私と彼らについて

モブ視点おじいちゃん承花…ってほど承花してない。
名前も性別もないけどオリジナルキャラが出張ります。
ほとんど夢小説に近い。
 
 
 
 
 
 
 

私には一人、長い付き合いの友人がいる。
幼稚園(プリスクール)の頃からの友人だ。
友人の名はジョジョ。
本名ではなくニックネームなのだが、今でもこう呼んでいる。
ジョジョにはひとつ変わった癖がある。
それは自分の左の肩、首筋を撫でるということだ。
だが今回する話は、その友人の話ではない。
私と、ジョジョのおじいさんの話だ。

 
 
 

私たちが知り合った頃というのは、私たちの年齢が1桁だった頃のことなのだが、それでも既に、私たちはとても仲が良かった。
ジョジョの家はかなりの資産家で、普通の中流家庭の私の両親は気後れしていたらしいのだが、子供である私たちには、そんなことはどうでもいいことだった。
私はジョジョの広い家でかくれんぼをするのが好きだった。
その日も私は、ジョジョの家に遊びに行っていた。
ジョジョの母親――若くてすごい美人で、私は彼女のことが好きだった――は、いつもおやつを用意してくれて、私たちを好きに騒がせてくれるのだが、その日だけは違った。
彼女はシィ~ッと指を立てた。
「ごめんね、今日はお客さんが来ているから、お絵かきか何か、静かなもので遊んでくれるかしら?」
「お客さん?だぁれ?」
ジョジョは大きな目をくりくりさせて尋ねた。
「ジョジョのグランパよ」
「グランパ!?」
ジョジョは目を輝かせ、私の手を取った。
「行こッ!グランパ、大きいんだよ!」
「……やれやれだわ」
ジョジョの母は苦笑しながらそう呟いたが、私たちを止めることはしなかった。
私ははじめ、『大きい』とは何のことかと思ったのだが、応接間でお茶を飲んでいた彼は、確かにとても大きかった。
後でジョジョに聞いたところ、彼は身長が195センチもあるらしい。
小柄な人が多いと思っていた日本の出身だそうだから、重ねて驚いた覚えがある。
そんな彼だからか、小さな子供からは、本当に巨人に見えた。
彼はニコリとも笑わずに、「ジョジョか。そっちは…友達か」と言った。
ジョジョは彼に、私のことを紹介した。
私は正直、彼のことを怖いと思った。
体の大きさだけではない。
私たちが年端もいかない子供だった頃の話なので、彼は壮年といった年だったわけだが、それにしてもプレッシャーが半端無かった。
雰囲気ももちろんだが、見た目も普通の人とは違っていた。
彼はモスグリーンの大きなコートを着ており、同じ色の帽子を被っていた。
一番目立っていたのは、顔にある傷だ。
それは額から顎にかけて、縦に大きく一本、右目を通って走っていた。
今考えてみても、普通の傷ではない。
何か事件に巻き込まれたのだとしても、上から下まで切れ目ないあんな傷ができるだろうか。
彼の目は鋭く、体には少しの衰えも見えず、もし私が何かマズイことをしでかしたなら、すぐにでも取って食われてしまうだろうと感じた。
だがもちろん、そんなことは現実には起こらなかった。
私が緊張で動けないでいる間に、ジョジョが「グランパ!」と声を上げて、彼の長い足にタックルをかましたからだ。
彼は少しだけ雰囲気を和らげた、ように見えた。
彼は私の祖父が私にしてくれるように、ジョジョの頭を撫でたり抱き上げたりといったことはしなかった。
私が戸惑っているのを見て取り、ジョジョの母が「ほら、お友達と遊んでおいで」と言ってくれた。
ジョジョは朗らかに「うん!またね、グランパ」と言ってすぐに体を離し、私の元へと駆けてきた。
そこで私たちは、彼の前から退散したのである。

 
 
 

次にジョジョの祖父を見たのは、ニューヨークのこじゃれたカフェの中だった。
私だって、何もそんなカフェにいつもいるわけではない。
ちょうど母がそちらの方へ行く用事があったので、ついていったのだ。
私と母は、二人でたわいのない話をしながらコーヒーを飲んでいた。
不意に、周りが少しざわついたので、私と母は顔を上げて、今カフェに入ってきた二人組を見た。
私にはすぐ、ジョジョの祖父だと分かった。
あの体の大きさ、長いコート、そして右目を通る大きな傷跡、間違えようがない。
母はほぅとため息をついた。
「二人とも、すごいハンサムね。もう10年も若ければ、女の子が群がっていたんじゃないかしら」
子供だった私にはよく分かっていなかったのだが、そう、ジョジョの祖父はかなりの美形だった。
ジョジョも綺麗な顔立ちをしているから、不思議なことではない。
そして、彼は一人ではなかった。
もう一人、彼より背の低い男性が一緒だった。
ジョジョの祖父は黒っぽいグレーの髪をしていたが、もう一人は白いものが混じった赤毛だった。
けれどその顔は東洋人のように思えた。
二人は同じテーブルに座り、同じものを注文した。
彼らはとても親密な様子だった。
少なくとも、ビジネスの関係ではない。
「パートナーかしら?」
と母が言った。
私は、違うと思うとは言えなかった。
ジョジョやその母がいるということは、その祖父には女性のパートナーがいる、あるいはいた、という意味なのだろうが、それを指摘する気にはなれなかった。

