Vtuberチェリーちゃん(テンメイ)

「おっ、テンメイの動画上がってんじゃん」
夜、日課の動画サイト巡りをしていた俺はチャンネル登録しているVtuberの新作動画を発見した。
Vtuberの名前はチェリーちゃん(テンメイ)。
()の中まで合わせて正式名称である。
というのもチェリーちゃんがガワの名前、テンメイが中の人の名前だからだ。
チェリーちゃんはテンメイ自作の3Dモデルで、なかなか完成度の高い美少女である。
顔つきは大人っぽく背も高めで、名の通りあちこちにチェリーのモチーフが散りばめられているピンク髪のかわいい系デザインとうまくバランスが取れていて、甘すぎない見た目に仕上がっている。
ただし声は加工なしの男声。
これは中の人であるテンメイがもともと、声だけのゲーム実況をしていたからだと思われる。
更新頻度こそ高くなかったがしばしばスーパープレイを見せてくれるテンメイには固定ファンがついており、そのままチェリーちゃん(テンメイ)を追っているというわけ。
そう、かくいう俺もテンメイ時代からのファンなのだ。
美少女のガワを手に入れてもチェリーちゃん(テンメイ)は特に視聴者に媚びるようなことはせず自分の好きなようにゲームをしているので、こちらとしても安心して追いかけられる。

『今日はこの落ち物パズルをやっていきたいと思います!基本はテトリスなんですが、対戦に特化しているのでお邪魔ブロックの種類が豊富なんですよ。というわけで今日の対戦相手を紹介しますね。コーヒーカップです!』

クラッカーが弾けたようなエフェクトが舞い、チェリーちゃん(テンメイ)の横に宙に浮くコーヒーカップが現れた。
これは名勝負が見れそうだな、と俺は期待に胸を膨らませた。
コーヒーカップはチェリーちゃん(テンメイ)の動画によく登場するゲストで、テンメイのリアルフレンドらしい。
宙に浮くコーヒーカップ(3Dモデル)はコーヒーカップ(ゲスト)が指南書を読んで自作した3Dモデルだそうで、1ヶ月でソーサーがつき2ヶ月目に湯気のエフェクトが加わった。
俺たち視聴者は2ヶ月でコーヒーカップ一式かぁ、と微笑ましく思っていたのだが、実はめちゃくちゃ忙しく働いているコーヒーカップが10分で指南書を読み5分で作ったものだと判明してコメント欄がざわついた。
チェリーちゃん(テンメイ)の雑談枠での出来事である。
コーヒーカップは生粋のゲーマーであるテンメイとは違い、大抵のゲームに『初めて見た』『初めて触る』と言い放つ超初心者である。
なのに5分も触ればテンメイに匹敵するという、言ってみればチートキャラだ。
イケボなのもあってファンも多い。
落ち物パズルは何時間もの修行が必要なタイプのゲームではないので、コーヒーカップならすぐ習得するだろう。
そんな俺の予想通り、3回ほどチェリーちゃん(テンメイ)にコテンパンにやられたコーヒーカップは――チェリーちゃん(テンメイ)はコーヒーカップ相手には手加減というものをしないのだ――『だいたい分かった』と言った次の瞬間から覚醒し、お互い一歩も引かない攻防が繰り広げられた。
ゲーム画面の左右に精巧な美少女モデルと白いコーヒーカップが対峙するという画面そのものは大変シュールだが、あまりにも白熱した戦いに神回のコメントが数多く寄せられた。

『Salut! Mesdames et Messieurs!(フランス人:こんばんは!)』
『こんばんは~』

チェリーちゃん(テンメイ)が久しぶりに生放送をするというので、俺はビールと柿ピーを手にしてパソコンの前に座っていた。
今日のゲストはフランス人らしい。
フランス人はそういう名前のゲストで、名が示す通りフランス人である。
日本語は不得手ということでいつもフランス語、動画に登場するときは字幕がつく。
今回は生放送なので字幕もリアルタイム、よって少々遅れ気味だし簡潔だ。
先程の挨拶も「こんばんは」一言で表されているが、多分もうちょっとなんか喋ってるんだと思う。
自分はフランス語なんてメルシーしか分かんないので、リアルタイム字幕つけてるだけでテンメイすげーって思うけどね。
ちなみにフランス人は登場するたびテンメイが用意する別の3Dモデルを使うので、声とフランス語でしか判断できない。
今日はめっちゃ長いサボテンだった。なぜ。

