君に会えるまであと24時間

いきなりで悪いんだけど、私はモブである。
そしてここがフィクションの世界だと知っている。
何を言っているのかって?
まあ落ち着いて、あれを見て欲しい。
「JOJO!今日は私と帰りましょうよ!」
「ちょっと何くっついてるのよブス!」
「ええ~私と帰ろ!」
「やかましい!」
「「「きゃあ~~~!!」」」
ね。
空条承太郎がクラスメイトなんだよ。
知ってるでしょ、ジョジョ第3部の主人公。
ここがフィクションの世界でなくてどこなんだ。
彼の存在に気付いたとき、私はやば……近寄らんとこ……と思った。
いや勘違いしないで欲しいんだけど、彼のことが嫌いだとかそういうことではない。
ちょっと考えてみて?
ジョジョの世界はモブに厳しい。
めちゃくちゃ厳しい。
特に友人とかじゃなくても、少し位置が近かっただけでスタンド攻撃に巻き込まれて死ぬんでしょ。
知ってるんだからね。
これが例えばコ○ンの世界だったら、殺人事件の犯人でも被害者でもないモブはたとえ爆発事件に巻き込まれても80%以上の確率で生還できる。
恨みさえ買っていなければモブには優しいからね。
でもジョジョは違う。
愛らしい犬や猫でも容赦なく死ぬんだから、メインキャラと会話したモブとかほぼ死ぬでしょ。怖すぎ。
絶対近寄らんとこってなるの分かるでしょ?
まあ空条承太郎は実際に見ると2次元だった頃の5億倍は美形だから、スマホでも持ってたらこっそり写真くらいは撮ってたかもしれないけど、ここ昭和だから。
ガラケーすらない時代だから。なんてこった。
ポケベルはあるけどまだ高価で、お金に余裕のある社会人しか持ってない。
もうちょっとしたら安くなるはずだけど、それでもカメラ機能はついてないし。
去年発売された使い捨てカメラみたいなのもあるけど、シャッター音するしみんなのJOJOにそんなの向けてたら親衛隊に殺されるでしょ。無理。
平成生まれのオタクには厳しい世代です……。
あとね、老害がよく「昔は良かった」って言ってたけど、幻想に過ぎないのがこっち来て分かった。
理由はいろいろあるけど、個人的には喫煙事情。
分煙みたいな概念はないに等しいし、歩きタバコと吸い殻のポイ捨てもごく普通のことだ。
自動車の排気ガスも平成よりきついし、全体的に昭和は汚い。
でも私はまだマシな方だろう。
これで例えば戦国時代なんかに飛ばされてたら、人の命がコメより軽いんでしょ?こわ。
しかも一日二食で大抵の調味料はメチャ高価なんでしょ??飢えて死ぬ。
過去にトリップなんていいことないね。
ところで平成の次の年号が発表される直前に多分死んでこっちに来たんだけど、あれどうなったの?
……いや私のことはいいんだよ。
とにかく空条承太郎からは距離を取って生活してたんだけど、ある初冬の日から彼は学校に来なくなった。
元々サボりがちではあったけどぱったり登校してこなくなったので、親衛隊の女子や自称舎弟の男子は心配してた。
人望あるんだな空条承太郎。
主人公になるくらいなんだからそれはそうか。
でも私は知ってた。
3部スタートですね分かります、というやつだ。
心配しなくてもちょっとしたら帰ってくるよ。
実際2ヶ月くらいで彼は復帰してきた。
だから問題はそこじゃない。
ジョジョ風に言うとそこじゃあない、か?
自分語りに戻らせてもらうと、私はジョジョの原作を読んでない。
あっ石投げないでごめんなさい。
どちらかというとイケメンより可愛い女の子が好きでな。
百合豚だったんです私。
BLも嫌いじゃないけど。
でもストーリーは普通に面白かったから、アニメは第1部から第4部までリアルタイムで見てた。
くそ、5部も見たかった……。
あのアニメシリーズは、少しの改変はあったけど丸々カットされたエピソードはなかったと聞いた。
だからまるきり知らないエピソードや全然分からないメインキャラはいないと思う。
てかエピソードカットなしとか普通にすごいな、羨ましい。
その情熱をちょっとでいいから封神○義にも分けてやってくれ。
え、ジョジョで好きなキャラ?
リサリサ先生とマライアと由花子さんです。
でさ、第5部以降は見てないから知らないけど、でも私は第3部のラストはきちんと見たわけよ。
誰がどこでどんなふうに死んだのかは知ってる。
ポルナレフは長生きしろよ。
えっと、だからね、私のこの気持ちが分かってもらえると思うって話だ。
つまり、学校に復帰してきた空条承太郎が転校生として花京院典明を連れてきたとき、首を傾げたこの気持ちのことなんだけど。