 
 
 

さて、私がどうして友人の祖父の思い出話などをしているのかというと。
それは、今まさに私の目の前に、その彼らがいるからである。
こうして近くで見るジョジョの祖父は、幼き頃に覚えたものなどとは比ではないほどの威圧感を放っている。
だが、その隣から。
「ほら承太郎、そんなに怖い顔をするんじゃあないよ」
苦笑しながらそう声をかけたのは、あの日ジョジョの祖父と一緒にいるのを見かけた、細身の男性だった。
ジョジョの祖父と同じくらいの年齢に見える。
つまりはもう老人なのだが、二人ともそうは思えないほどしゃんとしていた。
「ぼくとは初めましてだね。ぼくの名は花京院典明。それでこっちが、」
「空条承太郎だ」
「きみのことは、申し訳ないけど書類で読ませてもらったよ。今も…」
「ジョジョと同じ大学に通っています」
「そうらしいね。それで、ぜひ会ってみたいと思ってね。いつもならぼくらが出てくることはないんだが」
「スタッフの人に聞きました。この財団の重役らしいですね」
「不本意ながらね」
花京院さんが苦笑した。
この人はジョジョの祖父、こと空条さんよりずっと柔和な雰囲気だ。
けれど、と私は思った。
眼の奥の光は、空条さんと同じものだ。
きっと彼も、敵に回すと恐ろしい相手なのだろう。
「さて、きみが呼ばれた理由は分かっているかな?」
と花京院さんが言った。
空条さんは射殺さんばかりの視線で私を見ている。
私は神妙に頷いた。
「あの、特殊な超能力のことですよね」

 
 
 

私には生まれつき、不思議な能力があった。
それはひとつの形を持って現れる。
それは私の目にははっきりと見えているのだが、親をはじめ、他の誰にも見えないことに気がついてから、私はその存在を隠すようになった。
何も知らない子供のうちには、ジョジョの前でそれの姿を出してみたこともある。
けれどジョジョの目は、それを透かして私を直接見据えたのだ。
私はそれを、普段は意識すらしないで暮らしていた。
それが、私の命の危機に戦うことができると知ったのも、ごく最近のことだ。
そう、私は先日、死にかけた。
私が入ったスーパーマーケットに、突然覆面の男が三人押し入ってきて、拳銃をぶっ放したのだ。
店員はおとなしく金を用意したのだが、男たちは何か薬物でもやっているのか、挙動が怪しかった。
男の一人が無駄に銃を振り回して、それは私を狙った。
―――気がついた時、周りは飛び散った食品や日用品でぐちゃぐちゃになっていた。
そしてその中に、例の三人の男が、血まみれで倒れていた。
他に人間はいなかった。
私は這うようにしてその場から逃げた。
家にたどり着いてテレビを見ると、スーパーには強盗が押し入ったものの、彼らの持っていた小型爆弾で自滅してしまったことになっていた。
私はつい、そんなわけない、と叫んでいた。
彼らは爆弾など持ってはいなかった。
私がこのことについて、深く考える時間はなかった。
30分もせずに、私の元へ、スピードワゴン財団のスタッフと名乗る黒服たちがやってきたからだ。
私は初め、そんなうさんくさいものとっとと追い返すつもりだったのだが、
「あなたの超能力についてお話をさせていただきたい」
と言われては、首を横には振れなかった。
さらわれるようにして私が連れて来られた先は、大きな大きなビルだった。
受付も広い。
案内された部屋も広い。
出されたお茶もうまい。
私はすっかり萎縮していた。
お茶がぬるくなるより前に、扉が開いた。
入ってきた人物を見て、私は「あっ」と声を上げた。
そう、それがジョジョの祖父と、見たことのあるもう一人だったのだ。
そして先ほどまで戻る、というわけだ。

 
 
 

