認識あらため(R-18)

 

非常にしっくりくる、と思ったのだ。

 
 

花京院典明は友人を作らない少年だった。
自分の一番の”ともだち”が見えない相手とは、到底理解し合えないと思ったのだ。
当然彼には、女性との交際経験もなかった。
だがまあ、17でそれというのは、確かに少々根暗かもしれないが、そこまで驚かれるようなことでもなかろう。
さて彼は例の行軍に参加した。
それは完全に自分のためであった。
命を落とすかもしれないということに、戸惑いが全くなかったといえば嘘になる。
事実、その旅は楽なものではなかった。
けれどそこには、彼らがいた。
彼らは皆、花京院と同じような能力、すなわちスタンドを持っていた。
その時点で彼らは、もうほとんど条件をクリアしていたと言ってもいい。
しかも彼らは、それだけではなかった。
自らの信念を曲げず、何物にも臆せず立ち向かい、正義を為す、彼らは素晴らしい人物ばかりだったのだ。
そこで花京院も、一行のひとりとして恥ずかしくないよう、立派な人物に見えるよう、気をつけて振る舞った。
それはちっとも辛いことではなく、むしろ誇らしく楽しくさえあった。
だから、「やったな花京院!」といって肩を叩かれたり、「さすが花京院じゃな」とウインクされたりするたびに、高鳴る胸を抑えもせず、頬を染めて喜んでいたのだ。
特に。
特に、空条承太郎、彼は別格だ。
彼は力の権化、強大で精密で凶暴なそれを、彼は優しい心でもって行使する。
クールで、熱くて、強くて、誰もが振り向かずにはいられない、彼は男の理想を詰め込んだようなやつだった。
同世代の花京院も、彼に嫉妬など覚える余裕すらなかった。
花京院は承太郎に憧れていた。
それは当たり前のことだと思った。
うつくしい彼の隣にふさわしいよう、彼が背中を預けてもいいと思ってくれるよう、花京院は努力した。
花京院はいつでも、承太郎のことを目で追っていた。
そのことについて何の疑問も持ってはいなかった。
あれだけ人の目を奪う男なのだ、自分が羨望の眼差しを向けるのに、何のおかしなことがあろう?

 
 

「お前ゲイなの?」
「は」
その日、花京院はポルナレフと同室だった。
シャワーを浴びて傷の手当をし、寝る前のちょっとした時間に、天気の話でもするかのごとく軽い様子で、ポルナレフがそう言ってきたのだ。
「……違いますよ。失礼な、」
「え、何が失礼なの?」
「え?」
花京院は目をぱちくりさせた。
ポルナレフも目をぱちくりさせていた。
「日本って同性愛の風当たり強いの?俺は気にしないぜー。そういうの、生まれつきって言うじゃん。俺が生まれつきキュートな女の子を好きなのと同じで、生まれつきカッコいい男が好きなんだろ。お前どう見ても承太郎が好きですーってオーラ出まくってるし、分かりやすいぜー」
承太郎なの分かるぜー、あいつ男に惚れられるタイプだもんなー、俺は可愛い女の子に好かれるタイプだけどさー、
ポルナレフはまだ何やら言っていたが、花京院の耳には入ってこなかった。
ゲイ?
僕が?
承太郎のことを好き??
それは、なんというか、とても……とても、しっくりくる。
ぼん、と音が出るくらいの勢いで、花京院は顔を真っ赤に染めた。
「おいおい、自覚なしかよ。まあでも応援するぜ!あいつも女に興味ねえって顔してるからチャンスあると思うぜ~!」
ポルナレフは朗らかにそう言うと、じゃあな!おやすみ!と言ってベッドに身を投げだしてしまった。
花京院ももぞもぞと布団にくるまったが、到底眠れる気はしなかった。
ゲイだって?
僕が?
まさかそんな……だってエロ本とか見れるし。
そこまで興奮したことないけど、それは単に、僕が淡白な方だからで……
そこで花京院はふと、昔目にしたそういう本の1シーンを思い起こした。
もしあれが…あの女性が僕で、彼女を、つまり僕を攻め立てる男性が承太郎だったら。
花京院はたいへん動揺した。
ものすごくものすごくものすごく悩んで、最終的にトイレへ行くことにした。
ポルナレフのいびきがうるさかったが、途中から耳に入らなくなった。

