殺すつもりで卑怯な手を使って襲い掛かって、命を懸けて助けられた。
理由を問い詰めたら優しくはぐらかされた。
だけれど花京院は気付かない。
普通を求め特殊を避け生きてきた花京院は気付かない。
自分が恋に落ちたなんて。
一目見て暗いまなこが気になった。
助けたら付いてきて、色々な表情を見せた。
だけれど承太郎は気付かない。
今まで心を動かすものがなかった承太郎は気付かない。
自分が恋をしているなんて。
話していると楽しい。
話題はくだらなくて十分だ。
彼が笑うと嬉しい。
何故だか自分も笑みが漏れる。
そうかこれが友達か、と思って更に嬉しくなった。
初めて手に入れた、肩を並べられる相手。
毎日毎日が非日常。
承太郎の手を引いて敵の攻撃を避けさせたときも、
負傷した花京院を抱き上げて逃げたときも、
押しつぶされそうな不安と怒りが何より大きかった。
これを失うなんて、考えただけで!
吐き気を催すほど気分が悪くなる。
だけれど二人とも気付かない。
自分と世界の生死を左右する旅に、
その強く大事な仲間意識の為に、
お互いがただ一人を求めていることに気付かない。
承太郎が大事な祖父を蘇らせたとき、大事な連絡が入った。
大事な花京院が死んだというのだ。
大事な死骸が片付けられたというのだ。
あのときのことは、正直覚えていない。
気が付いたら日本にいた。
花京院と出会った日本にいた。
承太郎ひとりで帰ってきた。
花京院の死骸は見ていない。
知らないうちに埋葬されていた。
葬式には出なかった。
出てはいけないと思った。
承太郎の体は時を重ねた。
いつの間にか進学していて、いつの間にか研究者になっていた。
いつの間にか結婚していて、いつの間にか娘がいた。
妻を愛してみたし、娘をいとおしく思ってみた。
それはある程度成功したが、離婚を言い渡されるくらいには伝わっていなかった。
そういえば祖父の隠し子にも会った。
そういえばいくつかの事件が起きていたし、そういえば殺人鬼も追い詰めた。
でもそいつを叩きのめしたのは承太郎ではない。
そんな気力はどこにも無かった。
そういえば、そいつは事故死した。
大事な娘が刑務所に入ったというので会いに行ってみた。
資料が届いていたことに気が付いたのは裁判のずっと後だ。
そこで承太郎は死んだ。
気付いたら生き返っていて、他にすることも無かったので、娘を助けに行った。
そこで承太郎はもいちど死んだ。
最後にあの宿敵を示唆されて、大事なものが奪われる感触を思い起こさせられて、
何かひどく久しぶりに心を揺さぶられたが、結局負けて終わった。
それでお仕舞いだ。
承太郎は最後まで、あの日々に持った感情が何か気付くことはなかった。
だってそれは花京院と一緒に死んでしまったから。
それが何か判別する前に、全部ごっそり持っていかれてしまったから。
世界は一巡したけど、そこにいたのは承太郎じゃない。
承太郎のおはなしはもう17のときに終わってた。
私の根本的な承花像。