『Alors, à quel jeu allez-vous jouer aujourd’hui ?(フランス人:今日何する?)』
『今日はこちらのゲームをフランス人にプレイしてもらいたいと思います』

チェリーちゃん(テンメイ)がそう宣言すると、3Dモデルの後方にゲームのタイトル画面が表示された。
パステルカラーの背景の前にデフォルメされた少年少女のイラストが描かれている、かわいらしい雰囲気のタイトルだ。

『少し前に流行ったフリーゲームですね。マルチエンディングでやりこみ要素もありますが、1つ目のエンディングを見るだけならプレイ時間30分といったところなので、フランス人でも今日中にクリアできるでしょう。文章は少なめなので随時こちらで訳します』

視聴者に向けて説明したあと、テンメイがフランス人に同じ内容っぽいことを英語で話す。
ちょくちょくインテリジェンスを見せてくるんだよな、テンメイって。
画面に流れる俺たちのコメントもテンメイが翻訳してフランス人に伝えるのが常なのだが、今回はリアルタイム字幕の設定に忙しいふりをして意図的にスルーされている。
ま、そりゃあね。
「あっ(察し)」とか「このゲームって……」とか「詐欺OP」とか訳したらどんなゲームか分かっちゃうもんな。
そう、テンメイはフランス人に言っていないことがある。
このゲームがフリーホラー・・・ゲームということだ。

『Aaaaaaaaahhhhhhhh!!』
『笑』
『Vous plaisantez!!??』
『笑』
『Arrête arrête arrête!!!』
『笑』
『Noooooooooooon!!!!』
『笑』

いや~~~~~、フランス人リアクション激しくて好きだわ。
チェリーちゃん(テンメイ)もそれを見越してホラゲーか泣きゲーのどっちかばっかりやらせるもんな。
叫びには字幕がつかないことが多いけど(テンメイも笑っているからだと思われる)、だいたい何言ってるか心で分かる。
フランス人は罠という罠に引っかかりながらも、なんとか一周目のラスボスの元に辿り着いた。
人間を無理やり丸めてこねてくっつけたようなグロテスクなデザインである。

『Alice……Bruno……Je jure de me venger.(フランス人:かたきは取るぜ)』

あー、こいつはこれがいいんだよなぁ。
初見殺しで大声を上げ少年少女が犠牲になるシーンで騒ぎまくるフランス人だが、強大な力を持った敵に対するときだけは静かなのだ。
逃げ出しも臆しもせずに真正面からラスボスに向かっていく姿は、はっきり言ってかっこいい。
まあそのラスボス、エンディングでやべー事実が判明するんだけどな!

『Est-ce que c’est ça? Il y a beaucoup de choses qui ne sont pas claires. Y a-t-il un moyen de sauver Alice et les autres ?(フランス人:終わったけどすっきりしない)』
『まあまあ、まずはエンディングをごらんよ』
『……Quoi……? Vous dites que le monstre est Alice et Bruno ?(フランス人:あのモンスターがアリスとブルーノ?)』
『実はそうなんだ笑』
『Enfoiré!!!!(フランス人:この人でなし!)』
『ごめんごめん笑』

己が倒した化け物が実は少年少女の成れの果てだと知ったフランス人は、お手本のような絶望声を上げてくれた。
チェリーちゃん(テンメイ)は完全に愉悦声である。
俺は動画に「これが見たくて来ました」とコメントするのだった。

