1986年1月、エジプト、カイロ。
世界が巡ったそのあとの、とある世界線。
ジョースターの一族を根絶やしにせんとするDIOの住む館は、そのジョースターの筆頭であるジョセフ・ジョースターとその孫空条承太郎、及びその仲間たちに包囲されていた。
「出てこいDIO!その首落として体を返してもらおう!」
「き、貴様らはジョースター!!いくらなんでも早すぎる、どうしてここが分かったのだ!?」
「簡単なことよ!わしらはDIO、貴様のSNSから住所を特定したのだ!!」
「何ィ─────ッ!!!」
そう!
ここはちょっとだけインターネットの普及とSNSの発展が早い世界だったのだ!!
大西洋からDIOと名乗る吸血鬼が蘇った。
それは100年の昔にジョナサン・ジョースターが死闘の末に海に葬った義弟であり、人の世に災いをなすものである。
これらの調査はスピードワゴン財団の優秀なスタッフたちがDIOの棺桶発見の報から1年もたたず終わらせていた。
ではなぜ、オリジナルの世界線では討伐の旅路の出発までに4年を要したのか。
理由は様々あるが一番大きなものは『DIOの居場所が不明だったから』である。
はじめジョセフは、当時まだローティーンだった承太郎をこの件に巻き込むつもりはなかった。
だがDIOの居場所を掴むのに苦労しているうち承太郎が成長してスタンドを発現したらしいと報告されたため日本に赴き、そこでスタープラチナの活躍によってアスワン・ツェツェバエを見つけたというわけである。
だがここはインターネットが発達した世界。
電話より遥かに連絡を取りやすいアプリもあるし、そういうものが好きな身内もいる。
具体的にはスージーQ・ジョースターとホリィ・ジョースターである。
トークアプリで毎日のように家族の話をしている彼女ら経由で、承太郎はジョセフが人探しをしていること、波紋のこと、最近波紋とは別の不思議な力に目覚めたこと、それは知り合いの占い師いわくスタンドと呼ばれていること……などなどを普通に知っていた。
スタンドとは意志の力であり、本人の認識が大きく作用する。
そういう力が『ある』ことを『知って』いた承太郎が、オリジナルの世界線より数年早く己のスタンドを発現させたのも当然のことであった。
スタンドとは闘争心で操るもの。
母さんの手料理がいいな、とかなんとか言っていた承太郎であったが、スタンドという精神に影響されてちょっと早くグレた。
ついでにいうと世界の修正力とでもいうものによって花京院と知り合った。
ちなみに世界中を旅していたポルナレフもニューヨークでジョセフとアヴドゥルに会っているし、イギーも見つかっている。
エジプト旅行前の花京院はDIOに洗脳されておらず、よって承太郎に命を救われてはいない。
だが彼は初めて得たスタンドの見える友人に心を許しており、承太郎も生まれながらのスタンド使いである花京院を信頼していた。
それで承太郎は花京院に、スタンド能力に目覚めた可能性が非常に高いDIOという吸血鬼を祖父が探していることを伝えていた。
こうして花京院はとても有益なアドバイスをしたというわけだ。
「ツイッター(改名前)で探してみてはどうですか?」
彼はツイ廃だった。
インターネットの発展が早いとはいえ1980年代である。
SNSはまだ年若い学生たちか重度のギークだけが使うものと思われており、企業の連携サービスなどもほとんど存在しなかった。
そのためSPW財団の調査が及んでいなかったのだ。
それはジョセフも同じで、花京院のアドバイスを得てはじめてハーミット・パープルをパソコン(重くて分厚いやつ)に叩きつけた。
場所は日本、同席者は承太郎とアヴドゥルである。
その結果──
「おいじじい、これがDIOなのか」
「……暗くて見づらいが肩に星型のアザがある。祖父ジョナサンの肉体を奪ったDIOと見て間違いないだろう」
「わたしがカイロで出会ったのもこの写真の男でしょう。ただ……」
「SNSにほぼ全裸の自撮り写真を上げてる人、シンプルに嫌ですね」
DIOのアカウントは拍子抜けするほどあっさり見つかった。
身につけたばかりのハーミット・パープルによってパソコンの大部分と引き換えに画面に映し出されたきわどい写真のキャプションには、自撮り写真である旨はっきり記されていた。
特に鍵もついていない。
ちなみにアカウント名は『♡D☆I☆O♡』だった。
『†』で囲ってないだけまだまし。
「あー、それで……ここからどう探るんじゃ?」
「えっと、まず無事なパソコンでこのアカウントを表示してもらって、写真のデータに位置情報が含まれていないか確認しましょう。それから並行して他の投稿も調べて、地名や店名などを呟いていないか、あるいは町が写った写真がないかなどを探りましょう」
「なるほどのう」
「花京院は詳しいのだな」
「まあ普通の人よりは。実はこう見えてゲームの動画などをアップしているんですよ」
「どうが……?」
「おれも見たい」
「えっ、友達に見せるのはちょっと恥ずかしいんだけど」
そんなこんなでDIOのSNSアカウントが見つかり、隠れ家も特定され……ようとしたところで思わぬ事件が起きた。
DIOのアカウントが凍結されたのである。
まあでも当然の結果だったかもしれない。
