Not N but K – いとつむぎのあのこ

 
ほとんど偶然のように出会った彼女とは、お互いの用事のために別れてからも、なんだか離れがたく、連絡を取り合っては一緒に話したり遊んだりしていた。
お互い成人した女性であったけれども、まるで学生時代のように気安い関係で、彼女はすぐに私の親友になった。
とはいえ彼女と私の共通点は、あの時あの場所に居たというだけで、生い立ちも好きな俳優も仕事も何もかも違った。
というより知らなかった。

 

「ジョリーン、あんたこんなの聴くの?もっと大人しいお嬢様っぽい曲が好きなんだと思ってた」
「なぁにそれ、からかってるつもり?あたしこう見えて、暴走族に入ってたこともあるのよ」
「へえ、想像できないな」
知らないなら知ればいい。
知りたいなら聞けばいい。
彼女の好きな色はヴァイオレットで、私の好きな色はレッド。
彼女には結婚を前提に交際している彼氏がいて、私には恋人はいない。
彼女には父と母と兄がいて、私には姉がいる。
彼女はソフトボールが好きで、私は陸上競技が好き。
「げええ、見ろよジョリーン、この殺人鬼」
「『女性の手首を切り取って遊ぶのが趣味』?悪趣味にもほどがあるわね」
「そういやあんたの趣味って、何?」
「あたし?あたしの趣味は」

 

から・から・から
 

父が母のために造った糸車は、背が低くて指が器用でなくとも使えるようになっていて、幼いあたしでも十分に扱うことが出来た。
自分の体より大きな機械が思うように動き、そしてその成果が白くて長い糸として現れるのに、幼少時代のあたしはいたく感じ入ったことを覚えている。
糸紡ぎは家計のために行われる行為ではなかったから、母よりもあたしがそれを触る時間の方が長くなるのはすぐだった。
暖かい春の日差しの中、母が「そろそろ、衣替えぇの、季節だねぇぇ」と言うと、父が道具を出してきて、彼(母は、「彼」だった)の毛を刈り始める。
全身からすっかり毛皮を脱がされて、彼が真っ白い肌を晒すと、日差しから守るように、あるいはその肌を子供たちにさえ見せたくないかのように、父は母を連れて家に入ってしまう。
すると脱がされたもこもこの羊毛を、兄が抱えるようにして洗って綺麗にする。
白いしあわせが春の陽気に乾ききると、家族みんなで、せっせとそれを梳く。
もこもこがふわふわになると、とうとうあたしの出番。
あたしは一人、糸車の前に座って、から・から・から、耳に心地よい音を立てては糸を紡いでいく。

 

「あたしの好きなことは、糸紡ぎなのよ」
「糸ォ?そりゃまた……個性的だな」
 

小さく細く短く絡まる糸たちを、一本の長くて丈夫な紡ぎ糸へ。
その伸びる先は、あっちの糸は知らないけれど、こっちの糸は、ここに。
彼らの手に、あるいは蹄の上に。
ねえ、マム・花京院?

 
 
 

題名は「花京院」の名前をもらった&「None for the little boy」でなくなったのダブルミーニング。