イチジクの誘惑(女体化見た目ロリR-18)

 
承太郎が曽祖父の書斎に立ち入ったとき、そこはもう何十年も人が立ち入っていないのがすぐに分かるほど埃にまみれていた。
彼はお目当ての本――海洋学に関する古い書籍だ――だけを手にとってさっさと出て行くつもりだったのだが、それを発見するのさえ大変そうだ。
やれやれだぜ、誰に言うでもなく呟くと、承太郎は半分掃除の勢いで本の捜索に当たった。
ここの書斎は大戦の前に作られたものであり、戦火こそ免れていたが中は酷い有様だった。
承太郎は割れた花瓶や壊れた椅子の破片に注意して本を探さなければならなかった。
だがいざ目的の本を目にして、少々注意力がそれてしまったらしい――その本に手を伸ばし、元々は窓か何かであったのだろうガラスの破片で手を傷つけ、思わず引っ込めた手が別の本に当たり……、そしてその本がばさりと音を立てて落ちたとき、そこには裸の少女が座っていた。
「………は?」
いや、裸ではない。
かろうじて局部を隠すほんの少しの黒い衣服に身を包み、いやいやそんなことはどうでもよくて。
「誰だ、お前は?」
「ああ!退屈だった!あなたがぼくのマスター?」
「質問を質問で返すな。学校で習わなかったのか…学校には行ってなさそうだな。お前は誰だ?」
「ぼくの名前は花京院。この本に封じられていたサキュバスです。血で封印をといてくれてありがとう。今日からよろしくね」
何が何で、封印が何で、何がよろしくって?
「……白昼夢か。研究で疲れてんのか、俺としたことが………」
「あー信じてないな。でも残念でした、ぼくはもうきみにとり憑いちゃったからね。契約が無効になるまで、ずっと傍にいてやるんだから!」
「本も見つかったことだし、今日は早く帰って寝よう。それがいい」
そうして承太郎はさっさと自宅に帰り、シャワーを浴びて一杯だけウィスキーを飲んで眠った。
翌朝目を覚まして、自分の子供と言っても通じるような幼い少女が隣に寝ているのを見て、頭を抱える事態になるとは知らずに。

 
 

「で、だ。もう一度聞こう。お前は一体誰だ?」
「だからー、ぼくはサキュバスっていう悪魔です。契約が切れるまではきみが嫌って言っても憑いて回るからね」
「契約が切れるってのはいつのことだ」
「内緒!」
承太郎は深くため息をついた。
どうもこの少女とは会話ができない。
「お前の素性はよく分からねえが、とりあえず朝飯にしよう」
「あ、もしパンやぶどう酒のことを言っているならぼくはいらないよ。ぼくの食べ物は決まってるんだ」
「何だ?」
「精液」
げほっ、と今度は咳き込むことになった。
「一体最近のガキはどういう教育を受けてるんだ!」
「ぼくはもう300歳を過ぎてます!」
「どこがだ、胸も膨らんでねえションベンくさいガキだろーが!」
「うっ……酷い、それは……ぼくがサキュバスとして成長してないからってだけです……」
そう言ってうつむいてしまった少女の、ふわふわとした長い前髪も、ふっくらとした頬も、突き出されたやけに赤い唇も、どれもやはりただの年若い子供のものにしか見えない。
「…とにかく、ぼくは人間の食べ物は食べませんからね」
承太郎はそれでも、彼女の分の朝食も用意したが、花京院はやはり水の一滴も口にしようとはしなかった。
「まあ、食いたくねえならそれでもいいが。それより俺はこれから出勤だ、お前もさっさと家に帰れよ」
「だから、ぼくはきみに憑いてるんだってば。心配しなくても、よほど霊感の強い人じゃあければぼくの姿は見えないよ」
そこまで来ても、承太郎は彼女の言うことを信じてはいなかった。
実際に、町を行く人が誰も彼も花京院の存在に気が付かない現実を目の当たりにするまでは。

 

帰宅して二人きりになってから、承太郎はまた深く深くため息をついた。
「ぼくが悪魔だって納得した?」
「……した」
「じゃあセックスしよう」
「どうして!そういう話になるんだ!」
「きみがぼくのマスターなんだから、ぼくとセックスしてサキュバスとしてのレベルを上げるのは義務と言っても過言じゃあないぞ。さあベッドに行こう」
「冗談じゃあねえ、そんなガキの体に興奮できるか」
承太郎は端正な顔立ちをしていたから、簡単に言うとよくモテた。
一人の女性と長続きしないとはいえ、恋人がいない現状の方が珍しいくらいだ。
そんな承太郎にアタックしてくる女性というのは、自分に自信のある美女ばかりで、当然彼女らは豊満な体つきをしていた。
目の前の、どう見ても幼児体型の少女に誘われて――それもスポーツか何かのような誘い方だ――興奮しろというほうが無理な話だ。
子供などいないが、ほとんど父親のような気分で花京院を無理矢理風呂にいれ、布団に寝かしつけて自分はソファで眠った。

 

