しかけてきた。
「何だ」
「ジョースターさんのお母さんっていうのはびっくりしたけど、君と親族だって聞いて納得した。君、彼女の血が強いんだね」
「そうか?」
「そうだよ。目とかよく似てる。君、顔だけで言ったらあまりホリィさんに似てないと思ってたけど、隔世遺伝というやつかな」
承太郎は肩をすくめ、一行は旅を再開した。
エリザベス・ジョースターを襲った、スタンド使いではない殺し屋が、こっぴどく返り討ちにされたのは、また別の話。