ホテル・ジョーカー

ヒルベルトの無限ホテルのパラドックスのパロ承花です。

あなたはここ、ホテル・ジョーカーの管理人である。
ホテル・ジョーカーは現実世界にある普通のホテルではなく、形而上の次元に存在する無限ホテルである。
無限ホテルとは何か?
部屋数が無限にあるホテルのことだ。
あなたのホテルには無限室の部屋があり、そこには今、無限組のカップルが宿泊している。
ホテル・ジョーカーは現在「満室」なのだ。
例えば17号室には17歳の承太郎と17歳の花京院のカップルが泊まっている。
128号室には28歳の承太郎と18歳の花京院が泊まっているし、6041号室では17歳の承太郎と41歳の花京院がくつろいでいる。
人間のカップルばかりではない。
あなたのホテルには無限通りの承花が宿泊しているのだ。
ドラゴンの承太郎とバジリスクの花京院が泊まっている部屋もあるし、バルログの承太郎とハーフエルフの花京院が体を休めている部屋もある。
この無限ホテルには無限組のカップルが居るので、あなたの想像する承花もどこかの部屋には必ず存在するのだ。
体の大きなお客様、エラ呼吸のお客様、毒のあるお客様……様々なお客様のご要望を叶え、このホテルで快適に過ごしていただくのが管理人としてのあなたの義務であり、また喜びでもある。

さてそんなあなたのホテル・ジョーカーに、今宵新たなお客様がやってきた。
新規のお客様は、どうやら駆け落ちしてきたらしき承太郎と花京院だった。
当面の路銀はあるようだが、このホテル以外に身を寄せる場所はなさそうだ。
あなたは珍しいな、と思った。
古き良きBLの受けタイプの花京院が承太郎の前から姿を消し、一人でこのホテルにやってくることはたまにある──そのあと承太郎も追いかけてくる──が、二人揃って駆け落ちしてくるのはあまりない。
承太郎の親、特に母親が息子たちの交際に反対することが少ないからだ。
花京院の親は世界線による。
とはいえ承太郎側も世界線によってはゼロではないし、親がいなかったり違ったりするのかもしれない。
この承太郎は目が本物の宝石でできているし、花京院も青緑色の肌をしているから、特殊な生まれである可能性は高いだろう。
彼らはどう見ても、すぐ休ませてやらねばならない状態だった。
花京院は明らかに疲れ切った様子だったし、承太郎も目から時たまパチパチ火花が散っていた。
ところで再度述べておくが、このホテルは今まさに「満室」である。
けれどあなたのホテルには、客室が無限に存在する。
客室が有限室しかない普通のホテルにおいては、確かに「満室であること」と「これ以上客を泊められない」ことは同義だ。
しかしホテル・ジョーカーでは話は違う。
ここではその2つはイコールではないのだ。
あなたはくたびれた恋人たちをロビーのソファに座らせ、2人を案内する準備に取り掛かった。
まずあなたがやったことは、すべてのお客様たちに一斉にアナウンスを流すことだった。
内容はこうだ。
「新たなお客様のため、隣の客室に移ってくださいませ」。
一体どういうことか?
1つずつ説明していこう。
すべてのお客様が協力してくださることになったので、あなたはお礼のさくらんぼ(無限個あるもの)を配りつつ、部屋の移動を行った。
1号室は砂漠のオアシス風の部屋だ。
ここに泊まっていた学生の2人を2号室に。
学校の教室風の2号室に泊まっていたカップルは3号室に。
3号室のお客様は4号室に、4号室のお客様は5号室に。
無限ホテルには客室が無限室あるため、すべてのお客様が新たな部屋に移ることができた。
こうして1号室は空室になった。
あなたはロビーに取って返し、駆け落ちしてきた恋人たちに部屋の準備ができたことを告げた。
こうしてホテル・ジョーカーは新しいお客様を迎え入れることができたというわけである。

さてしばらくのちのこと。
あなたのホテルは相変わらず盛況で、今日も「満室」である。
もちろんあなたがよく知っているように、満室とは新しい客を泊められないという意味ではない。
ホテル・ジョーカーは無限ホテルなのだ。
あなたの耳に、来客を知らせるベルの音が届く。
ロビーから外を見てみれば、そこには1台のバスが停まっている。
ツアー客だ!
もちろんこんなところのホテルにやってくるのが、ただのツアー客であるはずがない。
このバスには無限の席数があり、中には無限人の客が乗っているのである!
あなたは新婚旅行に来た承花や、傷の療養に来た承花や、遠方に出た敵スタンド使いを追うのにツアーを利用した承花などなど、無限のツアー客のために無限の空室を用意する必要がある。
そしてもちろん、それは可能だ。
ここは無限ホテルなのだから。
あなたはまた宿泊客たちにアナウンスを出し、部屋を移ってもらうことにした。
今度の客は無限組いるので、1部屋だけ移動してもらうのでは足りない。
ではどうするか?
あなたはお客様たちに「今の部屋番号を2倍した番号の部屋に移っていただきたい」と伝えた。
つまりこういうことだ。
1号室の恋人たちは2号室の教室風の部屋に。
2号室の学生たちは4号室の日本家屋風の部屋に。
3号室の承花は6号室の監獄風の部屋に……といったふうに移動してもらうのだ。
こうすると、1号室、3号室、5号室……という部屋番号が奇数の部屋がすべて空室になる。
例によってあなたのホテルは部屋数が無限なので、すべての番号2倍部屋は必ず存在する。
あぶれるお客様は1組も出ない。
部屋数が有限のホテルにおいて、番号が奇数の部屋は全体の部屋数の約半分しか存在しない。
最後の部屋が何号室かによって半数ぴったりかそうでないかが決まるが、兎にも角にも全体数よりは明らかに少ない。
しかしホテル・ジョーカーではそうではない。
全部の部屋数が無限であるなら、部屋番号が奇数の部屋も偶数の部屋も無限に存在するのだ。
こういうのを数学的には集合の濃度が同じと言うのだが、あなたはホテルの管理人であって数学者ではないので詳しいことは知らなくてもよい。
あなたにとって大事なことは、無限組の新規客をホテルに泊めることだけである。
奇数番号の部屋が無限室ぶん空室になった今、それは簡単なことだ。
あなたはさっそくお客様たちを迎え入れることにした。

その後も無限組の承花を乗せたバスが同時に無限台やってきたり、そんなバスが詰まったフロアが無限階あるフェリーがやってきたりと、あなたは日々を忙しく過ごした。
具体的にどうしたかというのは数式を使わないと説明が難しいので省略するが、もちろんどんな場合でも宿泊をお断りするなんてことは起こらない。
あなたのホテルは無限ホテル。
ここはすべての承花に心地よく過ごしてもらうためにある、ホテル・ジョーカーなのだから。