花の種 – 一夜目

 
そろそろ、その時期だ。
と花京院は思った。
もしかしたら口に出していたかもしれないが、聞きとがめたものは誰もいなかった。
花京院の暮らしているのは共用部屋で、同じような立場の者たちが広い部屋に一緒になっていたが、それでも花京院は一人だった。
それは彼の性格に由来するところもあるし、もっと単純な……単なる嫉妬からくるところも大きかった。
ふっと、部屋に影が進入する。
開け放たれた扉に、体格のいい女中が手をかけ、中を覗き込んでいた。
「花京院、お呼びだよ」
とっくに覚悟のできていた花京院は、暗い視線がいくつも寄越されるのを気にも留めないで、彼女についていった。
入り組んだ回廊を歩きすぎ、何人もの兵士たちに身分証明を行い、再奥へと進んでゆく。
一番最後の扉の前には、ここでもっとも腕の立つ衛兵が二人、控えている。
彼女たちは花京院を一瞥する以上のことはしなかった。
「さあ」
と女中が言い、そこで身を引いた。
花京院は広い執務室を横切り、光の抑えられた専用の私室へ入り込み、更に奥の扉へ向かった。
物音は何も無いはず、いやむしろそのために、自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
扉に手をかけ、「……失礼します」と告げる。
返答は無いが、それこそが許可の合図だと、今ではもうよく知り及んでいる。
花京院が寝室へと歩みを進めると、寝台の上には既に準備の整えられた体が、花京院を待っていた。
「来い、花京院」
煙草の先を直接指で潰して火を消しながら、彼女は花京院の顔へ煙を吹き掛けた。
「……はい、女王様」
恍惚に緩んだ花京院の顔を、顎をつかんで上を向かせることで眺めながら、彼女は笑った。
「学習しないやつだな。二人のときは何て呼べって言った?」
「承太郎……」
「いい子だ」
広い寝台に花京院を押し倒しながら、承太郎は巨体を覆いかぶさらせた。
コロニーのメスたち、特に女王付きの女中や衛兵が花京院より一回りも二回りも大きいのは勿論だが、承太郎はその彼女たちよりも更に巨大である。
それは当然で、承太郎はこのコロニーの女王だからだ。
初めて自分の何倍もの体にのしかかられたときは、純粋に身の危険を感じて縮こまってしまったものだが、今ではその重量にさえ性的な感覚を覚えてしまう。
用事のあるところにいきなり手を伸ばされて、甲高い声が漏れた。
「おいおい、もうこんなんなってんのか。準備万端だな」
鼻で笑われても、花京院には興奮を高める一因にしかならない。
従順に、承太郎の下肢が入り込みやすいよう、後ろ足を大きく広げてみせた。
「お願いします……」
前戯すら必要なさそうな花京院の様子に満足して、舌なめずりしながら承太郎は、彼の生殖器を自分のそれに宛がった。
「あ……あ!」
「っはあ…」
根元まで一気に包み込んでやると、花京院は仰け反って悦んだ。
伸ばされてあらわになった首筋へ口付けを送りながら、承太郎は腰を揺らめかせた。
「あっ、あんっあ、ぁっ……じょう、たッひぁ!あっあぁっ、じょうっ…!」
「は、…なん、だよ?」
「そ、そん…な、っあん!そんなぁ……あっ、き、きつく、しめた、ら、ああっ…だ、めぇ……」
真っ赤な顔をして、呂律の回らない舌で必死に喋ろうとするものだから、涎まで垂らして頭(かぶり)を振っている。
そんな姿を見せられては、手加減するどころか、更に深く打ち付けてみたり、小刻みに揺らしてみたくなっても、仕方がないというもの。
「あっ、あっ、あっ、あっ…!」
「…ンな声上げてよがってんのに、駄目も何も、ねえ、だろッ」
「だ、ってぇ、だってっ……あぁんっ、あ、お、おかし、く、なっちゃ…よぅ!」
見下ろせば、震えながらも懸命に応えようとする健気な体。
汗で額に張り付いた長い前髪を払ってやりながら、承太郎は倒れこみ、花京院を抱きしめた。
「俺しか見てねえよ……てめえが俺の中でおかしくなってんの、見せて、みろよ…!」
「あぁっ、は、っあ、じょう、たろ……じょうたっあ、…ぁぁああああ!!」
一際感じ入った声で鳴いて、花京院は果てた。
承太郎は内部を蠢かせて、彼の精液を搾り取った。

 
 

射精後の疲労感から回復し、手短に身支度を整えて寝室から出て行こうとした花京院はしかし、承太郎の「待て」という命令に阻まれた。
「どうかしましたか?今日のつとめは終わりでしょう?……あ、もしかしてうまく種付かなかったんですか」
「そういうことじゃあねえ。てめえ、もうオスの共有部屋には戻んな」
「え、ど、どういうことですか」
「来るとき気付かなかったか?」
承太郎は口の端を歪めて笑ってみせた。
その笑顔にどぎまぎしている花京院の手を引いて、彼女は私室へと歩いていった。
先ほどは暗くて目に付かなかったが、見覚えのない扉がひとつ増えている。
覗き込むと、居心地のよさそうな小部屋だった。
「てめえの部屋だ。内緒で作らせてた。今日からてめえはここに住め」
振り向いた花京院があんまり驚いているものだから、胸から湧き上がってくる愛しさに、承太郎は彼の額へ唇を落とした。
嬉しさに目を輝かせているくせに、「でも」だとか「僕なんかが」とか言おうとする、天邪鬼な口に指を当てて閉じさせると、承太郎は花京院へと耳打ちした。
「寝台は作らせてねえ。夜は俺の寝台で、俺の横で眠るんだ。分かったな?」
花京院が、べた惚れに惚れている承太郎の中でも、その低音が一等好きだというのを、知ってのことだった。
もう彼は何の抵抗も見せず、茹で上がった顔をこくりと頷かせて承諾した。

 
 
 

花京院は承太郎の、繁殖用のオスの一匹