『みなさんこんにちは!チェリーちゃんカッコテンメイです。今日のゲストはスシです!もちろん犬もいますよ』
『Hello, everyone.』

「今日はスシか~」
スシとはチェリーちゃん(テンメイ)のレギュラーゲストの一人で、3Dモデルが宙に浮く寿司(ネタはマグロ)であることから命名された。
モデルの作成者はコーヒーカップである。
彼は基本的に英語で喋るが、熱くなったときなどどこの国の言語か分からない言葉が出ることがある。
だからおそらく英語を使ってくれているのは視聴者のためだと思うのだが、少なくとも俺は字幕を見ないと言っていることが分からない。
日本の英語教育の敗北というやつである。
犬というのはスシと一緒に暮らしているらしい犬で、犬種はボストンテリアだとか。
スシが登場する回は必ず「犬もいますよ」と紹介されるんだけど、犬なので画面に出てくることはない。
ごくたまに鳴き声が入ったらラッキーという感じ。

『さて、本日はこちらの恋愛ゲームをスシにプレイしてもらいます。日本のゲームですが、最近発売された国際版を用意してきています。ぼくはオリジナル版を以前にプレイ済みですので、そちらからゲーム内の文章の字幕を用意しますね』

た、助かる~~~。
俺は今一度、動画の再生時間を確認した。
紹介されたゲームは名作だが少し古いので、ストーリーはあまり複雑ではない。
R-18ではないのでエロティックなパートもない。
スシがゲームに不慣れなのを差し引いて、この時間なら正ヒロインルートをすんなりクリアで終了ってところだろう。
そうしてチェリーちゃん(テンメイ)と俺たちと、そして犬が見守るなかスシの恋愛ゲームが始まった、のだが。

『(スシ:幼馴染であっても異性の部屋に勝手に入るんじゃあないッ!)』
『(スシ:学級委員長のわりにスカートが短すぎるのでは?)』
『(スシ:この教師は生徒との距離が近すぎないか!?)』

いや面白すぎるだろスシ。
なんで恋愛ゲームにお説教してるんだ。
しかも熱を込めて喋るたび宙に浮くマグロの寿司がゆらゆら揺れるのが面白さに拍車をかけている。
隣のチェリーちゃん(テンメイ)も笑いを抑えきれていない。
スシはめちゃくちゃ硬派なプレイングでゲームを進めたが、さすがに正ヒロインは好感度が上がりやすく、夏休みに花火を見に行こうというデートイベントが発生した。
ヒロインたちの浴衣姿のスチルを堪能できる、序盤の人気イベントだ。
……ところが。

『(スシ:まだ数回しか会話したことのない異性と夜に二人きりで出かけようとするんじゃあないッ!断る!)』

エェ―――ッ!!??
恋愛ゲームで他のルート狙ってるわけでもないのにデートイベント断るやつ初めて見たんだけどーッ!?
画面が困惑と笑いのコメントで埋まってしまっている。
プレイヤーが超絶身持ちの固い恋愛ゲーム、こんなに笑えるんだな……。
スシはそれからもヒロインたちの誘いを断り続け、同性の友人とばかり遊びに出かけた。
そして。

『(ヒロイン:ずっと黙っててごめん。実は僕、女だったんだ。友達として一緒に過ごしているうちに、お前のこと好きになっちまって……僕と付き合って欲しい)』
『Why……?』

画面が草で埋まってしまって見えなくなる。
プレイ済みの視聴者たちが途中から察していた通り、スシ操る主人公は友情()エンドに入ったのだった。
ちなみにこのゲームにおいて最後のヒロインからの告白はエンディングの一部なので、今までのイベントのように断ることはできない。
というか想定されていない。
つまりスシは友人だと思っていた男子(実は女子)と恋人になることが決定したというわけ。
それを知らしめるようにエンディングのスタッフロールの後ろで、いきなり男装をやめたヒロインと没個性の主人公がデートしたりなんだりといちゃつくイラストが流れていく。

『(スシ:……友人だと思って付き合っていたのなら、女性だと明かされたとしても交際を受け入れるべきではないのでは!!??)』

とうとう主人公にまで説教が始まってしまった。
そうして俺たちやチェリーちゃん(テンメイ)が爆笑していうるうちに動画は終わった。
スシ、真面目で面白みの少ないやつだと思ってたけど、真面目だからこそ面白いことってあるんだな。
ぜひともまた別の恋愛ゲームをやってもらいたいところだ。
もしかしてエロゲーでもR-18シーンに突入しなかったりするんじゃないか、と俺は思った。