 
 

さて自分が承太郎を、そーゆー意味で好きなのだと認識した花京院は、極力彼から目をそらすようにした。
ポルナレフはああ言ってくれたが、女性にモテにモテまくる承太郎がゲイである確証などどこにもないし、もし思いが伝わってしまって気持ちが悪いと思われたら…嫌われたりしたら、自分は生きてはいかれない。
もし、彼のあの、厚い唇に触れることができたなら。
それはとても魅力的な空想だったが、彼の意志の強そうな眉が歪められて、二度と俺に近付くなと言われる、そのくらいだったら今のまま、気のおけない友人同士の方がずっといい。
そう思って、花京院は自分の気持ちに蓋をした。
のだが。
「今日のホテルは3部屋じゃ。2、2、1で別れるぞ」
ジョセフがそう言うと、ポルナレフがすぐに一人部屋を所望した。
クジじゃ!といなされるのはもう毎回のことだ。
花京院は、承太郎と同室でなければどこでもいい、と思っていた。
ところが、まるで天からの啓示であるかのごとく、承太郎から声がかかった。
「俺は花京院と同じ部屋にしてくれ」
内心では飛び上がらんばかりに驚いたものの、花京院はそれをつとめて顔に出さないようにした。
ポルナレフが小声で「やったじゃん」などと言ってくる。
何も嬉しくない。
いや、彼が学ランを脱ぐところだとか、風呂あがりだとか、寝顔だとか、その辺を見ることができるのは非常に嬉しいが、そういうことではない。
だがここで拒絶すれば、それこそ勘ぐられる。
ジョセフの「いいかの?」という言葉に、花京院は笑顔で「大丈夫です」と答えていた。
承太郎はそんな花京院の様子をじっと見つめていた。

 
 

