君に釘付け!

オメガバース設定。
本文内に独自設定を含む説明があります。

「……こうして私は運命の相手を見つけることができました!」

スタジオにカメラが戻り、感動したといった顔のタレントが映される。
くだらない、と花京院は思った。
普段こういったバラエティを見ることすらしないのだが。
ここは病院の待合室で、自分の番を延々と待ち続ける患者たちのために、大型テレビが騒がしい番組を映していた。
運命のつがいなんて「オメガバース信仰」、くだらないにも程がある。

花京院典明はとある財団でエンジニアをしている、男性/アルファ性の青年だ。

男性というのは第一性別のことで、これには男と女の2種類が存在する。
男性と女性のペアであれば、第二性別に関係なく子供ができる。
この場合、胎児は女性が生まれつき持っている子宮に宿る。
アルファ性というのが第二性別だ。
これにはアルファ、ベータ、オメガの3種類がある。
こちらは片方もしくは両方がオメガ性であれば、第一性別が男女どちらであれ子供ができる。
この場合は、オメガ性の生殖器からの分泌物が擬似子宮を形作るので、性交渉をしたペアのどちらの体内に子供を宿らせるか、自分たちで選択できる。
そしてこの第二性別に関して、ある一つの迷信があるのだ。
それが「運命のつがい」、あるいは「オメガバース信仰」である。
第一性別である男性と女性は、このどちらも同じくらい生まれやすく、故意に堕胎などをしなければ、ほぼ2分の1の確率で子供の性別は決まる。
ところが、第二性別は違うのである。
第二性別においては、ベータ性が一番生まれやすく、オメガ性がその次、アルファ性が最も生まれにくいのだ。
親が両方アルファであっても、その子供のほとんどがベータ、たまにオメガ、極稀にアルファといった具合である。
だがしかし、親がアルファとオメガの組み合わせ、この場合のみアルファ性の子供が生まれやすいというのが、統計の示すところである。
オメガ性にのみ何ヶ月かに一回訪れる、”発情期”と呼ばれる期間であれば、特に子供ができやすい。
そして、これも迷信ではあるのだが、アルファ性は他の性別に比べてあらゆることに優れ、判断力があり、人を惹きつける力を持つと言われている。
多くの政治家や世の中で成功した人々がアルファ性であることは、広く知られていることである。
とはいえアルファ性であるというだけで一種の優遇を受けることができるので、自分の第二性別を偽っている人物もちらほらいるという話だが。
さてこのように、「優秀なアルファを生みやすい」アルファとオメガの間にあるのが、「運命のつがい」という迷信だ。
これはまあ、言葉通りだ。
「この人しかありえない」と本能が求める相手が決まっているという話だ。
そう、迷信に過ぎない。
花京院はそう思っていた。
運命の相手はひと目見ただけで分かるといい、「つがい」であるからには、相手もまったく同じ気持ちを抱くのだという。
だったらやはり、そんなもの存在しないのだ。