『(スターちゃん:わしのファンのみんな元気ィ?スターちゃんじゃぞ!)』
『皆さんこんにちは、チェリーちゃんカッコテンメイです。今日のゲストはスターさんです』

スターちゃんだ!カワイイ!スターちゃん結婚して!
そんなコメントが画面に大量に流れる。
それもそのはず、スターちゃんはチェリーちゃん(テンメイ)のゲストの中でも最も人気が高いと言っても過言ではない人物なのだ。
見た目の3Dモデルはテンメイ作の美少女で、チェリーちゃんより背は低く胸は大きく、目も大きく露出度も高く、輝く金髪をツインテにしているといういわゆる萌え系ロリキャラなのだ。
声も変声ソフトを使ってロリロリの萌え萌えにしているという徹底ぶり。
そうはいってもそんなVtuberは山程いるが、なんとこのスターちゃんは中の人があのコーヒーカップの祖父なのである。
しかもアメリカ人。
おちゃめなおじいちゃんなんて本物の幼児と同じくらいかわいいわけで、中身とガワのかわいさの相乗効果で人気が出たというわけだ。
ロリ系の声を使ってはいるが字幕は老人系の喋り方である。
コーヒーカップいわく「ジジイっぽい喋り方」をしているらしいのだが、ぶっちゃけ日本人には英語のそのへんよく分からない。
でものじゃロリがかわいいのは分かるので……ね?

『今日はスターさんと一緒に人狼ゲームをやってきたいと思います。最終的に編集でくっつけて一つの動画にしたものをアップしますが、今のぼくとスターさんは違う場所にいて別の画面を見ています。ゲームが始まったら通話も切るので安心してくださいね』
『Hold on!(スターちゃん:がんばるぞ~!)』

そうして人狼ゲームが始まった。
今回プレイするのは流行りのタイプの人狼で、村人がタスクをこなしたり人狼が村人を殺すのにアクションが必要だったりする、テクニックと思考力の両方が求められるようなやつだ。
おじいちゃんには不利……と思いきや、そうでもないのがスターちゃんである。

『(スターちゃん:わしずっと右の方でタスクしとったけど黄色は見とらんな~※キルした人のセリフ)』
『(スターちゃん:どー見ても青じゃろ!なんならかばっとるやつは共犯では?※キルした人のセリフ)』
『(スターちゃん:現状わし視点だとどっちか分からんから、勘で赤かの~※人狼なので分かっている)』

これである。
ちなみにテンメイもテンメイでテクニックも思考力もあるので、二人が同陣営になるとエグいことになる。
死体が一つも発見されないまま村人全滅とかあるもんな。
いや怖いわ。

『うーん、情報が足らないですね。ぼく視点だと緑と青が同じくらい怪しく見えます。……というわけでスターさんを吊ります』
『How come!?(スターちゃん:なんでェ!?)』
『もし人狼だったときにより厄介なのがスターさんだからですね~』

わ、分かる~~~~~。
でも俺はその言葉ブーメランだと思うな~。
チェリーちゃん(テンメイ)はガワこそ美少女だが、振る舞いは冷静でクールだ。
高難易度のステージをクリアするときなんかは興奮して熱くなったりもするが、ゲストを呼ぶ回はそんなに難しいゲームをしないので基本クールぶっている。
それに対してスターちゃんはといえば。

『Oh my God!』
『Holy sh*t!!』
『Son of a b*tch!!!』

めっちゃうるさい。
声だけじゃなく身振り手振りもうるさくて、それが美少女のガワに反映されるものだからそりゃあかわいい。
人気も出るわな。
だがスターちゃんは本人が独立してVtuberをやるつもりはないらしく、チェリーちゃん(テンメイ)の動画にしか登場しない。
なのでチェリーちゃん(テンメイ)の視聴者たちの間では大人気だが世間的な知名度はいまいちで、俺たちファンはただ次回の登場をおとなしく待つしかできることがないのだ。
次のスターちゃん、いつかなぁ……。

