境界にて

2010年ハロフィンもの。会話メインの小話。

 
 

花京院は白いシーツを被って飛び出しました。
緑の鱗に黄色い目、太い尻尾が地面に一本線を描いています。
花京院が戸口に立ちシーツから長い前髪を飛び出させて定型文を口にすると、大人たちは笑ってお菓子を持たせてくれました。
それらを頬張りながら共同墓地へと向かう途中、何人かの少年少女が歩いているのとすれ違いました。
彼らは横目で、一人きりで歩く花京院を見やります。
花京院には示し合わせて近所を回る友達がいませんが、そんなのは気にすることじゃあありません。
もしかしたら彼らは、花京院がハロウィンのお菓子をもらうには少し年を取りすぎているのが気になったのかも知れません。
けれど背が伸びても声変わりがきても、この夜の行事を止めるわけにはいかないのです。

 

共同墓地に到着すると、その柵の上には人影が見えました。
「承太郎!」
花京院が名前を読んで駆け寄れば、彼は振り向いて笑顔を見せました。
承太郎は硬く大きな爪と鋭く尖った牙を持っており、耳まで黒い毛で覆われています。
彼は青い舌を覗かせながら笑い、花京院を迎えて抱きしめました。
「承太郎!会いたかったよ」
「俺もだぜ、花京院」
出会った頃は花京院より小さかった承太郎も、今ではすっかり大人の体格になり、まだあどけなさの残る少年らしい顔つきだけが裏切っています。
けれどそれも、あと数年もしないうちに消えるでしょう。
その事実になんだかいたたまれなくなってしまって、花京院はうつむいて承太郎の横に座りました。
去年までだったら、満面の笑みを見せて承太郎の手を取り、一緒に家々を回って菓子を集めたものなのですが。
「どうした?」
声をかけて、承太郎は花京院の髪を撫でました。
暗くてよく見えませんが、明るい変わった色をしています……ピンクでしょうか?

 

「ねえ承太郎、君はどこに住んでいるんだい?通っている学校は?……僕と、明日は会えないの?」
「俺だって明日もお前と会いたい。だがお前だって、どこに住んでるとかどの学校に通ってるとか、言わねえだろ」
花京院はぱっと顔を上げて承太郎を見ました。
「それは…だって……」
口ごもり、そのまま黙ってしまって、花京院は承太郎の肩へと頭を乗せました。
「君に会えなくなるんだったら、大人になんかならなくていいのに」
「そういうわけにもいかねえだろ。だが…ハロウィンの夜に出歩くのは、もう無理かもしれねえな」
「僕…僕はそんなのは嫌だ。君に会えない364日、ずっと一人で耐えているのに!僕は……君のことが好きなんだ」
花京院は黄色い目を潤ませて承太郎に言い募りました。
「…そんなことを言っちゃあいけねえ……俺はお前が思っているようなやつじゃあねえぜ」
「僕がきもちわるい?僕のこと嫌いになった?」
「そうじゃあねえ、ただ、俺は…お前には釣り合わねえって言ってる」
「やっぱり僕がきもちわるいんだ!」
「違うっつってるだろ!」
承太郎が突然声を荒げたので、花京院はびっくりしてしまいました。
花京院が固まったままでいると、承太郎は彼をきつく抱きしめました。
顔に押し付けられる形になった承太郎の首筋の毛は、黒くて硬くてふさふさしていて、そしてとても暖かいものでした。
変装グッズの素材だとは到底思えません。
「俺はお前に隠し事をしているんだ。もう会ってもらえないだろう重大なことだ」
承太郎は搾り出すように言いました。
花京院は、なんだかぽんやりしたまま、
「それは、君が本当にモンスターだということ?」
と聞きました。
承太郎はとっても辛そうに「ああ」と肯定しました。
が、花京院が腕の中でくすくす笑うので驚いて体を離しました。
その上彼がいたずらっぽく笑って「僕もだよ」なんて言うものですから、目を見開いてまじまじ花京院を見つめました。
ですが、花京院の頬や尻尾にぺたぺた触って緑の鱗が本物だと確認できたらやっと笑って、冷たいおでこにキスをしてくれました。
そしてそのまま手を繋いで、森の中の承太郎のおうちと砂の下の花京院のおうちに挨拶に行き、それから楽しく過ごしましたとさ。