花京院には一人の友人がいた。

名前は空条承太郎。
彼は花京院が勤める財団の重要人物で、しかし普段はある大学で海洋生物学の研究を行っているという男/アルファだ。
いや、男だともアルファだともはっきり伝えられたわけではないのだが、どう見ても男だしどう見てもアルファだ。
彼は見目麗しく、立派な体格を持ち、頭脳明晰、家柄もよく、アルファの男というのはこういうものを指すのだと、人々に知らしめるような存在だった。
花京院と承太郎の出会いは、こういうものだ。
ある日花京院の部署に、コンピュータの修復の依頼がきた。
どうも、大事なコンピュータを誤って水没させてしまったとかで、飛んでしまったデータが来週の学会にどうしても必要だという。
花京院は機材を携えて、その大学の研究室のドアをノックした。
そうして出迎えてくれたのが、承太郎だ。
彼の顔を見た瞬間、花京院は体に電撃が走るのを感じた。
目の前でスパークが弾け、喉と目尻が熱くなり、手が震えて鞄を取り落としそうになった。
承太郎の周りの空気だけ、キラキラと光って見える。
「あなたが僕の運命ですか」、花京院がそう言わなかったのは、承太郎がほんの少し目を見開いただけで、「ああ、業者か。入ってくれ」とだけ言って、すぐ背を向けてしまったからだ。
運命の相手に対する態度ではなかった。
その時に、花京院の「つがい」信仰は幕を閉じた。
いや、もともと信じてなかったけど。
本当だって。
花京院の奮闘の成果で、承太郎のデータはめでたく蘇った。
承太郎はたいそう感謝し、昼食をおごってくれた。
大学の食堂ではあったのだが、この近くに他に昼食を食べられる場所がないので仕方がない。
そこで話が弾み――共通の話題がほとんどなかったにもかかわらず――彼らはプライベートの連絡先を交換し、個人的な友人となったのだ。
承太郎と親しくなってから、花京院は彼の家柄について調べてみた。
彼の家は元を辿ると英国貴族の出で、ジョースター家という。
アメリカ国籍を取って移住したジョセフ・ジョースター氏という男性/アルファ性が現当主で、彼と花京院が働く財団の創始者が、家族同然の仲だったという。
今も関係は良好で、財団がジョースター家を支え、不動産王であるジョースター氏からは財団に多額の寄付がなされている。
空条承太郎も、若いながらも海洋生物学の分野では名を知られた人物であるらしい。
財団の幹部にという声も少なからずあったようだが、それを断って学問の道に入ったのだとか。
「……ハードル高いよなあ……」
花京院はため息をついた。
僕が女性、もしくはオメガ性だったら、もう少しは話が早かったのかもしれないが。
そう、花京院は彼、承太郎に恋をしていたのだ。
運命じゃなかろうが、男同士だろうがアルファ同士だろうが関係ない。
花京院はこの恋を、ちょっとやそっとで断念する気はなかった。
そりゃ女性のような柔らかさもオメガ性のようなフェロモンもないかもしれないが、人生初の恋なのだ。
諦めてたまるか。
そんなふうに花京院が決意を新たにしたところで、受付から名前が呼ばれた。
花京院の名前ではない、承太郎の名前だ。
実は今日は、承太郎の頼みでこの病院に薬を取りに来ているのだ。
病院と言っても普通のところではなく、財団が運営するかなり大きな病院だ。
「話を通してもらっていると思うんですが」
「花京院さんですね。身分証明書を……はい、結構です。ありがとうございます」
おくすりおわたし窓口の受付係は、花京院に薬の入った紙袋を、更にビニール袋に入れて渡してくれた。
どういった薬かは説明がなかったが、承太郎本人には分かっているのだろう。
それから車を飛ばして、承太郎の住むマンションに向かう。
行ったことのないところだったが、カー・ナビゲーションが優秀であったため迷うことはなかった。
入り口のオートロックの前で、メールで伝えられていた部屋番号を入力する。
「……はい」
「承太郎、僕だ。大丈夫か?」
「ああ、花京院か……悪いな…今開ける……」
承太郎の声はいつもの20分の1ほどの覇気もなかった。
花京院はそわそわしながらエレベータが最上階に上がるのを待った。
あった、この部屋だ。
花京院はインターフォンを鳴らした。
「……花京院か」
そう言う承太郎の声は小さく、荒い息が聞こえてくる。
……不謹慎だが、ちょっとドキドキする。
というかさっきから妙にドキドキしている気がする。
それはそうか、好きな人の家だし、その好きな人に頼ってもらっている状況なんだし。
「薬を持ってきた。入れてくれ」
「いや、……うつすといけねえ。ノブにかけといてくれ」
「ええ?少しくらい大丈夫だよ。僕だっておかゆくらいは作れるし」
「駄目だ!」
急に大きな声を出されて、花京院はびくりと身をすくめた。
「……駄目だ、うつすわけにはいかねえ。置いて帰ってくれ。……ありがとな」
「そうか……分かった、承太郎、お大事にな」
そこまで言われて強く出ることもできず、花京院は薬の入ったビニール袋をドアノブにかけた。
帰りがたくて、エレベータの前で少しの間だけ承太郎の部屋の扉を伺ってみたが、彼が出てくる気配はなかった。