『皆さんメリークリスマス!今日の動画はクリスマススペシャルです。今日はなんと!コーヒーカップの家からお送りしておりま~す!いつもはそれぞれのカメラでモーションをトレースして3Dモデルに反映させてるんですが、今日は人数に対してカメラが少ないので後付けの編集で声に合わせてモデルを動かすつもりです。ご了承ください。というわけでチェリーちゃんカッコテンメイです』

真っ白な背景の画面の中央にこたつの3Dモデルが表示されており、そこに入っているチェリーちゃん(テンメイ)が片手を振りながら前口上を述べた。
確かにいつもは呼吸による揺れなどが反映されている3Dモデルが、今日はその片手の動作以外に動きがない。

『そういうわけで本日のゲスト1人目、コーヒーカップです』
『おう』

こたつの上に乗っていた湯気立つコーヒーカップがぴょこんと跳ねる。
宙に浮いてるのもシュールだったけど、こたつの上で跳ねるっていうのもアバターだと考えればシュールだ。

『クリスマスなのでコーヒーカップのおじいさんも来ています。ゲスト2人目、スターさんです!』
『(スターちゃん:よろしくの~!)』

あっ、スターちゃんの声がロリ系じゃない!
……それもそうか、同じ場所にいるならマイクも1つだよな。
チェリーちゃん(テンメイ)の向かい側に座ったスターちゃんが両手を大きく広げてひらひらさせた。
明らかに壮年以上の男性の声だったが、うん、ありよりのあり。

『それから、フランス人もフランスから来てくれました』
『(フランス人:みんな元気か~!?)』

こたつの奥側に座って……座って?いた電柱が揺れる。
そうだろうなとは思ってたけどやっぱりフランス人だったのか。
いやなんで?
これ後付けだから、フランス人は自分があとで電柱になること知らないんだよなぁ。

『そしてもちろんこの人もいます。スシです!』
『(スシ:よろしく)』

コーヒーカップの隣にいた……置いてあった?マグロの寿司がぴょんぴょんした。
だからシュールが過ぎるんだわ。

『当然、犬も来ています。今は別の部屋で寝てるので参加は難しいと思いますが。犬のファンの皆さん、すみません。……というわけで大人数ですので、今日はパーティーゲームをしていきますよ!』
『(スターちゃん:わ~~~~~~!!!)』
『(フランス人:いえ~~~~~い!!!)』

ぱちぱちと拍手の音がして、背景の空間にゲームのタイトル画面が映った。
ファミリー向けのメジャーなパーティーゲームで、すごろくと豊富なミニゲームがセットになったやつだ。
リアルファイトに発展するほどの理不尽なゲームでもないし、クリスマスに友達とプレイするのに最適なゲームの1つと言っていいだろう。
彼らはワイワイガヤガヤしながら操作キャラを決めた。
主人公キャラを選んだのはフランス人。
スシがその弟キャラで、メインヒロインのおしとやか系お姫様はスターちゃんが。
サブヒロインの元気系お姫様はチェリーちゃん(テンメイ)で、コーヒーカップは量産型の海洋系敵キャラ。
なんで1人だけノリが違うんだ。
いやこのゲーム操作キャラで性能変わったりしないからいいんだけども。
そうして、クリスマスパーティー回が始まった。
ファミリー向けだけあってミニゲームは難易度の低いわちゃわちゃ系がほとんどだ。
なのにチェリーちゃん(テンメイ)は必勝法を編みだすし、コーヒーカップもいつもの『だいたい分かった』からいきなり強くなるし、スターちゃんは初めからある程度うまいけどちょくちょく裏をかかれるし、見てて飽きない。
フランス人は得意なゲームと苦手なゲームの差が激しすぎるのに駄目なやつでも自信満々だし、スシは実直なプレイングだけどギャンブル系が弱すぎる。
ちょくちょくピー音が入るのは盛り上がりすぎて本名を呼んでしまっているのだろう。
そしてゲームの進捗が半分を過ぎたあたり。

