「あの女は足がいい。適度に引き締まってる」
「あっちの彼女は魅力的な美肌をしているね。赤が映えそうだ」
人の少ないオープンカフェ、気に入るほど美味しいわけではなく、しかし別に不味いわけでもないコーヒーを手に、二人の男が談笑している。
街中を行き交う女性たちを品定めするその台詞は、男同士の友人が交わすものとしては、至極普通の内容だ。
だがこの二人の場合、言葉の奥に隠されているのは、性の匂いだとは限らない。
「小銭がねえ、ここ出しといてくれるか」
「じゃ、今晩のデザートはチェリーパイな」
もうそろそろ息が白くなり始めた季節、承太郎の右手と花京院の左手は、それぞれのコートのポケットに入り込んでいる。
もう片方はどうするともなしに垂らしている、その甲と甲がときおり触れるのが、二人が街中で手を繋ぐ代わりだ。
人の目など気にもならないが、人に気に留められては困るのだ。
「……承太郎、今日はゆっくり帰ろう」
「そうだな、……夕飯も食ってくか?」
「ううん、それは、あ」
ちょうど日が沈む、その明るくも暗くも無い瞬間に、世界の全ての輪郭が曖昧になる。
それに紛れて、交差点の向こうに居た、どうやら外国人らしい二人の男が、お互いの指を絡ませるのが見えた。
「…………」
「………」
なんだか胸が、苦しいのか痛いのかよく分からない状況になって、どうしてだかその感情から目を逸らしたくなった。
それで、目の前の二人からは視線を離さずに、こつんと軽く、承太郎の手首あたりへ、自分の指をぶつけた。
三日月の晩、かすかなかすかな月光に、まだ狙われているとも知らない獲物が二匹。
鳩が一羽、近付いた影に振り向くが、音も立てずに滑るそれに、飛び立つことはしなかった。
「花京院、こいつはどうする」
「放って、おけば!!」
ああ、あのセーターはもう着れないな、と心の隅で残念に思うのは承太郎の方だ。
花京院には珍しいピンク色の、だが下品ではないその色が、赤みがかった柔らかな髪とよく合っていたのに。
あれはもう洗っても落ちないし、洗いすぎては縮んでしまうだろう。
ぎこ、ぎこ、がっ、ぎぎぎ、がごん
承太郎に押さえつけられ、猿轡をかまされた男が、大きく身じろぎした。
そいつに向かって、花京院は今さっき切り離した、もう一人の男の膝から下をぞんざいに投げつけた。
大きく息を飲もうとして、くぐもった声を上げる。
「食材をあんまり乱暴に扱うなよ」
「恐怖を感じて死んだ、肉は、美味しいっ…ていうじゃないか」
「てめーが殺したのはいつも美味い……お」
抵抗が減ったと思っていたら、足元の男は、猿轡を飲み込んで窒息していた。
気が付けば、花京院へと血を浴びせていた男も、その悲鳴が聞こえなくなっている。
「承太郎、僕なんか今日、胸焼けがする」
「じゃあ今日は粥にしとくか」
cruel … 残酷な、無慈悲な
gruel … オートミールのおかゆ