七つの大罪 – 食欲

 
アイリンは、恋人がプラモデルを組み立てたが結局また分解してしまったという話をするのに、笑って相槌を打ちながら、肉にナイフを入れた。
骨の間に刃を滑らせ、切り分けてから口に含む。
この店は、肉そのものもいいものを使っているが、ソースが特に美味しい。
一口堪能してから付け合せに手を伸ばす。
キノコを脇によけて、野菜をいただいた。
「あれ、アイリンあんた、キノコ嫌いなの?」
隣りに座った友人が尋ねてきた。
今日はデートではなく、友人たちを呼んだ食事会なのである。
「違うわよ。あたし小さい頃からキノコが好きで、後のお楽しみに取っておいてるのよ」
それから彼女は、向かいに座る少年に声をかけた。
「どう、エンポリオ、口にあうかしら?美味しい?」
「はい、美味しいです」
それから、と、その隣の青年を見やる。
彼はとても無口で、今日もほとんど喋ってはいないが、食事を口へ運ぶスピードを見れば、気に入ってくれたのはすぐに分かった。
それにしても不思議なものね、とアイリンは考える。
彼らとは、別に長い付き合いではない。
年も趣味も、性格だってバラバラだ。
ただある日ある場所で、偶然出会っただけの仲なのだ。
けれど彼らとは妙に気が合い、こうしてちょくちょく用事を作っては会っている。
今日の店は、アイリンと恋人のアナキスのお気に入りのレストランだ。
通りに面した大きな窓から、街の様子が眺められるようになっている。
今日はあいにくの雨だが――、いいえ、ちっとも『あいにく』ではないわ、とアイリンは思った。
光る街が一段階ぼやけて見えるのも、行き交うカラフルな傘の花も、ぱたぱたという雨だれの音も、とても気分の踊るものだ。
そういえば、ここにいる友人たちと出会ったのも、雨の日だった。
雨はきっと、私達を祝福して降るのでしょう。
だったら雨だって、友人の一人と言えるに違いないわ。
なんだか幸せな気分でそう考えて、アイリンは皿へとフォークを伸ばした。

 
 

ものくうよろこび