花京院典明も第3部のメインキャラであるからして、不用意に近付いたらモブ厳で死ぬ、知ってる。

しかし第3部と第4部の間にそんなやべースタンドバトルが起こることがあるのだろうか?
ここは杜王町じゃないから町の人間が突然スタンド使いになってモブを巻き込み大暴れ、ということはないだろう。
モブ的に一番やばいスタンドは無差別型のチープ・トリックだが、あれに似たスタンドがこの時代のこの場所にいるとは思えない。
空条承太郎と花京院典明はめちゃくちゃ目立つし、いつだって生徒たちの噂の的だったから、近寄らなくても動向を確認することはできた。
彼らはものすごく平和に学校生活を送っているらしい。
花京院典明生存ルート……平和な学園モノ……?
あっっっっっっ分かった!
ここ、フィクションはフィクションでも二次創作フィクションの世界だな!?
しかも多分あれだろ、承花小説だろ!!!
私は興味がなかったから積極的に摂取はしてなかったけど、存在は知ってる。
3部アニメ放送中はpi○ivのランキングにも載ってたからな。
4部アニメが始まってからはタイムラインにもたまに承花クラスタの幻覚(4部に大人の花京院典明がいるやつ)が流れてきたしな。
承花には詳しくないが学園モノのお約束なら分かる。
空き教室とか屋上とかでイチャイチャするんだろ!知ってる!!
ぜって~~~~~~近付かね~~~~~~~~!!!!
これで私が空条承太郎か花京院典明のどちらかに恋慕するモブなら見せつけイチャイチャなどが開催されるのだろうが、そういうことはないわけで。
いやBL苦手じゃないけど自ら進んで現実の目撃モブにはなりたくない。
唯一の救いは、イチャイチャ目撃モブなら98%生きて帰れることだ。
スタンドバトル目撃モブなら危なかった。
はあ……もうマヂ無理……転校したい……親に授業料払ってもらってる身分ではできないけどね……つら……。
そんなふうに、私がなんとかメインキャラたちと関わらないようにひっそり過ごしていた、ある日のこと。
私は空条承太郎に彼女ができたという話を聞いた。
えっ……マジで……?
ここ承花の世界じゃなかったの?
いや花承の世界かもしれないが。
メインキャラに彼女ができるのはおかしいだろ。当て馬か?
ところが自然と耳に入ってくる噂を聞いていると、どうも花京院典明もその女子のことが好きらしい。
えっ……マジで……?(2回目)
1組の夢野ナコという女子らしいが、聞き覚えはない。
私はジョジョの原作は読んでいないが、そのうち空条承太郎に娘ができて、その子が6部か7部あたりの主人公になることは知っている。
その母親役か?
いやしかし……いくらなんでも……いや待てよ……?
夢野ナコ……………夢の…………名………夢小説か!
いや夢主の名前テキトーすぎるだろ!!
しかもわざわざ花京院典明生存ルートで平和な学校に舞台を移してからのハーレム?
確認したら夢野ナコは別に休学していた時期はないらしい。
メインキャラでハーレムやりたいなら3部の旅についてくくらいのガッツ見せなさいよ。
なんでも彼女が空条承太郎だか花京院典明だかとお喋りしているところを親衛隊に見つかり、トイレで水をかけられるなどのいじめに合ったところを空条承太郎に助けてもらい、そこからお付き合いを始めたのだとか。
なんつーベタな。
夢小説ほとんど読んでこなかった私でも分かるレベルのベタ。
ていうかその話だと空条承太郎が女子トイレに侵入したように聞こえるんだが、さすがにないよな?ないと言って。
まあでもこれではっきりした。
ここはファンフィクション、夢小説の中の世界だと!
……うっわあ、やだなあ。
夢小説のモブ女子ってたいていしょっぱいいじめっ子かしょっぱい信者でしょ?知らんけど。
ただ例の夢主ちゃんは骨なしチキンのお客様であるようなので、モブが大量虐殺されるようなことは起こらんだろう。多分。
あとはその夢主ちゃんに関わらなければ平穏な学校生活が送れるだろう。
こらそこ、フラグとか言わない。

「はじめましてぇ、夢野ナコですぅ。よろしくねぇ」

高速フラグ回収おつ。
それは体育の授業のことだった。
うちの学校、体育は当然ながら男女別なのだが、女子が少ないのでよく隣のクラスと合同になるのだ。
といっても基本的にペアやグループは仲のいい子=同じクラスで組むのだが、いつも組んでる友達が風邪で欠席したバドミントンの授業で、ペアになれと言われたのが例の夢主だったのだ。
なんでやねん。
こちとらモブやぞ。
「……夢野さん、同じクラスにペアいないの?美少女だから友達多そうなのに」
こいつがこの物語の主人公なら、敵対しないに限る。
報復されるいじめっ子モブよりは、見た目を褒める十把一絡げモブの方がまだマシだ。
実際顔はかわいい。
かわいいが、妙に特徴がなく『かわいい』の平均をとった人工かわいいに見える。
口には出さないけど。
「なんかぁ、ナコ、何もしてないのに嫌われてるみたいでぇ。ふえぇって感じなんだけどぉ……もしかしてぇ、承太郎みたいなイケメンと付き合ってるからかなぁ?」
「……イケメン?」
「あ、気にしないでぇ。ナコの造語だからぁ」
はい確定、こいつも昭和よりあとの時代出身だわ。
クソ雑魚モブは少しでも危険を減らすため、この時代には存在しないようなものの話をしたり言葉を使ったりしないよう気をつけている。
『イケメン』もそうで、これはまだ存在してない単語だ。
空条承太郎の顔を褒めるときはハンサムって言うこと、いいね?
つかこいつ話し方ムカつくなあ。
特に空条承太郎をJOJOではなく承太郎と呼ぶときの、あの優越感に満ちた声色と表情。
でも我慢ガマン。
夢野ナコのバドミントンの腕前はへなちょこだったが、私は彼女をコテンパンにはせずそこそこのスコアで授業を終わらせた。
こいつがこの世界ものがたりのデウス・エクス・マキナを操れるなら、おとなしくしていないとね。
なにせここは部活モノ作品の二次創作世界ではなく、ジョジョのそれだ。
ちょっとしたことでモブは死ぬ。
夢野ナコはありがたいことに私にたいした興味は持たなかったようだ。
授業が終われば、彼女はさっさと体育館を出ていった。
ふう、一安心。と、思ったのだが。