私の前に座っている花京院さんが身を乗り出した。
「早速だけれど、君のスタンドについて話させてもらってもいいかな?」
「スタンド?」
「ああ、ぼくたちはこれのことを、『そばに立つもの』からスタンドと呼んでいるんだ」
そう言って彼は、右手を持ち上げた。
私は驚いて目を丸くした。
その指先から、しゅるりと緑色の光るものが姿を現したのだ。
それはどんどんと伸びてゆき、ひも状のものが固まって、緑の人型の異形になった。
「えっ、えっ!?」
20年生きてきて、私が自分以外のそれを目にしたのは初めてだった。
そこで私は、花京院さんから『スタンド』についての説明を受けた。
私には、他の人もこれを持っていることが、もう衝撃だった。
花京院さんはそんな私に笑みを見せた。
「ぼくもそうだったんだ」
彼も生まれついてのスタンド使い(超能力者のことをこう言うらしい)とかで、彼の説明はすんなり納得できるものだった。
これは、『普通』の人は持っていないし、見ることもできない。
だからといって、私たちが『特別』なわけではない。
少し足が速いとか、目が良いとか、そのくらいのことだ。
とはいえこれは、使いようによっては危険なものにもなりうる。
だから、これを制御することを学ばなければならない。
「そして、この財団では、その手助けをしているんだ」
なるほど、と私は思った。
スタンドが、私のそれのように、ただひっそりと存在しているものばかりとは思えない。
いくらでも悪事に利用できそうだ。
そういったスタンド使いたちに対抗する組織というのが、ここなのだろう。
「それでは、その、もしかして空条さんも……」
私は彼に顔を向けた。
彼は小さく頷いたが、目は私から離さなかった。
「ぼくも承太郎も、もうとっくに引退しているのだけれどね。きみが…」
「ジョジョの友達だから?」
「そうだ」
花京院さんはニコリと笑った。
彼の顔にも、大きな傷がある。
彼のものは、両の目を切り裂くように縦に二本走っている。
きっとそれは、事故ではないのだろう。
私は彼らに、この組織に通ってスタンドのコントロールを学ぶことを約束させられた。
二人の老兵――それも現役に未だ引けをとらないであろう――を前にして、断ることなどできそうもなかった。
私としても、それは歓迎できることだったのもある。
そも、この『スタンド』を見ることができる人がいる、その人たちと会える、これだけで私がここへ来る大きな理由になる。
空条さんは一言も発さずに私を見ていたが、花京院さんは少しだけ、苦そうに笑った。
「きみの気持ちはよく分かるよ。だが気をつけたまえ。スタンド使いが皆きみのようではないし、ぼくたちのようでもない。この財団のスタンド使いは、色々なテストをパスした人たちだが、だからって100%安全とは言えないかもしれない」
私は深く頷いた。
「そうですね。そしてあなたたちは、『ジョジョの友達』がスタンド使いであったことにショックを受けているし、ジョジョに害をなさないかと心配している」
空条さんは一切表情を変えなかった。
花京院さんは目を細めた。
「そう、ぼくたちが無理を言ってきみに会わせてもらったのは、そこが一番だ。ぼくたちは…」
「ジョジョは大事な友人です」
私は、彼らの望みが口に出される前に声を上げた。
「ジョジョと離れるつもりはありません。週イチでここに通うのに異論はありませんし、スタンドの制御方法もきちんと学びます。スタンドのことは……ジョジョには言いません」
そこで初めて空条さんが動いた。
彼は首の後ろ、左肩の辺りを撫でた。
「それならいい。何かあったとしても、あいつを巻き込むな」
「もちろんです」
「……承太郎」
花京院さんはまだ何か言いたそうだったが、空条さんの目を見て「仕方ないな」と肩をすくめた。
空条さんは口の端を持ち上げた。
最強にカッコいい。
「その点については、きみとわたしたちでは意見が一致しているようだ。何かあったらこの財団まですぐに連絡しなさい」
「そうさせてもらいます」
私は右手を差し出した。
空条さんは少し驚いたような顔をしたが、握手に応じてくれた。
こうやって私たちは、秘密を共有する一種の仲間になった。
私の最重要ミッションは、ジョジョの身に危険が及ばないようにすることだ。
私はもとより、そのつもりだった。
一生をかけてそうする予定だ。
だから、早くあの二人に認められるスタンド使いになろうと心に決めたのだ。

 
 
 

それにしても、ジョジョの祖父に、ジョジョと同じ癖があったとは知らなかった。
昔、気になって尋ねてみたことがある。
ジョジョは確か、「マミィやグランパがここを見るから」と言っていた。
それで私も、その場所を見せてもらったのだ。
ジョジョのそこは、綺麗な肌があるばかりで、傷もアザも、何もなかったことを覚えている。

 
 
 
 
 
 
 

花京院おじいちゃんは「わたし」を経た上での「ぼく」かなって…
徐倫とエンポリオが全て断ち切ったのでジョジョには因縁のアザもスタンドもありません。