とある生徒の覚書

この学校には、一人の有名人がいる。
芸能人とかそういうものではないのだが、下手なタレントやアイドルより美形なのである。
そう、彼は(男性だ)すごく見た目がいい。
ハーフだと聞いたけれど、ただのハーフだってあんな美形にはならないだろう。
色っぽいタレ目とか、それを縁取るバッシバシのまつげとか、厚い唇とか、ともすれば女性的に見えるようなパーツでできている顔は、しかしこれ以上ないほど男らしい。
顔だけではない。
2メートル弱もある体にはよく筋肉がついていて、でもバランスがいいからかすらりとした印象を受ける。
当然のように運動はよくできる。
手を抜いているのが分かるというのに、ついていける男子がとても少ない。
では体育会系なのかというとそうでもなく、サボり魔のくせにテストの点数はすごく高い。
出来が違うというやつだろうか。
自分だってそこそこ勉強はできると思うのだが、彼を見ているとアホらしくなってくる。
これはついでなのだが、実家はすごい金持ちらしい。
自分も彼の家を見たことがある。
というかあのへんを通るとどうしても目に入るのだ。
家っていうか、お屋敷だった。
 

そんなんだから、女にはモテる。
めちゃくちゃモテる。
びっくりするくらいモテる。
どのくらいモテるかというと、街を歩くだけで取り巻きがわらわらくっついてくるのだ。
もちろん学校にはファンクラブが存在する。
自分は彼より学年が1個下なのだが、入学した時にはもうファンクラブがあった。
ファンクラブて。
この男に関しては本当に、神様がものすごく贔屓をしたのだと思う他ない。
逆立ちしたって勝てはしない。

 
 
 

だが、自分みたいな彼のクラスメイトだとか少しだけ近い人間はうすうす気付いていることがある。
(ちなみに彼は1ヶ月以上の不登校をしたせいで留年していて、それで自分とはクラスメイトになってしまった)
それは何かというと。
彼には友達がいない、ということである。
エラソーに選り好みをしているだとか、そういうわけではない。
できないのだ。
 

まず女子は論外。
下心が1ミリもなく彼と友達になれる女子は、少なくともこの学校にはいない。
では男子はというと、近寄れないのだ。
怖いというのもなきにしもあらずだが、それはあまり大きな理由ではない。
彼が無意味な暴力をふるうやつではないことくらい、誰もが知っている。
無意味な暴力は、第三者によってもたらされる。
これは聞いた話なのだが、彼がサボった授業で、何やら大事なプリントが配られたことがあった。
その時の委員長は責任感の強い、いいやつで、帰り道に女子に囲まれている彼を発見して、それを渡してやった。
彼は礼を言って、それを受け取った。
そして委員長は次の日、隣の学区の不良どもに襲われた。
彼と親しいやつだ、と認識されたのだ。
 

そういうことがあってから、彼はますます孤立したのだそうだ。
人が近づかないというよりは、彼自身が近づけないらしい。
優しいやつだ。
それに、そんなことがなくたって、近寄れる男子もほとんどいないだろう。
なんというか、恐れ多いとか、そういう気持ちになってしまうのだ。
”JOJOはすごいやつだ。俺達とは住む世界が違う。”
あ、JOJOというのが件の彼の名前だ。
もちろんニックネームだが。
それこそ彼は、テレビの向こうの芸能人のように、憧れなり恐れなりしながら見つめる相手だったのだ。
「その他大勢」たる自分たちにとってみれば。

 
 
 

そんなJOJOに、変化が起こった。
なんと、友達らしき相手ができたのだ。
JOJOは元々売られた喧嘩は買って、そして負け知らずという男だったから、舎弟になりたがるやつも結構いた。
けれど彼はそれら全てを断って、自主的にパシリでもやろうものならウットーシイと怒鳴るようなやつだった。
けれど今、JOJOと向い合せでコーヒー牛乳をすすりながら何やら楽しげに話しているやつは。
JOJOのパシリとか、そういう雰囲気ではない。
なんというか、対等な感じがする。
そいつは元々この学校の、目立たない、それこそ「その他大勢」の一人だった。
挨拶とかは普通にするけど、誰かとつるんで遊ぶとかはなかったやつだ。
そいつはJOJOが不登校になったと同時に学校に来なくなった。
それでJOJOが1ヶ月半くらいして復学してから、それにまた1ヶ月ほど遅れて学校に来るようになった。
そしたらこれである。
二人は当然のように休み時間は一緒にいるし、昼飯も一緒だし、掃除とかは二人でだべりながらやっているし、下校も二人一緒なのである。
そいつもJOJOに一方的な恨みのある不良に襲われたことがあったのだが、なんと一人で返り討ちにしてしまった。
それからちょっかいを出すのはやめようということになったらしい。
そいつも結構ガタイがいいので、体育の時間にJOJOとペアにされることも多い。
前はJOJOとペアなんて誰もやりたがらなかったし、先生もスルーしていたものだが。
それで二人でボールとかラケットの応酬をしていると、やばい。
そこだけ次元が違う。
他のクラスメイトが間に入ったら首を取られそう。
でも二人とも、とても楽しそうなのだ。
そう、JOJOはそいつとつるむようになってから、笑うことが多くなった。
そんな顔で笑えるのかと、他のクラスメイトたちが驚いたくらいだ。
JOJOの笑顔は、案外かわいらしい。
目尻が下がって肉厚の唇が持ち上がる様子を、自分はかなり好んでいる。
そしてそれが、自分にだけ向けられるのをこそばゆくも嬉しく思いながら、自分はこうして、彼の前でコーヒー牛乳をすするのだ。

 
 
 

(花京院が元々同じ学校にいたというニウム設定で、元モブだった花京院からの視点でした)