「おい、ちょっと顔貸せ」

嫌で~~~~~~~~~~~す!と言えればどんなによかったか。
こちらが必死の思いで近寄らないようにしていたというのに、その日の放課後、私は空条承太郎に呼び止められた。
何もしてねーだろ!?
ペアになったのは不可抗力です!
あれか、5セットマッチを3-2で勝ったのが悪かったのか?
スコアに差はあまり出ないようにしたんだが!
なんでも一番じゃないと気が済まないのかよ夢主はよぉぉ!
一番が好きなディオくん(第1部)かよぉ!!
まあでもここで断ることができるほどの強いメンタルは持ってないので、すごすごついていくしかない。
気分は処刑台の階段を登る死刑囚である。
つら……てか空条承太郎、でか……。
お決まりの体育館裏にやってきて、空条承太郎は冷たい瞳で私を見下ろした。
いや顔の位置高すぎね?
夢野ナコは私より背が低かったと思うんだが、大丈夫だろうか。
私が首に縄を巻かれるのを待つ囚人の気持ちで静かにしていると、空条承太郎が「おめーは」と言った。
「ナコをいじめてるのか?」
「は?してませんけど。今日初めて会ったし」
言いがかりがひどすぎてつい食い気味に答えてしまった。
ヒェッ眼光鋭い怖い。ぷるぷる。
これギャグじゃなくマジで震えてるからな。
相手はDIO戦後の空条承太郎やぞ。
「そうなのか。だったらいいんだがな。あいつは女神のごとく美しいからな、よく妬みでいじめられるんだ。俺が見ていてやらねえとな」
……んん?
「あの、ちなみに。ちなみにですよ、実際は違いますからね。もし万が一、私が夢野さんをいじめていたら?」
「聞きてえのか?」
「あ、やっぱりいいです。いやほんとにいじめてないっていうか、授業でバドミントンしただけなんで。それ以降は接触もしてないんで」
「そうかよ」
私が余裕ゼロで否定していれば、やっと納得してくれたのか空条承太郎は去っていった。
呼び止めて悪かったな、の一言もなかった。
完全に病みモードだった。
眼光は視線で刺殺されそうなほど鋭かったが、目にハイライトはなかった。
あんなの少年漫画の主人公じゃない。
絶対洗脳されてるわ、あれ。
あんな状態で杜王町に行って吉良吉影を追い詰められるとは到底思えない。
……前言撤回。
あいつが夢主だろうと知るものか、洗脳を解いてやる!!

とはいえあの空条承太郎を洗脳するほどの力の持ち主である。

直接会ってはいないが、花京院典明もあいつに惚れてるんだろ?洗脳確定。
彼女のその力の源はまだ不明だが、考えられるのは2種類。
つまり、スタンド能力かこの夢小説を書いている作者としての能力か。
どちらにしても明らかに詰んでると言わざるを得ない。
だって私はスタンド使いじゃない、一介のモブである。
たとえまぐれだったとしても、ジョジョのメインキャラである空条承太郎と花京院典明を少なくとも一度は洗脳できたような力を持つ女に勝てるとは思えない。
だからここで考え方を変える。
逆に考えるんだ、というやつだ。
負けちゃってもいいさ……私はな。
彼女の洗脳を破り打ち勝つのは私じゃあない。
空条承太郎と花京院典明、彼らにはそのポテンシャルがあるはずだ。
彼らに勝ってもらうのだ。
そう心を決めた私は、作戦を立てることにした。
まず洗脳されている人間というのは、自分が洗脳されていることには気付いていない。
だがモブ・オブ・モブの私が洗脳されてますよ!なんて突っ込んだとしても聞いてもらえるとは思えない。
では誰の言葉なら聞くのか。
これは当然、空条承太郎と花京院典明、お互いの言葉だろう。
どっちかにどっちかを起こしてもらうのだ。
ジョセフとかポルナレフとかでも大丈夫だとは思うけど、さすがに国が違う彼らにコンタクトを取るのは難しすぎる。
ところでアヴドゥルも生存してるんだろうか?してるといいな。
そう、空条承太郎と花京院典明なら同じ学校に通う同学年だからね。
ちなみに夢野ナコが1組、私と空条承太郎が2組、花京院典明が3組である。
空条承太郎は休み時間には教室にいない。
1組か3組のどちらかに行っているのだろう。
つーかまず花京院典明の洗脳具合を確かめたいな。
すっかり夢野ナコの虜だとしたら、空条承太郎に対して抱いているのが友情なのか嫉妬なのかも知りたい。
とはいえ彼もまたハンサムで、空条承太郎ほどではないが人気者である。
ちょっと顔貸せ、ができる相手ではない。
空条承太郎がやるならともかくモブには許されない。
というわけで、まずは遠くから観察。
これは他にもしている女子がいるし、声をかけないなら親衛隊にも邪魔されないから問題ない。
休み時間に教室を出ていく空条承太郎とタイミングをずらして廊下に出る。
ピッタリ張り付かなくてもタッパのよさと特徴的な帽子でどこにいるか分かるのがすげーよ。
てかあの帽子、秋頃は普通の学帽だったはずなのに復学してからは髪の毛と一体化してるんだけど。
誰も突っ込まないから私もスルーしてるけど、あれどうなってるんです???
視界の端で見ていると、空条承太郎は3組の方に向かっていった。
おや、花京院典明を優先するのかな?と思ったけど教室には入らない。
花京院典明が出てきたからだ。
彼らは和やかに談笑しながら講義棟へ向かった。
授業のないときには空き教室になるところだ。
で、出た~~~~~~~~空き教室~~~~~~~~~~~!
絶対に近寄らないよう回避していたから知らなかったけど、休み時間にも結構他の生徒が来ていた。
おかげで彼らに紛れて移動できる。
空条承太郎と花京院典明が入っていった教室に、少し遅れて夢野ナコが入っていく。
あーはいはい逆ハーパターンね。
てことは空条承太郎と花京院典明は対立してないってことか。
洗脳状態でもないと多夫一妻とかやらんだろ彼らは。いや知らんけど。
というか、つまり洗脳はかなり根深い……?
大丈夫かなこれ。
慎重に作戦を練った方がよさそうだ。
うーん……どうすっぺ……。
その日は教室に突撃することもなく、私は撤退した。
真面目にきちんと計画を建てないと命が危ないと改めて認識したのだ。
いやマジでどうしよう。
友達にもこんなこと言えないから、協力者も得られない。
誰かオラに力をくれ……!

