七つの大罪 – 憤怒

 
完全に日の落ちた、エジプトはカイロの街を、承太郎はバイクで走っていた。
朝も早くから例の男の手がかりを探して駆け回っていたが、まったく疲れは感じない。
アドレナリンが出まくっているというやつだ。
それも当然だろう、とうとう、とうとうなのだ。
この短かったような長かったような旅の終わり、最終目標、全ての元凶、そいつととうとうご対面できるのだ。
承太郎の目は怒りに燃えていた。
だが、と彼は思った。
この感情は、この衝動は、確かに四六時中感じていたいものではないが、しかし、それほど悪くはない。
目的も理由も、そして解決方法もはっきりした激しい怒り、こんなのは、あの島国でただ家と学校を往復していた頃には持ち得なかったものだ。
あの頃は全てが思いのままだった。
けれどそれは別に、自分が欲して求めたものではない。
ただ漠然と流されていくだけで、全てがぼんやりと自分の思うように転んだだけだ。
そこはぬるま湯だった。
そこには自分の強い意志など、どこにもなかった。
それがどうだ、この旅に出てからというもの、世界は急に目に痛いほどの色を持ち、牙を向いて襲いかかってくるようになった。
敵も、味方でさえも自分の思うようにはならない。
そしてそれは、この上なく楽しいことだった。
この旅がいつまでも終わらなければいいのに、と思ったことはない。
この旅には終着点があり、最後に倒さねばならぬ大敵がおり、だからこそ緊張感と焦りと怒りを感じるのだ。
祖父の祖父の代から自分たちの血族に仇なす存在を、許しておくわけにはいかない。
それは自分が断ち切ってしまわなければならない。
今まで持て余すだけだったこの大きさ、強さは、今ここで発揮されるためにあったのだ。
人々の叫び声と瓦礫の山を目印に進めば、さあ、そこに見えるのは、あれがかの吸血鬼だろう。

 
 

遂げるよろこび