「承花編」(2)空条承太郎のこと、その2

 
空条承太郎は困っていた。
色々と考えてはみたのだが良い案も浮かばないので、とりあえず自分にくっついて甘えてくる少年の頭を撫でてみた。
すると恋人は、至上の笑みを惜しげもなく振りまいてくるので、まあ・なんとかなるかと思った。

 
 

空条が花京院を発見して第16星群プルート系は第3種植民コロニーに連れ帰ったのは2週間と4日前のことである。
空条の祖父だという人物の使いが彼の厩舎のような――というのは厩舎に失礼なほどの――居住に現れて、28年間不明だった身元を明らかにしたのが6日前のことである。
今更ジョースターなんて貴族の名を得ることには興味が全く無いし、というか無理だろう、でも老いた祖父とやらが自分に会いたがっているというのには心を動かされんでもないが、でも会いに行ったら帰してもらえないよなあ、と思いつつ、期限の1週間まで、空条はいつもと変わらない生活を続けていた。
つまり開発センターに赴いて体を鍛えて報告書をまとめて、帰って支給固形食糧を食べて恋人とセックスして寝るとかそんなんである。
空条の恋人であるところの花京院は、実は世にも珍しい種類の不定形生物であり、本来ならその生息地から(合意の上でも)人為的に動かすことは大犯罪なのである。
だが空条は法に裁かれる恐怖や罪悪感より花京院を取ったのであり、花京院もいまだに承太郎を「好き」であるからして、今のところは特に何も障害はなかったのだ。
花京院は地球人類を承太郎しか知らないうちに姿を変化させたために男性になっていたのだが、女性の存在を知ってからも空条が気にしなかったのでそのままであった。
そのことはこの最下層コロニーでは世間的にも精神的にも物理的にも、全く何の問題もなかったのだが、困ったことに貴族階級ではそいつは大きなタブーらしい。
女性であっても連れて行くというのが難しそうだというのに、だが身ごもってりゃ話は別かとも思ったのだが、使いの者に男の花京院を見られてしまっている。
こりゃもう花京院の手を引いてとっとと逃げちまおうか、と思っていた矢先。

 
 

ノックの音が。