その日、私は夢を見た。

『力が……欲しいか……』
「えっなに、欲しいけど。誰?魔王?」
『いや神だよ。この小説の作者』
「夢小説の作者が何の用だ!!!」
『そんな警戒せんといて。てかこれ夢小説じゃねーし。承花小説だし。そもそもあの夢主、私が作ったキャラじゃないんだよ』
「マジ?どうなってんの?」
『あの子は元々、全然別の世界、夢小説の世界の主人公だったんだよ。ところが想定より夢主の性格が悪くなっちゃったとかで、作品ごとボツにされたはずなんだよね』
「確かに夢主ってもっと中身も美少女のイメージあるわ」
『ところが何をどうやったのか、既に自我を持ってたあの子は世界ごと削除されるのを嫌がり、単身この承花小説の世界に乗り込んできたんだ。メインキャラからモテる能力を持ったままね』
「めちゃくちゃ厄介やんけ」
『そうなんだよねー。だから君に、なんとか承花小説へと戻して欲しい』
「それはいいけど、なんで私?自分でやったら?神でしょ」
『それは無理。なぜなら私はプロットがっちり固めて書き始めるタイプじゃないから。テーマとスタートとゴールだけ決めてあとは勢いで書いちゃうタイプだから。細かいところの展開は全く決まってなくて、そこに付け込まれちゃったんだよ』
「マジかよ。勢いでこんな苦労してんの私」
『それについてはすまん。この話がもしきちんと完結するなら承花で落ち着くことだけは確かなんだけど、それ以外は決まってないからさ、キャラ死亡エンドとかバッドエンドとか世界滅亡エンドも可能性としては十分ありうる』
「それ全部バッドエンドじゃね?」
『違います』
「やべ、ハッピーエンドの定義ガバガバ腐女子だこいつ」
『あと君に頼むのは、君がこの話の主人公だから。実はこれ、元はモブ視点承花小説だったんだよ』
「マジかよ。でも主人公でもモブでしょ。夢主にはちょっと勝てないと思うんだけど」
『大丈夫。あの子がこの世界に侵入してきたときに、メインキャラにモテる能力は手出し不能の権能からランクダウンしてスタンド能力になったから。今あの二人はスタンド能力で魅了されてるだけ』
「私スタンド持ってないんだけど」
『そこはこの神に任せろよ。力が欲しいかって聞いたでしょ?スタンド発現させとくわ』
「んなことできんの?正直頼りなさすぎて疑わしい」
『ほんとに正直だな君。さすがに私でもポッといきなりスタンド発現させるのは無理だよ。お話に矛盾が出るからね。でもスタンドは生まれつき持ってたけど今まで気が付いていなかったとか無意識に隠してたとか、そういう後付設定つけることはできるから。朝起きて「いでよ!スタンドヴィジョン!」って叫んだら出てくるよ。名前は自分でつけてね』
「え、マジでできるの?」
『じゃ!がんばって承花にしてくれ!』

「別れの言葉それかよ!!」

自分のツッコミの声で目が覚めた。
近くの布団で寝てた兄貴が寝ぼけ眼で「は?」とか言ってくるけど「いや夢」と返したら二度寝を始めた。
一応断っておくと兄貴と二人で寝てるわけではなく、家族全員同じ寝室で寝てるのだ。
両親はもう起きてここにはいないけど。
昭和の家はエアコンついてる部屋少ないからね、夏と冬は個室ではなく寝室に固まって眠るのだ。
兄貴の体をまたいで寝室から出て、洗面所に向かう。
母さんは台所、父さんはトイレ。
私はそっと、小さな声で呟いた。
「いでよ、スタンドヴィジョン」
ヴンッと妙に機械的な音がして、私の横に半透明のそれが姿を現した。
わあぁぁマジで出た!
いやこれはテンション上がる。
家族いるから騒げないけど。
とうとう私もスタンド使いかー!
へへ、嬉しいな。
それは平成のハリウッド映画に出てくるような、有機物のロボットやアンドロイドみたいな外見をしていた。
円形のモチーフが多い見た目で、昭和のSFと比べるとかなり先進的だが、平成の感覚だとそう目新しさはないようなデザインだ。
カメラみたいな感じの丸い目があちこちについている。
あっそうだ名前、名前どうしよう。
なんか洋楽のタイトルかバンド名で……やっべ、洋楽全然分からんわ私。
ビートルズくらいしか知らん。
何か……何かないか……洋楽で原作スタンドと被らず丸っこい感じの……サークル……スフィア……ラウンド……ラウンド……アバウト…………ランダバウトでよくね?
5部以降のスタンド分からんけどスタンド名まんまの楽曲をエンディングテーマにはせんだろ!
ラウンドアバウトじゃないのは呼びやすさの問題だ。
よし、お前の名前は今日からランダバウトだ!
行けっランダバウト!……お前の能力、なに?

