鉄獄へ、愛をこめて

 
仗助は冒険者である。
まあその辺によくいる冒険者だ。
最近ちょっとレベルが上がってきたので、行動範囲を広げようと、拠点にしている町から出て、あちこちの町を訪ねていた。
今回それでやってきたのが、内陸からちょっと離れた土地にある、山間の町だ。
仗助はクレイモアを背負って、店みせを見て回った。
途中、クワを持った村人に襲われたので、返り討ちにした。
よくあることだ。
ブラックマーケットのエージェントが、町中で「仕入れ」を行うというのも、よく聞く話である。
ダンジョン帰りの、アイテムを豊富に持っていて、そして疲れている冒険者が狙い目なのだとか。
さて武器屋や防具屋を一通り見終わった仗助が最後に向かったのは、そのブラックマーケットだった。
金に余裕があるなら、毎日きちんと見るべき場所だ。
この町のブラックマーケットは、中心部から少々外れたところにあったものの、しっかりとした店を構えていた。
「おや、いらっしゃい」
カウンターの向こうに座っていたのは、色の白い人間……いや、耳が尖っているからハーフエルフだろう。
エルフではないと思ったのは、笑い方が人間くさいというか、気さくな感じだったからだ。
若く見えるが、ハーフエルフだとしたら、年齢は見た目に比例しない。
「この町は初めてかな」
「そっス。何があるか見せてもらってもいっスか?」
「もちろん」
店主は店の左側の壁を手で示した。
剣やランス、メイスなどが壁から下がっている。
「あのへんにあるのが、今入ってきている武器だ。それから右のほうが防具。でも今はちょっと、これといった防具はないかなあ。そっちの棚が薬と巻物の類だよ。それから」
店主は悪戯っぽく笑って、自分の後ろの棚から1本のロッドを取り出し、カウンターの上にゴトリと置いた。
「全感知のロッドがあるよ。君、戦士系だろう?」
「全感知ロッド!?うわ、それ欲しいっス」
「いいよ。これでどうかな」
店主が示した金額は、安いものではなかったが、かといって目玉が飛び出るほど高いものでもなく、仗助は喜んでそのロッドを購入した。
その時。
「オラオラァ、立派に店構えてんじゃあねェぞ、ブラックマーケットがよォ!」
耳障りな音を立ててドアを蹴破り、男が二人入ってきた。
ゾンビとハーフオークである。
酔っているのだろう、呂律が回っていない。
店主は眉をひそめて立ち上がった。
「……お客さんたちも、この町は初めてだね」
「それがどうしたァ!おう兄ちゃんエルフか、すましてんじゃあねェぞ」
「どうせ汚い手段で手に入れたもんだろォ、俺達がいただいても文句は言えねえよなァ?」
「もちろん持って行かれても文句なんて言いませんよ。ですが、そうするというならば、あなたたちはお客さんではなくなりますね」
「だったらどうしたァ?言っとくが、俺達は二人じゃあねえぞ。外にはまだ子分どもがいるんだ!」
とっくにクレイモアを構えていた仗助は、一瞬思案した。
侵入者たちの側につけば、ロッドやその他をただで手に入れられる可能性がある……だがしかし。
だが、仗助はそれ以上悩む必要はなかった。
店主のハーフエルフがいつの間にか魔法書を広げており、彼が唱えたカオスの魔法の球が、あっという間に二人を黙らせていたからである。
「やれやれ、うちは死体を並べる趣味はないんだ」
店主は首を振ってそう言うと、カウンターから出てきた。
仗助は仰天した。
彼には左足がなかった。
なかったが、右足と、黒くて太い尾が、その体を支えていた。
もちろんハーフエルフに尾などない。
それは異様な光景だった。
そんな仗助のことは放っておいて、店主はまるこげの死体を引きずって外に出た。
仗助も慌てて後を追った。
店の中に一人で残って、万が一何かを盗んだなどと思われたら困る。
そこで更に仰天した。
「あ」
「おう」
そこにいたのは、一人の大柄なバルログだった。
こちらもその手に、黒くすすけた死体を3つほど持っている。
「武器を構えてうちの店を覗いてやがったから、殺しちまったぜ」
「彼らの言ってた子分ってやつかな。助かったよ。君がいなくてもどうとでもなったけど」
「だろうな。…そっちは?」
「彼は関係ない、普通のお客さん」
「そうか」
けれどもその目が、緑にぎらぎらと光っていたので、仗助はペコペコして敵意がないことを示し、さっさと帰ることにした。
店に入っていくハーフエルフとバルログにちらりと目をやった仗助は、黒くて大きなバルログのその背から伸びる尻尾が、途中でざっくりと切れているのに気がついた。

 
 
 
 
 

鉄獄ifでした!
かぎさんお誕生日捧げ物でした!おめでとう!!