芝居小屋の子供

 

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No.7123

異常なし。

 

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No.7124

異常なし。
Jは餌を良く食べる。

 

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No.7125

異常なし。

 

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No.7126

Pの発情反応が目立ってくる。
次限の通例会議の議題として提出する予定。

 

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No.7127

Pを繁殖施設に一時移転することに決定する。
準備を整え、二限後に実行することになった。

 

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No.7128

異常なし。
Jはまた餌箱をあっという間に空にする。
同種族と比べても明らかに成長が早い。
けれど彼の親も祖父もそうだったので、特異体というよりは遺伝だろう。

 

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No.7129

Pの移転、滞りなく終わる。
飼育施設にJが独りになってしまうのを避けるため、彼らに似せて作られた人形を入れる。
私の目には作り物にしか見えないが、彼らにとっては同種と違わないらしい。
興味深そうに誰何していた。
自由に名前をつけていいと云われたが、面倒なのでJと連番でKと呼ぶことにした。

 

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No.7130

異常なし。
JはKを気に入ったようで、頻繁に話しかけている。

 

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No.7131

異常なし。

 

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No.7132

異常なし。
JはいつもKを抱いて眠る。
年長者が年下のものを世話する時に見られる行為だ。
Jはどうも協調性に欠けると思っていたが、安心した。

 

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No.7133

異常なし。

 

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No.7134

JがKに餌を分け与える行為が見受けられた。
若輩者を世話しているのかとも思ったが、Kにもちゃんと一匹分の給餌をしている。
群れとしての行動ではなく、求愛の可能性がある。
要観察。

 

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No.7135

Jの、Kに対する求愛行動が見られた。
発情するにはまだ若いと思っていたが、どうやら精神面でも成長が早いらしい。
次限の初めに緊急会議をすることに決まる。

 

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No.7136

Jの餌を組み替えて眠らせ、急遽繁殖施設に移動させた。
発情期の異性を宛がったが相手にしない。
それどころか壁を叩いて吼えている。
元の場所に戻せということらしい。
一限様子を見ることになったが、一緒にした貴重な個体を傷つけられても困るので、厳戒態勢だ。

 

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No.7137

Jが壁に打ち付けている前足に傷が見受けられたため、Kの居る飼育施設に戻すことになった。
あれから餌を口にしようとしないし、大変暴れるのでやりにくい。
向こうの「言語」は解析すればなんとか意味は分かるのに、こちらの意思は全く通じないのが不便だ。
戻した途端にまた求愛活動をしだした。
これでは子供が出来ない。
彼らの繁殖の原理もまだよく分かっていないというのに、まったくやっていられない。

 

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No.7138

困ったことになった。
Jがいまだ餌を食べない。
Kが食べてみせては勧めているのだが拒否している。
Jのような個体を失うのは非常に痛い。
私の一存では何とも出来ないので、次限でまた会議を開くしかない。

 

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No.7139

提出用波形記録

・花京院!良かった無事だったか
・じょうたろ…ぁ…ん……は、ァ、ん……は、き、君、手を怪我しているじゃあないか、どうしたんだい
・こんなのはたいしたこたァねえ。それよりお前、やつらに何もされなかったか
・僕が何かをされるはずがないよ。いったい何があったの?
・目が覚めたら知らねえ女と二人きりで小部屋に居た。どうもあいつと子供を作らせたかったらしい
・それで君、何でこちらに戻ってきたの?もう子供が出来たの?
・んな女とヤるわけねえだろ!お前のことが好きだと言ってる。お前を抱きたい
・何を言っているんだい!そんなことを言い出さないように、僕は男に作られたのに!
・なんだと?
・承太郎、承太郎あのね、僕は君に嘘を吐きたくない
・俺だってお断りだ
・あのね、承太郎。僕は人間じゃないんだ
・何?
・僕は所謂、人造人間なんだよ。この単語分かる?
・分かる。だがお前がそうだとは?
・人間ってのは群れで生活するだろう。それでこのコロニーに、君が一人になっちゃうから、僕が作られて寄越されたんだ。これで分かったろう、僕は生き物としてはまがいものだ。僕のことなんか放っておいて、どうか子供を作って欲しい
・なんであいつらはそうまでして、人類を増やしたがる。自分らが滅ぼした種族のことなんか気にしなきゃいいのに
・彼らに人類を滅ぼすつもりはなかったんだ、不可抗力、いや事故だったんだ。彼らは僕みたいな人形は作れるけれど、君たちを強制的に増やすことが出来ない
・お前は人形なんかじゃねえ、血と肉と骨を持った人間だ
・違うよ承太郎、僕は人間じゃあない。血と肉と骨を持ってはいるけど、魂を持っていない
・どうでもいい。花京院、お前が好きだ。愛してる
・僕は愛してない。僕にはそれが何か分からない。さあ承太郎、頼むから食事を取ってくれ…

 

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No.7140

Jの憔悴具合が非常に良くない。
これは降格だろうか。
降格だろうな。
もっと効率よく、この先住種族を増やすことが出来たなら、とっととこの星を元通りにして故郷に帰るのに。
こんなに繁殖能力が弱いというのに、この星に生息する生物は彼らだけだったため、今までは滅亡を免れていたようだ。
だいたいこの先住種族というのがひどく変わっていて、全く異なった生殖器を持つ、つまり初めは全く異なった種族かと思われた「異性」とやらのペアが揃っていないと繁殖できないのだ。
この仕組みがもう、さっぱり分からない。
理解の範疇を超えている。
……いけない、愚痴になってしまった。
Jが「同性」であるKに求愛をするのは、もしかして「異性」のペアでなくとも繁殖が出来るのか?
だがこれは今まで報告されていない現象である。
勿論、サンプルが極端に少ないのではあるが。
なんとかして、Kから離す意思が無いことを伝え、Jに餌を食べてもらわないといけない。

 

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No.7141

Kが壊れた。
いや、順を追って記すべきだろう。
いつものように、KがJへと餌を勧めた。
Jもまたいつものように、それを断ると、Kも餌を口にするのを止めた。
それから数刻の間があって、Kの方からJへと求愛行動が見られた。
Kは人形であるので、おそらくJから受ける求愛行動のコピーであるだけだとは思うが、兎も角Jは喜んでそれを受け入れた。
そこで彼らは繁殖活動を行った。
彼らの種族の繁殖活動というのは体力を削る。
終わった後にJが寝入ってしまってから、Kは一人で飼育施設の建物のひとつに登った。
そしてそこから身を投げた。
特別頑丈に作ってあったわけではないKは、あっさり壊れた。
おそらく、自分の存在がなくなれば、Jが正常な発情反応を見せると思ったのだろう。
起き出してきたJが壊れたKを発見し、それからずっと嘆いている。
今もまだ、Kの残骸を抱いて嘆いている。

 

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No.7142

Jが死んだ。
信じられない。
衰弱死の可能性は散々考慮されていたが、そうではない。
Kが壊れた建物に自らも登り、同じように身を投げた。
ちょうどKの隣に落ちて死んだ。
全く信じられない。
自分で自分の命を絶つなんて、さっぱり意味が分からない。

けれど死んでしまったものは仕方が無いので、Jの死骸とKの残骸を片付けて、施設にはまた別の個体を入れるつもりである。

 

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ブログの形式を利用して何か遊べないかな、と思って、1日1エントリーで書いていました。
人間の丘さんが人外承花を観察する、と見せかけて人外丘さんが地球人を観察していたのでした。