その日の放課後、私は人気のない空き地に来ていた。

まだこういう空き地が駐車場にならず残っている時代でよかったぜ。
「ランダバウト!」
小声で叫ぶと、私のスタンドが姿を見せる。
「よっしゃランダバウト、今日はお前の能力把握すっぞ。私が本体なんだからステータスが低いのは分かってる。知りたいのは一人一つの特殊能力が何かってことだ」
話しかけるとランダバウトは軽く頷いた。
ロボットっぽいけどかわいいなこいつ。
私は空き地の端に空き缶を並べた。
道を歩いていて普通に落ちてたやつだ。さすが昭和汚い。
それから空き地の正反対の端へ。
「よし、ランダバウト!あの空き缶を倒せ!」
行っけえ~~~~~~~~~~~!!!!
……。
………。
…………。
行けませんでした。
ランダバウトは私から少し離れたところで浮いてオロオロしている。
えっ射程距離みじかっ!
2メートルくらいか?
もしかして近距離パワー型なの?
そう思って私は歩いて空き缶に近付いた。
「ここらへんからなら届くだろ。ランダバウト、空き缶を倒せ!」
分かった!とでも言うように頷いて、私のスタンドはラッシュを繰り出した。
え、ラッシュおそ……しかも空き缶倒れたは倒れたけど、手の甲がビリビリする。
フィードバック来てるんだけど。非力かよ。
「オーケー分かった、お前は喧嘩ができるタイプじゃないんだな。大丈夫知ってた。てことはなんか一個、尖った能力があるはずだ」
私が前衛じゃないのは私が一番知ってるからな。
というかメインキャラでもないのに超強力なスタンド能力は発現せんだろ。
よくて杜王町のサブストーリーエネミー程度のパワーでしょ。
でもじゃんけんした相手の能力を奪うとかそういう力だと確かめようがないな。
実際小一時間ほど空き地で四苦八苦したが、ランダバウトの能力は判明しなかった。
「うーん、時間切れかな。あんまり遅くなると母さんが心配するからそろそろ帰ろっか。てか今何時だ?」
ぱっと左腕を見るが、こんな日に限って腕時計を忘れている。
スマホで時刻を確認する癖が抜けきらずちょくちょく忘れるんだよね。
「このへんで時計どっかにあったかな」
私はぼそっと呟いた。
出しっぱなしにしていたランダバウトが、たくさんある丸い目をきょろっと動かした、とたん。
「わっ、なに?」
脳裏に複数の視界が流れ込んでくる。
デュアルディスプレイみたいな感じだ。
でも混乱はなくて、私の脳は自分で見ている視界をメインとし、ランダバウトから流れてきた視界をサブ画面として処理している。
サブの視界に映っているのは、全て時計だった。
どこかのビルの壁に付いている時計、公園らしきところに立っている時計、駅のホームに備え付けられている時計。
「……これがお前の能力か!ランダバウト、空条承太郎と花京院典明と夢野ナコを映してくれ」
命じてからアハンウフンなシーンだったらどうしようかと思ったけど、それは回避できた。
本を読んでいる空条承太郎と、机に向かっている花京院典明と、テレビを見ている夢野ナコがサブ視界に映る。
そこで分かったことがいくつか。
まずひとつは、ランダバウトの視界には音はない。
密会場面を見てしまっても何を話しているかは聞こえないな。
それから、建物の中までは視界は入り込めない。
先程の時計も全て屋外のものだったし、三人もそれぞれ縁側や窓から覗き込んだ視点だった。
窓のない部屋やカーテンの向こうだと見えないことになる。
そりゃまあ制約なしなら便利すぎるからなこれ。
フラ○ソワーズ・アルヌールにはなれないということだ。
情報戦向きのスタンド能力だと分かったところで、私は帰宅した。
これで夢野ナコのスタンドの弱点を暴き、承花をくっつけてやる……!
いや私は承花に興味ないけど、ここまで来たら意地である。

