僕の友人がこんなに電波なはずがない

 
桂めめさんちの「ヒヨス、ベランドンナ、マンドレイク、汝は裁かれるべきである」の続編です。
こちらから読んでもあまり面白くないかもしれません。
めめさんが花京院にひどいことしたいって言うから、ギャグ続編書くから思う存分やりなよって言った結果がこれです。
たいへん軽くて短いギャグですのでめめさんのお話がぐっときた方は読まないほうがいいかも。

 
 
 
 

僕には友人がいる。
いや、自分は男子高校生なのだから、友人がいることなど当然かと思われるかもしれない。
それに対する反論は、大きく二つある。
一つ目は、自分には世間で言うところの超能力のようなものが生まれつき備わっており、それのせいもあって、高校二年の春になるまで、これといった友人が一人もいなかったことだ。
まあこれは、この話ではあまり重要ではない。
僕のコミュニケーション能力が低かったというだけのことだ。
超能力だって、これを使って悪の組織と戦うみたいなことは別に全然ない。
問題はもう一つのほうだ。
その友人というのが、少々……いやかなり変わっているというところなのだ。
彼は日米のハーフで、ちょっと信じられないくらいの美形で、背も高くて、頭もよくてスポーツも出来ておまけに実家が金持ちで、当然よくモテる。
まあ、ここまではまだいいとしよう。
世の中にはそんな、何かに贔屓された人間がいるというだけの話だ。
彼が僕と同じような超能力(彼によると、それはスタンドと呼ばれているらしい)を持っていて、それをきっかけに仲良くなったというのも、そこまでおかしいことではないだろう。
では何が問題なのか。
分かりやすいよう、僕が彼のいる学校へ転校したその日のことを振り返ってみたい。

 

教室の前に立たされた僕からも、2メートル近い体躯の彼の姿はよく見えた。
彼が、その体に比べてあまりに小さな机に、前のめるようにして僕のことを、穴が開くかと思うほど強く見つめてきたものだから、特に印象に残った。
誓って言うが、僕は今まで、彼には会ったことがない。
こんな男と出会ったならば、忘れるはずがない。
僕が転校してきたのは、始業式の日だったので、その日は昼で放課となった。
転校生が来たら必ず声をかける、好奇心の塊のような生徒が数人、僕を囲んで早速質問攻めにしようとしたところで、彼がやってきた。
彼が、はるかな高みから「おい」と僕を呼びたもうたので、先述の生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。
どうやら、僕はヤバいのに目をつけられたらしい。
改造を施されまくっている制服を見てもよく分かる。
彼は「話がしてえ。ついてこい」と言って、さっさと歩き出してしまった。
僕も、今やもうこちらをチラチラ見るだけで決して話しかけてこようとはしない周りの生徒たちのように逃げ出したかったのだが、断ればどんな目に合うか分からない。
校内の勝手もまだ分からない僕はただ、怯えながら彼の後を追うしかなかった。

 

連れてこられたのは、体育館裏の人気のない場所だった。
たいへんお約束なシチュエーションだ。
いったい何が彼の気に障ったのだろうか。
髪の色だろうか?
確かに僕は赤毛だが、これは先天的なもので、別に染めているわけではない。
ピアスだろうか……でも今日は初日だから外してきているし、ピアス穴を見咎められたとも思えない。
生きた心地がしない僕に振り向き、彼は真っ直ぐ僕の目を見てこう言った。

 

「待ったぜ花京院。前世じゃ不幸にも別れちまったが、生まれ変わったからには、今度は末永く付き合ってもらう。とりあえず結婚を前提に交際を始めるぜ」

 
 

お分かりいただけただろうか。
つまり彼は、頭がおかしいのだ。
……頭がおかしいこと以外はいいやつなので、友人としては付き合っているのだが、事あるごとに恋人になれと言い寄ってくるのには辟易している。
最初の告白の直後も、意味が全く分からなくて硬直してしまった僕に抱きついてこようとしたので、思わずハイエロファント(僕のスタンドの名前だ)を出してガードしたのだ。
ところがそれを見た彼は嬉しそうに笑い、「おめーもスタンドを持っているんだな」と言って、僕が生まれて初めて目にするハイエロファント以外のスタンドを出現させ、羽交い絞めにしてしまった。
……そのまま結局、猛烈なハグを受けてしまったことは忘れたい。
顔に近づいてくる唇は何とか押し留めたが。
それで今日も、
「おめーが好きそうな個展を見つけたぜ」
と誘われて二人で出かけたあと、目をギラギラさせながら、
「今日うちに泊まっていかねえか」
と言い募る彼に、
「いいえ、お断りします。絶対に行きません。何があっても僕の決意は揺るぎません」
ときっちり拒否を示しているというわけだ。
泊まりになんか行ったら、何をされるか分かったものじゃあない。
僕はまだ、そういう方向には清純でいたい。
はっきりと断られて見るからにテンションの下がっている彼を見ながら、僕はぬるいコーヒーを飲み干した。

