七つの大罪 – 貪欲

 

「ネアポリス王国、革命により王政廃止、共和国へ―――」
扉の開く音を聞いて、ジョニィは新聞から顔を上げた。
「あら、お邪魔でしたか」
「いや、もう読み終えたところさ」
ジョニィは先程の面だけ取り出して、残りの新聞は机の隅へと追いやった。
それから、愛する妻と、今はその腹の中にいる我が子を見つめた。
彼にも、と柄にもなく思う。
彼にもこんな未来があったのだろうか。
彼は――今でも人生で最良の友人であるジャイロ・ツェペリは、祖国のために、そして祖国で死刑判決を受けた少年のために戦っていた。
いや、それは彼の本当の目的ではない。
たとえば、祖国を思う自分のためだとか、少年の判決を自分が納得するためだとか、そのあたりだろう、とこんにちのジョニィは考える。
彼は自分のために走っていた。
それはもちろん、僕もそうだ。
そしてその旅の終わり、彼は命を落とした。
それはジャイロにとってみれば、完全に自分のためであったはずだ。
彼は自分の目的のために命を賭した。
その結果ジャイロは、命という賭け金は失った、がしかし、それは賭けに負けたという意味ではないだろう。
それからジョニィは、先程読んだ新聞の小さな記事を思い起こす。
妻の国の言葉を借りるなら、諸行無常というやつだ。
彼のしたことは徒労に終わった、無駄だった、そういう人もいるだろう。
けれどそれは第三者から見たジャイロであって、彼本人の意見ではない。
……そして僕にとってみれば、彼の死は僕のためであった。
ジャイロはまず間違いなく、この僕のために死のうとは思っていなかったはずだ。
それでもあれは、僕の勝利のために――僕が生きていくために必要なことだったのだ。
彼とはもう、物理的には決別してしてまったけれど、それでも僕は彼のように、最後の最後まで、自分のために生き抜いてやるつもりなのだ。

 
 

いきるよろこび