それから一週間、私の手元にはカードが揃ってきた。

夢主がキャラとイチャイチャするシーンなんざ見たくなかったし、私のスタンドを彼らに見つかってもまずいので慎重に行動しているが、それでも一方的に遠くから見ることができるというのは強力だった。
これもしかしてあれか?
私がモブ視点の主人公(神・談)だからか?
必然の能力だった???
まあいい、夢野ナコのスタンドについてだ。
その洗脳はかなり強く彼女から離れても持続するが、そのためには定期的に上塗りをしないといけないらしい。
空条承太郎や花京院典明と空き教室にこもっても、していることといえばスタンドの目を覗き込ませて洗脳の上塗りをすること。
勇気を振り絞って見てみたのだが、イチャイチャしている暇はなさそうだ。
精神衛生的に助かる。
それから、あの二人以外に洗脳している人間はいない。
できないのか疲れるからしていないだけなのかは分からないけど、もしノーリスクで信者を増やせるんだったらあの子ならやってるでしょ。
性格もよくないのにいきなり空条承太郎と花京院典明にちやほやされ始めた夢野ナコは、クラスで孤立していた。
空条承太郎が怖いのか分かりやすいいじめには合ってなかったけど。
そしてこれが一番大切なことだけど、彼女の洗脳はスタンドの目を覗き込むことで行われる。
絶対見ないようにしないと。
私が同じように洗脳されちゃ元も子もないからね。
見ることに特化したランダバウトとは相性が悪いけど、そこれは頑張って目を閉じていくしかない。
あとこれはまだ不明なこと。
夢野ナコは空条承太郎と花京院典明がスタンド使いだと知っているのか?
夢の中に出てきた神は、彼女が全然違う世界出身だと言っていた。
メインキャラにモテるのは、権能であってスタンド能力ではなかった、とも。
それが今のスタンドになったってことは、あの子は元々スタンド使いではなかった。
つまりだ、彼女はスタンドが存在しない世界から来たのでは?
この考えだと、彼女はいきなり洗脳して無抵抗だった(多分。でなければ返り討ちであろう)あの二人がスタンド使いだと知らない可能性がある。
で、こっちはその反論。
あの子は少なくとも『イケメン』という単語が一般的になってる時代から来た。
ジョジョの奇妙な冒険はビッグタイトルだから、それが『作品』として存在してる世界出身なら花京院典明はともかく主人公の空条承太郎がスタンド使いなことくらいは知ってるだろう。
それにもし知らなくても、彼らがこの世界のメインキャラだと気付きさえすれば、自分にスタンド能力があることから類推できるはずだ。
う~ん、後者の方が可能性高そうだな~。
てことは、あれがありうるな。
あれってあれだよ。
「スタープラチナ、ハイエロファント・グリーン、やっておしまい!」だよ。
メインキャラ下僕化とかだいぶムカつくな。
そしてランダバウトでは当然ながら二人のスタンドには勝てない。
逆立ちしても無理、こちとらモブやぞ。
さて以上のことから、私の勝ち筋は一つだけ。
つまり定期的に行われる洗脳上塗りを阻止、二人に洗脳されてることを気付かせ、しかるのちにハッピーエンドへ。
世界滅亡エンドとか普通にお断りですわ。
私は!生きたい!!
洗脳上塗りは、彼らが顔を合わせるたびに行われている。
とはいえ日曜に丸一日離れていても問題ないことも分かっている。
ちなみに土曜は休日じゃないからねこの時代。
そして放課後や休日は、特にデートなども実施されない。
空条承太郎と花京院典明はよく二人で遊んでるんだけど、夢野ナコはほとんどの時間家にいて休息を取っている。
多分だけど、あの二人を洗脳し続けるのがメチャ大変で精神エネルギー使うんじゃないかな。
あの子は何が楽しくてこの状態を維持しているんだ……。
空条承太郎と付き合っているという事実だけが欲しいのだろうか。
もっと人生楽しめばいいのに……。
さて、上塗りを阻止といってもどうすればいいだろう?
休み時間の直前に行動を起こすだけではよろしくないだろう。
夢野ナコには極力私という個人を認識して欲しくないし、空条承太郎や花京院典明に敵対されたら即☆死なんでしょ知ってる。
となるとなんとか事前に邪魔をして三人が顔を合わせないようにする必要がある、と……。
ぐぬぬ、ランダバウトが射程の広いスタンドだったらなあ。
意味深に姿を見せておびき寄せるとかできたんだが。
視界の範囲は広いんだけどね、ランダバウトは私のそばから離れられないからね。
まあ言ってても仕方ない。
モブである私のスタンドに第二、第三の能力が開花することはないし。
う~ん、彼らが会うのを邪魔するといっても、三人のうち誰にアクションを起こすべきか?
夢野ナコはラスボスだから後回しにしたいところだけど、SAN値ピンチな空条承太郎や花京院典明に目をつけられた方が墓場へ一直線!って感じする。
さてどうするか……。