『Dad, everybody! The cake is baked. Can someone decorate it?』

えっ、女性の声だ!?
字幕が出なかったので何を言ったのかは分からなかったけど、マイクから少し離れた場所で女性の声がしたのは分かった。
家でプレイしてるわけだし何もおかしくはないんだけど、なんか男ばっかりのゲーム実況グループみたいな思い込みがあったので、変声ロリ声でない女性の声に驚いてしまった。

『(スターちゃん:わしがやろう。料理のほうは?)』
『(もう仕上げだけよ)』
『(スターちゃん:だったらあとはわしと(ピー音)に任せて(ピー音)は休憩しなさい)』
『いいですね。スターさんの代わりにゲームしませんか?』
『あたしが?できるかしら』
『全年齢対象のパーティーゲームだぜ。おふくろにもできるだろ』

アッやっぱり!
そうかな~とは思ったけど、コーヒーカップのお母さんらしい。
最初ダッドって言ってた気もするし、スターちゃんの娘さんなのかな。
彼女がスターちゃんと交代してゲームをプレイすることになったようだ。

『声を録音してインターネットに公開するのよね?ちょっと緊張しちゃうわ!』
『いつもどおりでいいですよ』
『(フランス人:(ピー音)さん、お手柔らかに頼むぜ!)』

コーヒーカップはもう働いているわけだからその母親ならそこそこの年齢だろうに、声も喋り方もかわいい人だ。
『がんばりま~す』という声に合わせてスターちゃんの3Dモデルが笑顔で手をふる。
中身がおじいちゃんのスターちゃんもかわいかったが、ガワと中身が一致してるスターちゃんもめちゃくちゃかわいいな。
どうやら彼女のことはホーリー・スターちゃんと呼ぶことでまとまったらしい。
OK、ホリスタちゃんかわいいよホリスタちゃん。
ホリスタちゃんはゲームプレイヤーとしてはごく普通の一般人の初心者という感じで、特にうまいわけでもないしスキルが多少は必要なミニゲームでは明らかに不慣れな様子を見せた。
だがことあるごとにきゃあきゃあリアクションしてくれるので見ててすごく楽しい。
おばけに追いかけられるミニゲームであそこまで笑える人いる?
好き……。
あまりにもかわいいので画面がホリスタちゃんを褒めるコメントで埋まってしまっている。
結婚してコメに同意できちゃうよ。
コーヒーカップのママなのは分かってるけど。
そうこうしているうちにスターちゃんが戻ってきたが、プレイはこのままホリスタちゃんが続けるようだ。
スターちゃん(中の人)がなにか喋るたびにスターちゃん(3Dモデル)についている星型の飾りがぴょこぴょこ動く。
マスコットかな?かわいい。
さてそんなこんなでゲームも終盤。
こういったパーティーゲームにはよくあることだが、ラストが近くなると盛り上がりのために一発逆転チャンスが発生するシステムが実装されている。
そしてそういうシステムは大抵の場合、純粋なゲームの腕前より運が求められるものなのだ。
ファミリー向けのゲームだからね、ゲームが苦手な小さい子や高齢の人にも勝利のチャンスがなければね。
ゲーム初心者のホリスタちゃんは、途中のギャンブル要素でアホみたいな失点をしたスシと熾烈な最下位争いを繰り広げていた。
ちなみにトップ争いをしているのはチェリーちゃん(テンメイ)とコーヒーカップ。
フランス人は下の方にいたけど、スシが失った得点が運良くほとんど流れ込んできたので現在3位である。
スシも面白くていいやつなんだが、俺たち視聴者はすっかりホリスタちゃんに心を奪われてしまって、みんな彼女を応援していた。

『このサイコロで4以上を出せばいいのよね?』
『(スターちゃん:そうじゃぞ!)』
『出目が大きければ大きいほどいいので、6を出してくださいね。振る前に掛け金も設定できますよ』
『じゃあせっかくだから全部入れちゃいましょう。そぉ~れ!』

