「承太郎、イオン行かないか?」
ここは田舎。
田舎といってもドがつくレベルではなく、ある程度人がいてある程度店があって、そして何よりでかいイオンがある田舎である。
なおイオンというカタカナはイオン化合物などにも使われるため伏せておりませんがあしからず。
ギャグ短編なので導入はカットするが、今二人はでかいイオンがあるレベルの田舎に来ていた。
もはや特に注意もされないが生存院、3部以降4部以前の軸である。
ある程度人のいる田舎は車を出せばまあまあ洒落たカフェなどに行けるが、あいにくここでは二人ともまだ運転免許を取得していないタイミングだったのだ。
しかし田舎のでかいイオンである。
田舎のでかいイオンには駅などから直通の専用バスが出ているので、車が運転できなくとも遊びに行けるのだ。
二人の滞在している家(花京院のおばあちゃんち)から最寄りの駅までは徒歩圏内、そのため冒頭のお誘いが出たというわけである。
空条承太郎という男はイオンに行ったことがなかった。
都内にも小型のイオンやショッピングモールはあるが、田舎のでかいイオンという概念に出かけたことがなかったのだ。
詳しくない読者諸兄姉のためにごく大雑把に説明すると、田舎のでかいイオンというのはラブホテル以外のあらゆる店が全部入っているというショッピングモールである。
なおラブホテルも直営店ではないが隣とか近隣に建っていたりする。
老若男女、マジで0才児からヨボヨボのご老人まで田舎の全住民にご愛顧されているのが田舎のでかいイオンなのだ。
イオンの中には庶民向けのフードコートからまあそこそこ値の張るレストラン、中高生に愛されるプチプラ店からまあそこそこ値の張るジュエリー店、あとゲームセンターも映画館もあり誰でも行けば一日潰せるので、都会のモダンな店とは毛色が違うけど承太郎でも楽しめるだろう、というのが花京院の考えだった。
だが承太郎はイオンに行ったことがなかった。
なかったので、彼はこのお誘いを気合いの入ったデートのお誘いだと解釈した。
いやイオンで気合いの入ったデートをする学生カップルももちろんいるけど、花京院は近所のサ店でだべるデートの延長でお誘いしてたんだけど。
まあそんなわけで、承太郎ってばバッチリおめかししてこのデートに臨んだのである。
ちなみに花京院はYシャツとスラックスだった。
Yシャツはアイロンかけてないしスラックスもぴしっとしてないやつだった。
だがしかし初イオンの彼氏がパリかミラノのランウェイか?みたいなオーラをバチバチにして登場したので、引っ張られて自然と背筋が伸びて彼もシュッとした感じで歩くことになった。
その結果、田舎のイオンに光り輝かんばかりの美丈夫二人が降臨することになったのである!!!
そして二人は店員にしどろもどろで対応され、フードコートでたこ焼きつつき合ってるところをお子さんたちにまじまじ見られ、映画館で舞台挨拶に来た俳優陣だと勘違いされてサインをねだられ、ゲームセンターのプリクラコーナーでお互い初プリクラを体験し、百均の広さにおののき、家具屋のベッドに文句をつけ、くじで決めた小洒落たイタリアンレストランで夕食を取り、足りなかったのでラーメン屋でカロリーを追加して、一日イオンを堪能して帰った。
楽しいデートであった。
おしまい