「まったくもう、なんなの?」

とある月曜日の放課後、夢野ナコは憤慨しながら学校の廊下を歩いていた。
今日は休み時間のたびに別々の教師に呼び出されている。
それも、何か悩みがあるんじゃないかとか、資料を運ぶついでに話を聞くとか、そんなどうでもいい内容ばかりだ。
確かに学校一のイケメンと付き合い始めたのが理由で、心の狭いクラスメイトたちに僻まれて仲間はずれにされているが、そもそも昭和のダサい学生と仲良くするつもりなどないのだ。
お前の友人から相談を受けた、ってそれ100パー嫌がらせだから。
夢野ナコが好きなものは全部ぜんぶまだ生まれてすらおらず、退屈な日々を過ごしている。
スマホないとかふざけんな。
唯一許せるハーフのイケメンとその友人のコンビはとっくにあたしのものだ。
不思議な力を手に入れられたのも、自分が特別な存在だから。
愚民どもに合わせる理由の方がないでしょ?
ただ、あの二人を虜にし続けるのはとても疲れることだった。
夢野ナコは完璧な美少女だから頭もいいしスポーツだってできるが、ここ最近は疲れのために体育の授業の評価がガタ落ちである。
でも問題ない。
通信簿なんかであたしの価値が分かるはずないのだから。
……とはいえ今日はまだあの二人に会えてなくて魅了をかけていないから、久しぶりに調子がいい。
昨日が休みだったのもあって、丸二日体を休めていることになる。
でもそろそろ上書きしないとね。
この特別な力は、普通の凡人には見ることすらできないものだ。
だけどあの二人は見ることができてた。
つまり同じ力を持っているということだ。
運良く彼らの能力が振るわれる前に魅了できたけど、次もできるとは限らない。
不安の芽はきちんと積んでおかないと。
放課後はいつもさっさと帰宅して休憩するんだけど、今日は力を使っておこう。
夢野ナコは軽く髪を整えて、2組の教室の扉を覗き込んだ。……いない。
「あのぉ、承太郎ってどこ行ったか分かりますぅ?」
夢野ナコは一番かわいく見えるアングルで、そのへんにいた男子生徒たちに尋ねた。
「JOJOならもう帰ったぜ」
「え!ほんとぉ?」
おかしい。
放課後は魅了の更新こそしないが、恋人アピールのために一緒に下校しているのだ。
それがあたしを放って帰ってしまうなんて。
「マジだよ。血相変えて出てったぜ」
「そうそう。なんか伝言?があったみたいで」
「伝言?誰からぁ?」
「それは知らねーけど、クラスメイトの女子が話しかけてた」
「は、女子ですって?内容は?」
「俺は聞いてねーな」
「俺も」
使えない奴らめ。
夢野ナコはキッと表情を険しくして教室内を見回した。
こちらを気にしていない生徒もいるが、自分を睨むように見ている女子グループもある。
なによ、学校一の美少女が学校一のイケメンと付き合って何が悪いの?
「その女子って、あの中の誰か?」
「いや、そいつももう帰ったぜ」
「……」
ここが平成ならいくらでも連絡がつけられるが、あいにく一人一台携帯端末を持ち歩く時代ではない。
夢野ナコは3組に行くことにした。ところが。
「花京院ならもう帰ったよ」
「JOJOが呼びに来たんだ」
「妙に急いでたな」
「喧嘩にでも行ったんじゃね?」
3組の男子の台詞に、夢野ナコは首を傾げた。
「喧嘩ぁ?どうしてそう思ったのぉ?」
「いやあ、JOJOが言ってたからさあ。やつらの残党が出たらしいとかなんとか」
「JOJO怖かったな~」
残党。
学校を出ていったということは、他校の不良グループか。
このあたしより不良グループとの喧嘩が大事なんて許せない。
「どこに行くとかは言ってたぁ?」
「JOJOのうちに行くみたいなことは言ってたな」
「……分かったわ」
夢野ナコは承太郎の家に向かうことにした。
まだ招待された――させた――ことはないが、いずれ自分のものになる家だから場所は把握している。
学校から承太郎の家に行くには、坂を登らなければならない。
ルートはいくつかあるが、一番近いのは神社を突っ切る道だ。
夢野ナコは不機嫌さを隠そうともせず、神社の階段を登った。

「『隠者』からの伝言だ。『世界』の残党が現れたらしい。すぐに戻れ、と」

正直、賭けだった。
だが私は、空条承太郎のどろりと濁った目を見ている。
あのときに比べればかなり明るい瞳に励まされ、賭けてみることに決めたのだ。
空条承太郎は私の伝言を聞いて、机を蹴り倒す勢いで立ち上がった。こっわ。
みんなのJOJOに話しかけた私を見つめていた親衛隊のみなさんも、伝言の意味不明さとJOJOの剣幕に一歩引いているらしく絡んではこない。
「てめーがそれ・・か?」
「違う。私も持って・・・はいるが、『世界』など見たこともない。偶然『茨』の『隠者』に見つかり伝言を頼まれた。彼は家で守りを固めるそうだ」
「しかしあいつなら……ぐッ」
空条承太郎は頭を抑えた。
頭痛とか洗脳解除フラグでしょ、キタコレ。
「『法皇』と一緒に来てくれと。それが君の友人だとも聞いた」
ちなみに私の友人は教室の隅で目を丸くしている。
すまんな、今度説明……できんわ。
空条承太郎は一つ舌打ちすると、鞄を持って教室を飛び出した。
あっ、まっ、待って!
置いていかれると嘘だとバレて私が死ぬ!
急いで後を追うと、彼は3組の教室に入っていくところだった。
数秒もしないうちに花京院典明を伴って出てくる。
彼らが全速力で学校を出ていきそうになったので、私は声を張り上げた。
「ま、待って!他にも伝言あるから!」
「彼女は?」
「新手だ」
やめてそれ再起不能になるリタイヤするやつ。
彼らは私の速度に合わせて走ってくれた。
いよし、花京院典明の目にも小さいけどハイライトある!行ける!
校門から出て少し走ると神社があった。
このあたりまで来ると、下校中の他の生徒の姿が見えなくなる。
「で、他の伝言ってのは?」
「相手の能力は洗脳系!使い手に魅了されるタイプ!」
「は?」
うっわこわ。
花京院典明って普段もっと高い声出してない?
そういやDIOに洗脳されてたっけ。地雷案件か。
「そこまで分かっててジジイは取り逃がしたのか?」
「本体が若い女性だったらしくて」
ピタリ。
私の前を走っていた二人が、いきなり足を止めた。
「それはてめーくらいの年か?」
「え?あ、いや待って!私じゃないから!そういう罠じゃないから!ていうか言っちゃうけど二人とももう引っかかってるからね!」
「は?」
怖い怖い怖い。
花京院典明の声、まだ低くなんの?
もう地を這うレベルだよ怖い。
「つまりお前は、僕らが洗脳されてると言いたいのか?」
ヒエッお前呼びいただきましたこわ。
「逆に聞くけど心当たりはないの?全然?気に入ってたわけじゃない相手をいきなり好きになった覚えは?」
「好きって……」
そこで二人はちらりとお互いを見た。
えっなに意味深。
いやここ承花の世界だったわ、忘れてた。
潜在的には両思いってやつか。
「あー質問変えます。特に好きでもない相手をいきなり恋人にした覚えは?」
「恋人……?」
そこで空条承太郎はまた頭を抑えた。
花京院典明も顔を歪めている。
いいぞ、もう一押し……!
「ついでだからここで告白しちゃえよ!好きな人だーれー!」
「それは……」
「僕は……」