だってDIO、きわどいを通り越してアウトな全裸自撮りも上げてたし、今日の餌☆みたいなキャプションで横たわる女性の写真も上げてた。
画質の荒い写真ではあったが、この女性死んでね……?感はあった。
BANされるのもやむなし。
凍結までの時間でDIOがおそらくエジプト付近にいるのでは、というところまでは絞られていた。
だがエジプトといっても広い。
ジョセフたちは旅の準備をしつつ、引き続きSNSでもっと詳細な情報がないか探っていくことにした。
「これ、もしかしてDIOの取り巻きではないでしょうか?」
SNSに強いスタッフを新たに加入させた調査班から連絡があったのは、まさに日本を発つ飛行機に乗り込もうというところだった。
信憑性の高そうな情報ということで、地上とまともに連絡が取れなくなる(当時基準)飛行機は急遽キャンセルし、空港のVIP用ラウンジで話し合いをすることにした。
これによって刺客を一人スルーしたことは彼らには預かり知らぬことである。
財団の情報によると、それらしいアカウントを見つけたのはツイッターではなくインスタグラムでのことだった。
ここで整理しておくと、DIOの配下は大きく3つのタイプに分けられる。
1つ目は肉の芽を埋められて洗脳されたもの、次に金で雇われた殺し屋、そしてDIOの信奉者だ。
もちろんこれらの複合タイプも多く、金で雇われたが知らないうちに肉の芽が埋められていたタイプや、DIOを尊敬してはいるが心底崇めているわけではなく金払いの良い理想の上司くらいに思っているタイプなどがいる。
今回見つかったのは3番目のタイプだった。
アカウント名は『レよ″レニʖˋ』、読みにくいがこれで『ばにら』と読むらしい。
一見いわゆる病み系女子のアカウントのように思われた、が。
「?これがどうして怪しいということになるんじゃ?」
「暗い写真に分かりづらいタグばかりですな」
「いえ、ぼくには分かります。これらの写真は……匂わせ!!」
「匂わせってなんだ」
「簡単に言うと、恋人がいるとはっきり言わずに写真の映り込みや曖昧なタグで恋人の存在を示唆することだよ」
そのアカウントも、自分がDIOの館にいるとか雇われているなどの情報は載せていなかった。
だがよく見ると複数の写真にそれっぽいものが写り込んでいるのだ。
なんか変な腰紐つきシルエットとか、なんか変な形の靴の先だけとか、なんかワインというより血液に見える液体で満たされたグラスとか。
「つまりこれは……DIOの厄介な信者のアカウント!餌になっていないということは配下でしょう」
「なるほど!よし、このアカウントの発信源を探るんじゃ!」
こうして彼らは新たな手がかりを入手した。
DIOに対してマヂゃみ……しているアカウントは正直ちょっと気持ち悪かったが、間接的な表現ばかりだったためBANは食らわなかった。
それでDIOの館の詳細な所在も分かり、スターダストクルセイダースによるDIO討伐RTAが開催されたのであった。
日本からエジプトへ向かう旅は易しいものではない。
しかし出発がめちゃめちゃ早かったこと、調査の時間が超短縮されたことにより、その旅路はオリジナルよりはるかにさくさく進んだ。
そもそも刺客が少ない。
花京院やポルナレフは洗脳されていないし、雇うのが間に合わなかった殺し屋や配置をミスった部下も多い。
エンヤ親子やンドゥールなど、それでも苦戦した敵もいたが十分少なかったと言っていい。
道中でポルナレフとイギーも合流し、スターダストクルセイダースは超スピードでDIOの下へたどり着いた。
ちなみにテレンス・T・ダービーとヴァニラ・アイスもするりと撃破できていた。
テレンスは花京院がSNSをブロックしていたマナーの悪いゲーマーだと判明しブチギレたことによって、ヴァニラは自分のアカウントがDIOの居場所を突き止められる原因になったと知って茫然自失の状態になったのであっさり倒された。
南無三。
そして冒頭に戻る。
さてここからは肝心のDIOとの戦闘であるが、RTA旅であった影響が一番大きかったのは何を隠そうこのDIO戦であった。
思い出してほしいが、DIOもといディオ・ブランドーは生まれながらのスタンド使いではない。
ジョナサン・ジョースターの体がある程度馴染んでスタンドが発現してからも、すぐに制御できたわけではなくはじめのうちはハーミット・パープル亜種のような能力だった。
ザ・ワールドとして形が固まってからもエンヤ婆による指導のもと時間をかけて訓練することでようやくものにしたのだ───時を止める力を!
「ちょ、ちょっと待て!このDIOはまだ……」
「問答無用!行くぞDIO!」
「覚悟はできてんだろうな!」
「ムゥン!」
「すでに半径20メートルを包囲しています!」
「キャン!」
「……やれやれだぜ」
「URYYYYYYYYYYY!!!」
ザ・ワールドはただ殴るだけでも十分に強いスタンドだが、時止めの能力がない状態で1対6は流石に多勢に無勢。
承太郎と花京院がまだ中学生なのを差し引いても、熟練のスタンド使いであるアヴドゥルとイギーの健在でお釣りが来る。
DIOはこうして倒された。
悪(吸血)鬼、滅殺!
パキスタンのカラチ近くの町の人たち(エンヤ婆の犠牲者)!
ヘリコプターのパイロットたち(ンドゥールの犠牲者)!
終わったよ……