今は分かち難き双子

奇形さん。

 
 
 

僕には双子が居る。
「彼」は生きて生まれてくることが出来なくて、けれど僕と一緒に生まれてくることは出来た。
僕の右肩と、心臓との中間あたりに、彼は居る。
彼が僕と一緒にこの世に生れ落ちてこられたのは、ただその左腕だけだったけれども、それでも十分彼は美しく、僕は彼を誇りに思ってさえいた。
腕だけ、とか、足だけ、とかの寄生のほとんどの場合と違い、彼は僕自身の腕以上に立派に成長していた。
僕とは微妙に違う肌色に、美しく筋肉の乗った腕は、弟の僕から見ても――僕は彼を兄だと思っている――惚れ惚れするほどだ。

 

僕は幼い頃から、彼のことを「自分の第三の腕」だと認識したことはなかったように思う。
「花京院。」と人は僕を呼ぶ。
「典明。」と母は僕を呼ぶ。
彼には法的な名前が無い。
だから僕が彼に捧げた名前は、永遠に秘密だ。

 

僕が彼を「彼」と認識するのには、彼の腕を僕が動かすことが出来ないのもあるかもしれない。
彼と僕とは物理的には繋がっているのだが、何かが彼に触れたとき、僕にもそうと分かるときさえあるのだが、それでも指先の少しさえ、僕の意志では動かなかった。
だからといって、彼の意のままに、つまり僕の全く予想しないように動くことも無かった。
熱いものに触れたときにぴくりとする反射程度の運動で、つまり、「彼の意」そのものがあるかどうかという問いには、やっぱり僕は「無いんじゃあないかな。」と答えるんだろう。
だけれど夢の中では。
僕が寝入ったその世界では、彼は僕を抱きしめてくれるし、頬や唇を愛おしそうに撫でてくれる。
彼の左腕は僕の右腕付近に飛び出ていて、それは彼が僕と向かい合わせである証拠だ。
彼が僕を強くかき抱くとき、僕は僕の背に、彼の右腕を感じることさえある。
そこで僕は僕自身の両腕を、彼の逞しい背に回して抱きしめ返すのだ。
僕が彼の名を呼ぶと、彼は微笑んで、未だ知らぬ声で、僕の名をささやき返す。

 

一緒に生まれてきたのだから、死ぬときまで僕らは一緒で居られる。
何か辛いことがあったときも、喜びに笑うときも、彼の腕、僕との結合箇所に程近い、彼の肩といってもいい場所にうっすら見える、あの星型の痣を見るだけで、涙が出そうに熱い感情が湧いてくるのだ。
僕は死ぬまで、孤独を知らずに生きていけるだろう。