さて二人部屋。
花京院が、
「何か話でもあるのかい?」
と聞くと、
「話があるのはてめーの方だろう」
と承太郎はベッドにふんぞり返った。
「どうして俺を避ける?俺が何か、気に障ることでもしたか?」
「いやまさか!」
花京院は慌てて否定し、自分もおずおずと向かいのベッドに腰掛けた。
「じゃあなんで目も合わせねえ?」
「その……、君が僕に何かしたわけではなくて、僕の方が…君に嫌われるような、なんていうか……」
「それはお前が俺に惚れてるって話のことか?」
「ふげェあッ!!?」
「すげー声出たな」
承太郎は肩を震わせてくつくつ笑っている。
うそだろ承太郎。
まさかそんな、いつから。
花京院はゆでダコになって口をパクパクさせていたが、ようやっと「ポルナレフか…?」と声を出した。
「ポルナレフ?あいつが何か関係あんのか?」
「いや、だって……誰から聞いたんだ?」
「別に誰からも聞いちゃいねえぜ。お前を見てりゃ嫌でも気がつく。日本で女どもが向けてくる目と同じだしな」
そこではっと思い出す、彼が取り巻きの女生徒たちを鬱陶しがっていたこと。
「……すまない」
「あ?」
「だって迷惑だろう」
「迷惑?」
承太郎は立ち上がり、ゆっくり花京院に近づいてきた。
花京院は目をぎゅうと閉じた。
こんな旅のさなかにそんなことを考えていたのだ、殴られても文句は言えないと思ったのだ。
それで、閉じたまぶたの上に何やら柔らかいものを感じて、意味が分からなくて目を開けてしまったのは仕方のないことだろう。
すぐ目の前に承太郎の顎があって、「ほぁッ!?」と変な声が出る。
この位置はどういうことだ、さっきまぶたに触れたのは。
それが、自分があれだけ恋い焦がれた唇だと気が付いて、今度こそもうぷすぷすと湯気を立てるだけで、何も言えなくなってしまった。
「きみ、なにを、だって、」
「おめーはさっき迷惑だとか言ったが、好きな相手に惚れられて迷惑な男なんざいやしねえよ」
「す…え、なんて?」
「分からんやつだな。俺はお前のことが好きだと言ってるんだぜ」
「………君、ゲイなのか?」
どこかで聞いた台詞だな、と思いながら花京院は口にした。
承太郎は顎に手を添えた。
「さあ、お前の他に好きになった男はいねえからヘテロなのかと思ってたんだが、よく考えりゃ特に好きになった女もいねえ。抱けなかったわけじゃあねえが。気付いてなかっただけでゲイなのかもしれねえな」
あっ……やっぱり童貞じゃないですよね……そりゃそうか……
花京院の目がちょっとだけ沈んだのを目ざとく見つけて、承太郎は口角を上げた。
「妬いたか?」
「や…!?いや、そんな……いや、うん…その通りだ、妬いた」
顔を真っ赤にしたまま目をそらせてしまった花京院の、その頬に承太郎は唇を落とした。
「うっわ!?」
「お前ほんとに可愛いな。安心しろよ、今はお前だけだ」
「いや僕は別に」
なおもモゴモゴ言う花京院の肩を強く押してやれば、その体はさしたる抵抗もなくベッドの上に倒れた。
「承太郎、何を」
「なあ花京院」
見下ろす承太郎の目が、不穏な光をたたえている。
花京院は背中がゾクリとするのを感じた。
「いつから俺のことが好きだったんだ?」
「…分からない」
「本当に?」
承太郎の手のひらが首筋をなぞる。
「ひっ…わ、分からないけど、多分、最初に君に助けられてから…」
「そうか」
その手が下ってゆき、花京院の胸の上をすべっていく。
「ジジィとかアヴドゥルとかポルナレフとか、あいつらのことも好きなのか?」
「す、好きっていうか…仲間としての好意は持ってるけど、その、そういう意味なのは君だけだ」
「そういうってどういう意味だ?」
承太郎が意地悪く笑う。
「だから、その、ひっえ!?」
花京院が上ずった声を出したのも仕方がない。
承太郎の手は今や、きわどいところを上下に撫でていた。
「ちょ、ちょっと承太郎、やめ、ッ…!」
不意に彼の手がそこを強く握る。
花京院はひゅっと息を吸い込んだ。
「そういう意味なら、ここも使ったんだろうな、オイ?」
「そ、んなこと」
「俺は使ったぜ。それとも俺じゃ勃たねえか?」
それに答える花京院の声はなかったけれど、そんなことは全くないことは、今まさに示されている通りだった。
花京院は両手で顔を隠してしまっている。
「おい、顔見せろ」
承太郎がその手をどかすと、彼はほとんど泣きそうな顔をしていた。
その表情に、承太郎は思わず唾を飲み込んだ。
「お前な…分かってんのか?」
そう言って承太郎は花京院の制服に手をかけ、衝動のままに引きちぎろうとした。
その手を掴んで声を上げる。
「ま、待って、待ってくれ承太郎」
「ここまで来といておあずけはねーだろ」
「そうじゃなくて、これは明日も着るんだ。だからその…自分で脱ぐよ」
「…そうか」
承太郎は身を起こして、自分も服を一気に脱いだ。
花京院も居心地悪そうに脱いでゆく。
「あんまり見ないでくれないか」
「好きなやつのストリップを見ない選択肢がねえだろ」
「うう…」
それでも頑張ってスラックスまで脱いだが、羞恥がまさってしまってそこから先に進めない。
「ちゃんと勃ってんじゃねーか」
「君こそ、」
言いかけて花京院は目をむいた。
うそだろ承太郎(二回目)。
何だそのサイズは。
ちょっとよく意味が分からない。
花京院が目を白黒させているのに気が付いて、承太郎はニヤリと笑った。
「安心しろ、今日は突っ込むつもりはねえ」
「つっこ…!?それを!?」
「何だ、てめーもタチ希望か」
「あ、いや、僕は突っ込まれたい方だと思う。多分」
「そいつァ都合がいい。俺も詳しくは知らねえが、男同士でそんな簡単にできるもんでもねえだろ。てめーに無駄な負担はかけたくねえし、本番は色々調べてからにするぞ」
「あ、うん」
花京院は自分の口端がニヤニヤと上がるのを堪らえなければならなかった。
確かに承太郎に突っ込まれたくはあるのだが、勢いだけでそれをやられるのはさすがに怖い。
承太郎が自分の体を気遣ってくれるというのは悪い気分ではなかった。
承太郎が花京院のベッドに乗り上がってくる。
「とりあえず今日はこいつを触り合うってことでいいだろ」
そう言うと、花京院がかろうじて守ろうとした下着をあっさり超えて、手を入れてきた。
「自分以外の触るなんて妙な気分だな」
「や、やめたかったら、」
「やめてもいいのか?本当に?」
「う…やめないで、欲しい……」
もう真っ赤にするところが他にないのではないかというくらい顔を赤くして、花京院は白状した。
それから自分も承太郎のそれに手を伸ばす。
ここにきて、一人でやる程度のことの経験値が少ないのが響いてくるとは、なんてことだ。
それでも必死に両手で包み込んで刺激を与えていると、だんだんに形が変わってきて、先端をぐりぐりすると、ちょっと濡れてくる。
なんだこれ面白いぞ。
「おい、汚れるから脱がすぞ」
「あっはい」
気付いたら自分のやつの方がもっと反り上がっていて濡れていた。
根性なしめ。
だから息が上がって腰のあたりがむずむずしてるのか。
うわっちょっと腰動いてる。
誰だよ淡白とか言ったやつ、めちゃめちゃ気持ちいいぞ。
花京院は荒い息を吐きながら、ちらりと承太郎の顔を伺った。
頬は上気して、自分と同じようにハァハァと息を吐き、その目は緑に燃えている。
花京院は、承太郎が興奮していることに興奮した。
「わ、何!?」
承太郎が花京院の腰を引きつけて、己のそれと花京院のそれを密着させた。
うわあドクドクいってる…視界の暴力というやつだろう、これは。
「チラチラ見てっと犯すぞ」
「ヘァッ!?あ、犯してもらって大丈夫です!」
「今日はやんねえって言ってんだろうが、煽るんじゃあねぇッ!」
「ちょ、ま、じょ、うぁ、あッあ、ン」
承太郎が2つとも一緒に握って扱き始めたので、花京院はもう何も言えずに、彼の広い肩につかまって喘ぐことしかできなかった。
「オラ、もうちょっとこっち来い」
承太郎に抱き寄せられ、思わず高い声を出してしまう。
首に手を回して、「ん、っん」とくぐもった声を漏らす。
「てめーどんだけエロいんだ」
とか言われたが、そういう承太郎の声の方がよっぽどエロいと思う。
やがて腰の方に覚えのある感覚が来て、「じょう、たろう、も、いく…!」と伝えたら、「俺も、だぜ」と返ってきた。
承太郎にひときわ強く擦られて、花京院は何やらだらしない声を出しながら達した。
押し付けられている感覚から、承太郎も果てたのだと知れた。