さてそんなことがあってから一週間もしないうちに、承太郎から電話がかかってきた。

「花京院、この前は助かったぜ。ありがとな」
「やあ承太郎、もう体調は大丈夫なのかい?」
「すっかりよくなったぜ。ところで花京院、明後日の金曜日の昼、あいてるか?」
「え?普通に仕事だけど。どうかしたかい?」
「そうか……」
承太郎の声があんまりにもしょんぼりしているので、花京院は「何かあるのかい?」と重ねて尋ねた。
「いや、C大学で論文の発表会があるんだ。堅苦しいやつじゃなくて、学生主体のやつで、入場自由だから……」
「へえ、僕みたいな専門外が聞いても楽しめるものかい?」
「生物学の学部から色々と来るから、ある程度はよそにも分かりやすい話になるはずだ」
「それで、君は昼から発表するというわけだ」
「ああ、招待講演だし、広く学生向けの専門的過ぎない話をするつもりだ。だから…」
「僕を誘おうというわけだ。オーケイ、重要な締め切りは近くないし、有休が取れないか聞いてみるよ」
花京院の働く財団は、世のため人のためを理念に掲げる大財団である。
所定の手続きを踏んで申請された有給休暇の届け出は、特に何の反対もなく受理された。
職場の同僚に「明後日?何かあるの?」と聞かれたが、なぜか言葉を濁してしまった、ら「頑張れよ」とウインクされた。
まあそう間違ってはいない。
そして金曜日、花京院はC大学の講義室に座っていた。
花京院だって一応まだ20代である。
大学は院には行かずに卒業したが、学生たちが真剣に発表に挑む姿は、微笑ましいと同時に懐かしくも共感でき、当初思っていたよりずいぶん楽しめた。
内容もなかなか面白い。
学生たちの発表はいくつかの大きめの部屋で同時に行われたが、招待講演の承太郎は広い講義室で喋るようだった。
近年発見されたある種のサメの行動パターンに関する研究成果は、花京院でも分かりやすく、興味深いものであった。
承太郎も、心なしか話し方がいつもより熱が入っている気がする。
講演後、承太郎に会いに行こうと立ち上がった花京院の耳に、「やっぱイケメンだよね」という言葉が聞こえてきた。
「海洋生物は分野外だけど、声かけに行こうかな?」
「やめときなよ。空条博士ってそういうの嫌いらしいよ」
「そうそう。学術的な質問もなく話しかけに行ったオメガが、次の学会で質疑応答スルーされ続けたって」
「え、マジで?やめとくわ……」
「遠くから眺めるだけがいいよ」
「どうせ付き合えるわけじゃないしね」
その会話で、花京院の心はたいそう揺らいだ。
揺らいだが、いつかは付き合いたい。
花京院はやっぱり、承太郎に話しかけにいくことにした。
承太郎は準備室に入るところだった。
彼は花京院を目に留めると笑顔を浮かべ、一緒に部屋に入るように促した。
後ろで「誰!?」「どこの大学!?」というような声が聞こえたが、耳に入らなかったことにした。
「今日は大学生っぽい格好してんじゃねーか、花京院」
「さっきの先生らしい口調はどうしたんだ、承太郎?一応場に合わせようと思ってね。おじさんが変じゃないかな」
「大学ってのは年齢不詳で学生なのか教諭なのかも不明なやつらがうようよいるもんだぜ。お前も十分学生で通じる」
「それは嬉しい……かなあ?」
花京院はくすくす笑いながら、特に理由はなく机の上に視線を移した。
ふと、見覚えのある紙袋が目に入る。
あの薬だ。
「承太郎、君まだ本調子じゃないのかい?」
「ん?」
「いや、だってそれ、あの薬だろう?」
「ああ、いや、もう体調は問題ない。これはなんというか……予防薬みたいなものだ」
「治ったあともいるのか?」
「そうだ」
「その、何の病気なんだ?聞いてなかったよな」
「それは……」
承太郎ははっとするほどの光をたたえて花京院の目を見つめた。
「それについては、ここでは話せねえ」
花京院は少々うろたえた。
ちょっと悪くした風邪だとか、その程度だと思っていたのだ。
そんなに重大なことなのだろうか?
「そのことについて話したいから、明日俺の家に来てくれねえか?」
「それはいいけど……うん、分かったよ。そこで聞こう」
花京院としては、承太郎の『病気』についてももちろん気になったのだが、また好きな人の家に行けるというので、内心浮かれていた。
とはいっても、承太郎は花京院を友人としてしか見ていないだろうから、家に上がっても狼になるつもりはなかった。
花京院は忘れていたのだ。
狼がきちんと群れの中で交尾をする動物だということを。