 

友人として、一緒に下校したり遊びに行ったりするうち、彼が思っている『前世』の僕らとやらが少しずつ判明してきた。
とりあえず僕らは恋人だったらしい。
いや恋人にはなれなかったんだ、だがお互い愛し合っていたのは本当だとか何とか言っているが、じゃあ大体恋人じゃあないかと僕は理解している。
もちろん信じる気は毛頭ないが、「前世で恋人だった」というのは「夢の中で会った」と同じような決まり文句なのは確かだろう。
漫画とか映画でたまに耳にする台詞だ。
そんな台詞で口説いてくるやつにろくな人間はいないけど。
まあそれは置いておくとしても、僕が魔女だったというのは勘弁して欲しい。
どんなファンタジーだ。
魔女とは言っても、性別は男だったらしいが。
魔女狩りの盛んだった中世では、男女関係なく対象を魔女と呼んでいたらしい。
へーぼくまじょなのーと相槌を打ったら、おめーは魔女じゃあねえ古い知識を持ってた頭のいい男だったがそれは当時の教会にとっては異端者つまり魔女であり社会的に冷遇され云々かんぬん。
じゃあ大体魔女じゃあないか。
話をややこしくするやつだ。
それでもってそんな彼は、社会に害悪をもたらす魔女をとっ捕まえて、例の魔女裁判にかける審問官だったということだ。
硬派ななりをしているくせに、ファンタジーとか転生とか禁断の恋とかが好きなんて、本当に変わったやつだ。

 

彼が話す前世の話は、全体で整合性が取れていて、フィクションとして聞く分にはなかなか面白い。
小説でも書けばいいのに。
そう言うと、
「これは俺とお前の大事な記憶だ。大衆に知らしめることじゃあねえ」
と怒られた。
当然のように僕を混ぜてくるのは止めていただきたい。
僕にはその記憶はありません。
前世の彼は、審問官なのに魔女の僕と恋をして、だけど僕が拷問で殺されるのを助けられなくて、それをずっと悔いていたらしい。
ついには、死んだ僕をよみがえらせようとして、それこそ正義に反する黒魔術に手を出したともいう。
でもうまくいかなくて、捕まって非業の死を遂げたのだそうだ。
「何故その後、この時代に生まれ変わってきたのかは謎だ。だが、あの教会は転生を認めていなかった。そこから外れることで、逆に輪廻の輪に入ったんじゃあねえかと俺は思ってる」
そういうファンタジーやメルヘンは以下略。
理由は分からないが今の世に転生した彼は、物心ついたときからずっと僕を探していたらしい。
そしてついに見つけたのだから、伴侶になるのが当たり前だと思っているようだ。
そんな都合は全く知らないので、いい迷惑である。
ディオ(誰それ?)もいないのだから、二人で幸せになる定めにあるとか何とか、年がら年中電波なことを言い散らかしている彼と、それでも友人であるのは、彼の顔とか、まぶしいほど堂々とした佇まいとか、自分の信念を曲げずに道を切り開いて進んでいくところとか、そのくせ実はとても優しく他人に分け隔てないところとか、後はあの、きらきら光る透き通った両の目とか、その辺を好ましく思っているからだ。
僕は彼の空想を全く信じていないのだから、彼が僕の向こうに『前世の僕』を透かして見ているような感じがして、ちょっと気分が悪いのは気のせいだ。
もし彼が、前世とやらの話を持ち出してこずにお付き合いを申し込んでくるならば、まあ考えないでもないんだけど、それはまだ伏せて、僕は今日も、彼の摩訶不思議な前世ストーリーに耳を傾けるのだ。
お話として聞いているだけには本当に面白いし。うん。