 
 

少し呼吸が落ち着いてきてから、承太郎に抱きついたまま花京院は「すごいなあ」と呟いた。
「一緒にいくなんて恋人みたいだ」
「……ハァ?」
返ってきたのがドスの利いた低い声だったので、花京院は慌てて身を引いた。
「ごめん、調子に乗った」
「………あのなあ」
承太郎はもう一度花京院を抱き寄せた。
「みたいだ、じゃねえよ。お前は俺のことが好きだろ」
「うん」
「俺もお前に惚れてるって話したよな」
「そうだっけ…あっごめん!そうだった!あんまり睨まないでくれ!!」
「で、俺らは好き合ってる同士というわけだ。だったら恋人だろ」
「そうなのか?」
「俺がそうと言ったらそうなんだよ」
ものすごい俺様思考な発言を聞いた気もするが、今まで恋人なんかいたことがないからよく分からない。
そういうものかなあ、などのブツブツ言っている花京院の顎をすくい、承太郎はその幅広の唇に口付けた。
「ふわぉおッ!!?」
「今日はよく奇声を発するな」
「だ、だって君」
「恋人なんだからキスくらい当然だろ。もっと濃いやつしてやろうか?」
「こ、濃い…!?……お願いします」
そうして承太郎に唇を食べられながら花京院は、やっぱり自分が彼のことを好きなのは、非常にしっくりくるなァと思っていた。
一方承太郎は、花京院の口内で好き勝手しながら、やっぱりこいつは俺の隣にいるのがしっくりくるな、と思っていた。