論文発表会の次の日は土曜日で、花京院も承太郎も休みだった。

花京院は承太郎に誘われるまま、彼の家に遊びに行くことにした。
この間と同じように、オートロックの前で部屋番号のボタンを押す。
「やあ承太郎、僕だ。来たよ」
「ああ……上がってくれ」
花京院は、あれ、と思った。
また承太郎の声がおかしい気がする。
なんというか、上ずっているような。
またぶり返したのだろうか?
大したことがなければいいが。
部屋の扉の前で、花京院は深呼吸した。
片想いをしている相手の、プライベートな空間に足を踏み入れるのだ。
髪を手櫛で撫で付けて、服装の乱れをチェックし、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた。
そして、インターフォンを鳴らした。
「承太郎、僕だ」
花京院がそう言うと、扉が開いた。
分厚い扉だった。
音も他のものも、何も通さないようなつくりだろう。
花京院は、用意していた「お招きありがとう」という言葉は言えなかった。
むわりと強烈な『匂い』に襲われて、それは喉の奥に引っ込んでしまった。
その中から承太郎の太い腕が伸びてきて、花京院の腕を掴むと、ぐいと部屋の中に引きずり込んだ。
花京院は靴を脱ぐことさえできなかった。
肩に担ぐように持ち上げられ、リビングを抜け、開け放してある扉の向こう、寝室へと入っていく。
それから広いベッドの上に放り投げられた。
「じょ、んむ、ぅ」
唇を合わせられ、舌が入ってくる。
ひるんだのは一瞬だけで、その熱く濡れた肉塊に導かれるようにして、自分からも舌を絡めていた。
とても気持ちがいい。
何も考えられない。
顔が熱い。
うるむ目を、それでもなんとかこじ開けてみれば、花京院に覆いかぶさっている承太郎の目が、緑色にメラメラ燃えていた。
「どう、したんだ、じょうた、」
「今日は抑制剤を飲んでねえ」
「よくせいざい…?」
「発情を抑える薬だ。俺用に調合させてるやつで、あれがないと発情期は外に出られねえ」
「はつじょうき…」
「オメガ性に定期的な発情期があんのは知ってんだろ」
「おめが…ぼくはあるふぁだぞ……」
「調べさせたから知ってる。だったらお前が、俺の運命のつがいってやつなんだろうぜ。……悪い、もう限界だ」
「え、へぁっ!?」
いつの間にか花京院は全裸になっていた。
喋っている間に脱がされたのか。
シャツのボタンがなくなっている気がする。
すっかり外に出てしまった花京院のペニスは、がっつり上を向いていた。
なんだこれおかしい。
キスしただけなのに。
いや、キスするより前に、もうきつくなってきたような……。
気が付けば承太郎も全裸で、花京院のものより二回りくらい大きいやつが、既にべとべとになっていた。
承太郎はそれを花京院のと一緒に握りこんで、上下に手を動かした。
「ひぁッ、あっあ、んんぅ」
高い声が漏れてしまって、慌てて手で口をふさぐ。
ところが承太郎が、片手で花京院の両の手首をすくい上げ、頭の上で一つにまとめてしまった。
「あっんんんッ……」
驚くほど早く達してしまい、花京院は少しの気恥ずかしさを感じた。
ところが直後に承太郎の背筋が伸びて、くっつけあっている部分が震えたので、彼も果てたのだと知れた。
しかし、少しも萎える様子を見せない。
自分のも、承太郎のも。
承太郎は手のひらで出された粘液をくちゃくちゃやると、あろうことか花京院の足の間の、後ろの穴に指を伸ばした。
「なん……あっまって、んん…」
承太郎の太い指が、液体の滑りを借りて入り込んでくる。
「ぐっう…」
「ちゃんと息しろ」
「うん、ふうーふうー」
「その調子だ」
承太郎の人差し指と中指が中に入って、好き放題している。
「きついな」
「ぼく、だって、きついぞ」
「痛ェか?」
「いたくは、ない……」
2本の指は少しの間、中を広げるような動きをしたあと、壁に粘液を塗りこむように動いた。
「このへんだろ」
「ふー、ふー、んうッ!?やっなに」
「ここか?覚えたぜ」
「なに?なんかへんだ、そこ」
「大丈夫だ」
何が大丈夫なのか分からないし、承太郎も額に汗を浮かべて荒い息を吐いているから、ちっとも大丈夫そうではない。
「入れるぜ」
「えっなにを、えっそれ?」
「嫌か」
「んんん、分かんない」
「じゃあいいんだな」
「ッうん、分かった、分かんないけど、いいよ」
花京院は上の空で、自分が何を言っているのかもう判別もつかない状態だった。
が、とにもかくにも許可を得た承太郎は、侵入を開始した。
「っうー……」
「く、う…」
「は、はいった?」
「まだ半分くらいだ、力抜け」
「むずかしいぃ…」
承太郎はゼイゼイと呼吸している愛しい人の、少々力を失ったペニスを握った。
「っひゃん!?」
「あー……花京院すげえかわいい……」
花京院の両手はもう、口をふさぐだなんて考えも浮かばないようで、シーツをきつく握りしめている。
承太郎は左手で花京院の足を抑え、右手で花京院のものを扱きながら体を進めた。
びくんびくんと跳ねる花京院の腰の動きが、それを助けてくれる。
「ふ、う……全部入ったぜ」
「んんっ、よかった」
「動くぞ」
「っうん、っあ、あっぁ、んッ…」
「このへん、だろ、」
「…ひァッ!!」
花京院の背中が飛び上がったのを見て、承太郎は同じところをガツガツ攻め立てた。
「っやあ、そこ、っひん、だめぇ、あぁンっ」
「だめじゃ、ねえ、だろッ、んな顔しといて…!」
「だってぇ……」
目やら口やら色々垂らしてぐちゃぐちゃな顔になっている気がしたが、どうしようもない。
「かお、みないで、ッひぅ」
「無理言うな」
そう言うと、承太郎は身を乗り出して、花京院と唇を合わせた。
そのままじっくり時間をかけて唾液を交換する。
「っふ、花京院、きもちいい、か?」
「ん、きもちい、よ」
「俺も、だぜ、好きなやつと、やるのが、こんなに、いいとは、思ってなかったぜ…!」
「すき?」
「あー、好きだ、花京院」
「そう、か!ぼくもだ」
「知ってたぜ」
「知ってたのかー……」
「フェロモン振りまいて、誘惑してきやがって、お陰で今回の、発情期が、早く来るわ長引くわ……責任取って、もらってんだよ、今」
「そうかー……ぼくおめがだったのか」
「てめーはアルファだ、俺がオメガだ」
「んんッ、そうなのか」
「そうだ」
「そうか」
処理能力の落ちた頭で、それでも一応理解はしたのか、花京院はへにゃりと笑った。
承太郎は頭の中で何かが切れるのを感じた。
「テメェ…!!」
「やあああぁぁっ、あっ、ぁう、あッン」
お互い腰を激しく打ち付けて、それから花京院は承太郎の手の中へ、承太郎は花京院の体の奥へと熱いものを放った。