かわいらしいお姫様のミニキャラが大きなサイコロを放り投げる。
それはゲーム画面を転がり、転がり、転がり……そして。

『きゃあっ!出たわよ、6!』
『(フランス人:えっほんとに!?すげえ!)』
『(スターちゃん:さっすがわしの娘~!)』
『ここぞというところで……持ってますね、ホーリー・スターさん』
『(スシ:ぐぬぬ……これはわたしのが最下位が決まってしまったのでは?)』
『いや、最下位どころの話じゃあねえ。これは……』

画面上のお姫様がニコニコしながら自分の得点枠を見ている。
数字はどんどん増えていき、そしてついには。

『あら?もしかしてこれって……』
『(フランス人:(ピー音)と(ピー音)を超えてんじゃん!!)』

画面がコメントで埋まる。
逆転のチャンスに勝ったホリスタちゃんは一気に得点を増やし、なんと単独トップに躍り出たのだ。
とはいえ2位と3位に転落したチェリーちゃん(テンメイ)、コーヒーカップとはわずか数点差。
まだどうなるかは分からない。
そうして迎えた最後のミニゲームは、お手本に合わせて自分のキャラクターにポーズを取らせるというものだった。
ズアッ!とかバーン!とかいう効果音に合わせ、キャラたちがポーズを決める。
この戦いに勝利したのは……

『(フランス人:おれが一番!)』

フランス人だった。
なんでやねん。
フランス人、こういうの得意なんだよな。
やがてすごろくも「あがり」となり、所持アイテムや借金などの精算をする最後の得点計算が行われる。
そして。

『やー、チャンネル主として無事に優勝できてよかったです。ホーリー・スターさんとコーヒーカップとは本当に僅差だったので危なかったですね』

見事クリスマスカップを制したのはチェリーちゃん(テンメイ)だった。
ファミリー向けパーティーゲームとはいえ、ゲーマーの意地を見せたというところか。

『お開きにする前に、皆さんに今日の感想を聞いてみましょう。まずはホーリー・スターさんから』
『みんなと一緒に盛り上がれてとっても楽しかったわ!また遊びましょうね!』

はいかわいい。
人妻ってマジ?
画面にもまた来てほしいというコメントが山のように寄せられている。
ホリスタちゃん、罪な女だ……。

『ぜひまたゲストとしてお呼びしたいですね。次にスターさん』
『(スターちゃん:反射神経鈍っとってショックじゃった~。でも娘が最強だったからOKです)』

このコメントの最中は3Dモデルの主導権が戻ったのか、スターちゃんがテヘペロ顔を見せる。
なんてあざといジジイなんだ。

『あの追い上げはすごかったですよね。ではスシ』
『(スシ:中盤で大負けしてから取り戻せなかったのが残念だ……)』

本気で悔しそうな声なのに、喋っているのがこたつの上で飛び跳ねる寿司なのでやっぱりシュールだ。

『あれは痛手でしたね。次、フランス人』
『(フランス人:ホーリー・スターさんとゲームできて楽しかったぜ~!次は初めから一緒にプレイしましょーネッ!)』

流れるようにお誘い……だと……。
フランス人のことあまりフランス人だと認識してなかったけど、これはフランス人。

『フランス人、画面のこちら側でホーリー・スターさんにウィンクしてますからね』

な、なんだってー!?
俺たちにできないことを平然とやってのける……。

『では最後にコーヒーカップ』
『次は勝つ』
『簡潔なコメントどうもありがとう。コーヒーカップは有言実行の男なので次が怖いですね』

そのあと動画は彼らがクリスマスのごちそうを食べるということで終了となった。
いいなあ、俺もコンビニケーキは買ってきたけどさ。
動画の投稿日は本日25日のお昼過ぎである。
彼らがパーティーをしたのはイヴだろうか。
俺は一人寂しいクリスマスを迎えたわけだが、一緒にパーティーゲームをしていたような動画が見れたので案外ひとりぼっちという気はしない。
こうして俺はケーキをつつきつつ、Vtuberチェリーちゃん(テンメイ)の次の動画を待機するのだった。