「あたしに決まってるでしょ!!」

大声で乱入してきたのは夢野ナコだった。
く、もう来ていたのか!
二人に警戒されないようランダバウトは出していなかったので、彼女を監視することはできないでいたのだ。
「夢野……?」
「ナコって呼びなさいって言ったでしょ!!」
彼女は空条承太郎にそう叫ぶと、ピンク色のスタンドを発現させた。
ぎょろりとした目。
「そのスタンドの目を見るな!!」
「なにあんた、見えてるの?あんたが邪魔してたの?僻みもいい加減にして。どっちが好きなの?」
「あえて言うならジョセフが好きだわバカ!!!」
ムカつきすぎてつい本音を言ってしまった。
一番好きなのは気の強いグラマーな女だけど、スタクルは犬に至るまで全員男だからね。
2部アニメから見てるジョセフに愛着が湧くというか。
そこで唐突にものすごいプレッシャーを感じて、私は身構えた。
振り返れば、スタープラチナとハイエロファント・グリーン。
待ってやべえ、二人の目が暗い!
今の一瞬で洗脳されたのか!?
二体のスタンドは明らかに私の方を見ていた。
やばいやばい!
「ランダバウト!」
私を守るように目の前にスタンドが姿を見せるが、その背は頼りない。
ランダバウトは戦闘向きのスタンドじゃないし、フィードバックも普通にあるから肉壁にもなれない。
「なにそれ?かわいくない」
夢野ナコがバカにしたように笑う。
どこがだよかわいいだろランダバウト!
ロボット萌えの人に怒られてしまえ!
「てゆーか弱そー。花京院のも弱そーだけど。承太郎のは悪くないわね。その女やっちゃって」
ハイエロファンに怒られてしまえ!!!!!
心の中ではそう叫んだけど、実際に私がやったのは腕を前に出し腹に力を入れて踏ん張ることだった。
死にたくない!
二体のスタンドが動く。
スタープラチナは一直線にこちらに向かってくるが、ハイエロファントはその場で構えを取った。
エメラルド・スプラッシュか!
あんまり痛くありませんように!!
スタープラチナの拳がランダバウトに届くより先に、エメラルド・スプラッシュが放たれた。
撃たれた宝石たちが真っ直ぐに―――スタープラチナにぶつかった。
「がッ!」
後頭部にエメラルド・スプラッシュを食らった空条承太郎が前のめりによろめく。
「え、なに……」
「――おかげで目が覚めたぜ」
顔を起こした空条承太郎の目は、きらきらと輝いていた。
「オラァ!!」
そのまま夢野ナコのスタンドへ一発、それだけで彼女ごとスタンドは吹っ飛んだ。
起き上がってこない、気絶してしまったようだ。
そういや彼女も戦闘未経験のチキンだったな。
「はっ!?」
花京院典明も眠りから覚めたような表情だ。
「あ、承太郎!?よかった、間に合ったんだな」
「おめーのおかげだぜ」
「いや、僕は何も……」
「そんなことはねえ」
「承太郎……」
あの、これもう帰っていいやつ?
二人が幸せなキスをするところまで見届けろとは言われてないし、いいよね。駄目?
あとは勝手にやって欲しいんだけど。
私は平穏な生活が欲しいんだ!
いや殺人フラグではなく。
一応ジョセフが呼んでたってのは嘘だって伝えたいんだけど、それももうなんかどうでもよさそう。
まあ少なくともこの二人が夢野ナコにもう一度引っかかることはないでしょ。
私の活躍、私の物語はここで終わり。
「ランダバウト、エンディング流して」
私がノリでそう言うと、ランダバウトはコクリと頷いて胸元のユニットの蓋を開いた。
そこ開くの!?
中には平成っぽい、というかiP○dっぽいデザインのボタンが並んでいた。は?
ランダバウトが再生ボタンを押す。
流れ出したのはもちろんY○SのR○undabout。
一番盛り上がるところをBGMに、空条承太郎と花京院典明が見つめ合う。
「Roundab○ut万能説かよ!いやどんなオチだよ!!」

おわり。

おまけ

スタンド:ランダバウト
本体:モブ

破壊力:E

スピード:E
射程距離:E(視界の射程距離はA)
持続力:B
精密動作性:C
成長性:E

平成ハリウッドSFのロボットのような見た目のスタンド。

体中についたカメラで遠くのものを見ることができる。
最大5つまで視界を増やせるが、数と時間に比例して精神力を使う。
ランダバウトの名前をつけられた瞬間、Roundaboutを再生できる能力を獲得した。

スタンド:???

本体:夢野ナコ

破壊力:E

スピード:E
射程距離:D
持続力:A
精密動作性:E
成長性:E

とてもよくある洗脳系の能力。

不意打ちで先手を取れば洗脳できるが、戦闘能力もなく二度目はない。
夢野は他のスタンドを見たことがなく、名前はつけていなかった。