次の日もそのまた次の日も同じように、承太郎だけ食事を済ませ、誰にも見えない少女を連れて出勤し、帰宅してから彼女の誘いを断る日々が続いた。
だからその日も当然、帰宅直後に「セックスしよう」と持ちかけられ、「おめーとはできねえ」と断ったのだ。
そこでいつも花京院はぷんすか怒り出すものだから、てっきり今日もそうだと思ったのだが。
「……だって、じゃあ、どうしたらいいんだよ」
「何?」
「どんなに嫌でも、きみがぼくのマスターなんだ。魅力的な美女になるためにはセックスしてもらわなくちゃならないんだから、興奮しないなんて言われたら、ぼく、どうしたらいいのか分からないよ」
「そんなことを言われてもなあ」
「ぼくを人間の子供だと思うからいけないんだよ。本当はきみよりずっと年上なんだから、そういうつもりで扱ってくれよ。でないとぼく、そろそろ……限界だ」
そう言って花京院は床にへたり込んでしまった。
慌てて抱き起こしてベッドに連れて行くが、やはり用意してやった水を飲もうとしない。
「それじゃないんだ、ぼくはサキュバスだって言っただろ。口にできるのは精液だけなんだよ。だから、セックスさせてもらわないと……餓死してしまう」
「誰か、その…俺じゃあねえやつじゃあ駄目なのか」
「きみでないと駄目だ。契約が切れるまでずっと、きみひとりだ」
「契約ってのはいつ切れるんだ。どうしたらいい?」
「……ぼくに興味がなくなるまで、だ」
「俺は元々お前には興味がねえって言ってるだろう」
そう切り捨てると、花京院はいささか悲しそうな目をした。
「そうじゃあないんだ。ぼくは性欲の具現だから、ぼく自身に興味がなくてもいいんだ。きみが健全な男性でいるうちは、ずっと契約が切れないようになっているんだよ」
ふうと辛そうな息を吐く少女を見ていると、承太郎も自分の胃袋がぎゅうとつかまれたような感覚がした。
俺がこいつを抱いてやらないと、餓死してしまうって?
「………分かった。だが、きつかったら言えよ」
そう言って、ゆっくりゆっくり服を脱ぐ。
初めは何を言われたのか分からないような顔をしていた花京院も、承太郎がすっかり裸になる頃には期待に瞳を光らせていた。
さっきまで本当に辛そうにしていたのに、今では舌なめずりでもしかねない表情をしている。
花京院もてきぱきとささやかな服を脱いだ。
その体を見てもやはり興奮のしようがないので、自分でどうにかしようと手をかけると、「ぼくが」と言って止められた。
そのままゆっくり口に含まれる。
戸惑いの欠片すらないその様子に、あるいは的確に承太郎のいいところを狙ってくるその技巧に、ただの少女ではないのだと改めて認識させられる。
承太郎は、自分が思っていたよりあっさりと反応したのに戸惑うほどだった。
「おい、もう、いい」
「ううん、このまま…飲ませて、お願い」
緩急をつけて口と舌を使う彼女に導かれるまま、承太郎はその口内に欲望を吐き出してしまった。
休む間もなく更に追い立てられ、久しぶりでもあった承太郎自身はすぐに花京院に応えて熱を取り戻す。
今度はあまり追い詰められる前に口を離される。
糸を引くその赤い唇がいっそ奇妙なほど艶かしい。
いきり立った承太郎を見て満足そうに微笑むと、花京院はベッドに身を沈めて大きく足を開いた。
「いれて、早く」
だが、やはりというかなんというか、小さい。
「大丈夫なのか?」
「いいから、承太郎……」
せめても、と指をあてがってみれば、そこは既に十分潤っており、何の障害もなくその指をするりと取り込んだ。
途端、花京院が甲高く甘い鳴き声を上げる。
「お願いだから、指じゃなくて承太郎の、いれてぇ…おなかすいたぁ……」
その甘くとろけるような声に辛抱ならなくなった承太郎は、思わず自分のものを突き立てた。
「ッあぁ―――…!!」
花京院は快楽に顔をゆがめ、腰を振って承太郎に応えた。
誓って承太郎は幼児性愛者ではないし、今まで子供をそういう目で見たこともない。
けれど花京院のまろやかな頬も、片手で覆いきれてしまう小さな手も、ふくらみがなく飾りだけの胸も、承太郎の腰に必死にしがみついてくる短い足も、どれもこれ以上ないほど好ましく、そして愛おしく思えたのだ。
その晩、花京院は十分にご馳走を貪った。

 
 

次の朝、頭を抱えることになったのは今度は花京院のほうだった。
「なんで!あれだけヤったのに成長してないの!?」
相変わらず彼女は、7歳か8歳そこらの子供にしか見えない容貌をしている。
「グラマラスな大人の女性とは言わないけど、せめて17歳くらいにまではなれると思ったのに……なんで…」
「………まあ、心当たりはあるがな……」
「え、何?」
「何でもねえ」
誤魔化しつつも承太郎は、グラマラスな大人の女性や17歳のこいつも悪くねえかもな、と思っている自分に気が付いていた。
ある程度成長したサキュバスが、好きな見た目に変化できると知るのはもう少し先のことである。