あの子の鱗は星の鱗粉

 

さあさあと、部屋に響くのはシャワーの音だけだ。
承太郎は何をするでもなく、ベッドの上に腰掛けていた。
表情の読めない顔で、微動だにせず自分のつま先を見ている。
だがその頭を占めるのはたった一つのことだ。
さあさあと軽い音を立て、シャワーを浴びている、その人物。
一行の中で、尻尾を持つのは二人。
更にその中で、鱗を持つのは一人、今日承太郎と相部屋である、件の人物である。
彼の、黄緑がかった白い、控えめにけれど美しく光る鱗に水の粒が滴る様を、是非とも見てみたい、と、そればかり考えて、承太郎は若く滾る情熱を遠くへ追いやるのに苦労していた。

 

「あっ」
「どうした花京院敵襲か」

 

素早くシャワールームの前に立つ。
しまった不自然だったかと承太郎は身を硬くしたが、花京院は気にしてないようだ。
「ううん、そういうことじゃなくて。タオルを忘れた」
「そうか。これ、この机の上のやつか?」
「そう、それだ。取ってくれるかい?」
おう、と応えて承太郎がタオルを手に取ると。
シャワールームの扉ががちゃりと、大きく開いた。

 

瞬間、承太郎は見事に固まった。
念願の、鱗に水滴が浮く様を見せられて、
いや、普段は隠されている白い白い首筋がさらされて、
いや臍がなく一様に滑らかなけれど筋肉のついた腹を見て、
いやいやそんなことよりも。

 

無い。
無いのだ。
自分にも、祖父にも、アヴドゥルにもポルナレフにも、イギーにさえあるあれが。
男ならしかるべき場所に存在するはずの、例のあれが。

 

「ありがとう承太郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何見てるの」
「・・・お前・・・・・・女だったのか」
「はあ?」
「当然か、爬虫人種だもんな。胸が無いはずだ」
「ちょ、ちょっと待て承太郎。僕はちゃんと男だ」
承太郎が自分の、口に出しにくい場所を凝視していると気付き、タオルで隠しながら花京院が声を荒げる。
「分かった、分かったぞ承太郎、君がそんなこと言い出した理由。君ちゃんと保健の授業受けてないだろ!」
「失礼な。受けなくても単位は出たぞ」
「受けてないんじゃないか!」
タオルをぎゅうと体に押し付けて、花京院が珍しく大声を出した。
「爬虫人種は普段、せ・生殖器は体内にしまいこんであるんだ!常識だぞ!・・・馬鹿!!」
それだけ言うと、ばたんと扉を閉めて、またシャワールームに閉じこもってしまった。

 

馬鹿のそしりを頂戴した承太郎だったが、全く知らなかったわけではない。
今まで実物を見たことがなかった上に、対象が花京院であったため思考が停止しただけなのだ。
それにしても。
(可愛かったな。)
別に花京院の引っ込んでいるナニがではない。
照れて潤んだ瞳で飾る、その顔がである。
変温動物である花京院は、頬を染めることは無い。
その代わり、まぶたの無い目が彼の感情を包み隠さず知らせてくれる。
花京院の、白目のほとんど無い、不思議な光沢の瞳が、日の光を受けて七色にきらめく様を、承太郎はことのほか好んでいた。

 

しかし承太郎はまだ、美しいものを静かに愛でるだけの、心落ち着いた大人ではない。
(・・・・・・出てるところも見てみてえな。)
などと思っていることを、花京院には知らない方が幸せか。

 
 
 

花京院とイギーが一緒に居る時に宿泊するのは矛盾がありますが、
「尻尾」のくだりを書きたかっただけ。