「………え、待ってくれ、君オメガなのか?」

「そう言ったろ」
「確かに豊満な肉体を持ってると言えばそうだが……え、じゃあ結婚できる?」
「できるぜ」
花京院は顔がニヤけるのを止めることができなかった。
「そうか!じゃあやっぱりあれだな、アルファの僕がオメガの君を囲って、それで発情期になったら子供を作るんだ」
「子作りならさっきやっただろう」
「え?いやだって、さっきは僕が抱かれたじゃないか?子供を作るならアルファがオメガを抱かないと駄目だろ?」
「お前、保健体育の時間は寝てたのか?」
「失敬な、僕は学校で寝たことなんてないぞ」
「じゃあちゃんと思い出せ。そりゃ世間じゃアルファがオメガを囲ってるパターンが多いんだろうが、」
「………あああああああああ!!!??君もしかして僕の腹の中にッ!?」
「気付いたか」
「ちょっ、えっ、は!?子宮作ったのか!?子供できたらどうする!?」
「育てる」
「君の子供なら可愛いだろうな。じゃなくて!」
「悪い、俺も考えての行動じゃなかった。体が勝手にというやつだ。俺の方も責任は取る」
「取ってどうするんだ」
「結婚する。嫌か?」
「いいよ!?結婚はいいよ!むしろお願いするよ!?」
「だったら問題ねえな。産休取る準備しとけ。できてねえ可能性もあるが、アルファとオメガの組み合わせでオメガの発情中なら97.3%っていうのが去年の発表だ」
「詳しいな」
「てめーに惚れてから調べたからな」
「ほ……」
花京院は枕の中に顔を沈めた。
「いつから……」
「初めて会った時からだ。俺の運命の相手だと思った。急いで調べさせたらアルファだっていうから確信した」
「だって……すぐむこう向いたじゃあないか……」
「見つめ続けたら目が潰れるかと思った」
「なんだよそれ……」
花京院は恨めしそうに自分の横に寝ている恋しい相手を見やった。
もしかして僕ら今、ピロートークで一目惚れの話してるのか?
うわあびっくりするくらいロマンチックだ。
ロマンチックってこんなものなんだな。
内心で頑張って皮肉ろうとするのだが、胸に湧き上がってくるものは喜びという以外に言いようがなく、隣にいる男/オメガは相変わらずキラキラしていて魅力的で、花京院は呆れた振りをしてため息をつくので精一杯だった。
バレバレだったが。
「まあとにかく、結婚するって親と職場に連絡入れとけ。引っ越しとかはそのうちやるぜ。だがとりあえず」
「とりあえず?」
「あんなもんじゃあ、足りねえよなあ?」
そう言って、また甘ったるいフェロモンを発しながらのしかかってくる結婚相手(予定)を見て花京院は、あれっこの場合、夫って僕じゃなくなるのか?承太郎か?などと明後日のことを考えていた。