白露の午後

女体化花京院で白痴で他部ジョジョ子供ネタです。入れすぎや。
しかも承太郎の出番はたいへん少ないっていう。
 
 
 

楽に落とせる、と思ったのだ、彼女を初め見た時は。
まずもって、彼女は両手がふさがっていた。
というのは、両の手で二人の子供の手を握っていたからだ。
子供は一人が小学校の高学年くらいの見た目で、母親と繋いでいない方の手に、スーパーの袋を下げていた。
前髪を束ねて固めているのが、リーゼントのような形になっている。
もう一人の子供は、小学校の低学年くらいか。
子供は彼らだけでなく、彼女には背中にも赤ん坊を背負っていた。
しかもその上、下腹の膨れた身重ですらあった。
どう見ても、素早く動けるわけはない。
その証拠に彼女は今まさに、小さい方の息子に手を引かれるようにしてフラフラと歩いている。
肩から下げているバッグは、そう高級なものには見えないが、スーパーで買い物ができるだけの金が入っているのは間違いない。
これ以上ないカモだ、と男は思った。
そしてその顔ににこやかな笑みを貼り付け、ゆっくり彼女に近付いた。
「すみません、」
男が用意していた次の言葉を言う前に、「なんですか」と鋭い声が、腰の下の方から入った。
見れば、母親の手を引いていた子供が、10にも満たないような外見に似つかわしくないほど顔を歪めて、警戒心も露わに頭上の男を睨みつけている。
もう一人、年上の方の子供も、なかなかに端正な顔の、今はその目を釣り上げて、男と母親の間に体を割り込ませている。
その小さな体で、まるで彼女を守るかのようだ。
そんな二人の様子に、男は一瞬たじろいだ。
けれど、ふっと顔を上げてみると、肝心の母親はなんだか間の抜けたような表情で、ぽかんとこちらを見つめている。
その様子に少々元気づけられて、男は笑みを取り戻した。
「いえ、ちょっと道を聞きたいと思いまして。この辺りには不慣れなものですから、」
「だったら交番に行ってください」
きっぱりと撥ねつけるような声は、やはり彼女からではなく、年端もいかない小さな子供から発せられた。
「交番は、ここから2ブロック先の角を右に曲がって少し歩くと出る道路沿いにあります。すぐですよ」
「でも、その、お母さん…」
救いを求めるように母親に目を合わせると、やっぱり彼女はなんだかよく分からないというような顔をしていた。
「えと、こうばん?ぼく、みち、おぼえられないから、しらない。いつも、はるのにつれてきてもらう」
まさか、と思った。
まさか、この女、白痴か。
そう考えると、目の前の光景が一気に異様なものに見えた。
女は年若く、まだ20代前半に見える。
ほとんど知性の感じられない表情だが、顔そのものはなかなかの美人だ。
色素の薄い髪が、片方だけ長めに垂れている。
その女が、両手にいくつも年の離れていなさそうな息子を二人、それから背中に赤子を一人、そしてもうだいぶ大きな胎児を身ごもっている。
こんな白痴の女を好きにして、ガキを孕ませ続けているのは、一体どれほど非道な男なのだろう?
だが、と彼はかぶりを振った。
頭が弱いのなら好都合だ。
どれだけ威嚇されようが、子供が相手では負けることはない。
男は、彼女らを油断させる計画を変更し、力づくで目的を果たすことにした。
何の予備動作もなく女を突き飛ばし、ハンドバックを無理やり奪い取る。
受け身も取れず尻餅をついた女には目もくれず、全速力で逃げ出した。
「やったぜ、ざまァ見ろ、おつむが足らないからこうな」
男は突然、足首に鋭い痛みを感じてそこを見た。
ああ一体、どうして住宅街の真ん中に、こんな毒々しい色をした蛇がいるんだ!?
男がパニックになって倒れたところへ、ゆっくりとした足取りで、年下の方の少年が近付いてきた。
「返してもらいますよ。まったく、これだから……今から病院に駆け込めば助かるかもしれませんね。でもまあ、二度と母さんの前に現れないことです」
男はひゅうひゅう言いながら必死で携帯電話を取り出そうとしていたから気が付かなかったが、地面に倒れた時に怪我をしたはずの女の掌や膝は、年かさの方の少年がうずくまると同時にすっかり消えていた。
そしていまは、彼女がおぶっていた赤ん坊が、突然の出来事に驚愕してギャンギャン泣きわめいている。
その声を聞きつけたのか、なにやら高級そうな車が彼女の横に停まった。
すっかり動転して、手足の先も痺れてきていた男は、車から降りてきた人物が、自分の方に向かってきているのを感知することはできなかった。
その人物が地を這うような低い声で、
「やれやれ、気絶寸前か。俺の分がほとんど残ってねえじゃあねえか」
と言ったのも、聞こえてはいなかった。