ある工学者の報告書 – 6枚目

 
まず駆けつけた地元警察に脱獄犯が捕らえられ、彼の被害者が近くの病院に運ばれていることが判明し、ポルナレフはそちらへ向かった。
次に研究所の飛行機――軍用さえされる前なので正式な名称がついていないもの――が到着してJ-003とK-001が搬送された。
K-001の破損は勿論、J-003も未だに外部への連絡を続けておりボディ制御がなされていなかったので、K-001のラボへの搬入が成し遂げられたと伝えるプログラムが急遽書かれ、ほとんどクラッキングのような形でJ-003に放りこまれた。
それで承太郎の気は付いたものの、彼の関心は花京院から離れない。
花京院が失ったのは主にボディ制御部であったため、人格や記憶は飛んではいない、はずだが、動力を失った彼の復旧には全く目処が立っていない。
ただ物理的に壊されたのではないのだ、亜空間へと削られてしまったため、ゼロから作り直さなければいけない。
設計図と成功例があるとはいえ、二つと無いロボットの心臓なのだ、数日で出来上がるものではない。
だが花京院は「人格プログラム」でも「メモリ群」でもなくロボットである。
早急にボディを用意し接続しなければ、電子頭脳の方がおかしくなってしまう。
人間の意識だけを、感触も何もかも奪って、上下左右も分からぬ闇に置き去りにするようなものなのだ。

 
 
 

「俺が悪い」
承太郎はジョセフに詰め寄った。
「俺が悪いんだ。俺があいつを盗んで逃げた」
「落ち着け、落ち着け承太郎」
返答を要求しない、ただの主張をするだけの承太郎をジョセフが制する。
「自分で気付かんのか?その考え方がもうおかしいとな。提出された研究所の損失とは最新鋭のロボットが2体、じゃった。どちらがどちらを、などと言っとるのはお前だけじゃ」
「いや、俺が悪いんだ。初めから、あいつは俺に同調するようになってたんだ」
「……どういうことじゃ」
「俺があいつの初期起動をサポートしたことは流石に覚えてるだろ」
「そこまで耄碌しとらんぞ」
「あの時、俺の思考パターンをあいつにコピーしたんだ。その後の学習で、あいつが俺と全く同じ考え方をするわけじゃあなくなったが、根本的なところで俺に進んで従うのは当然だ」
「初耳じゃぞ!お前にそんなプログラムを組んだ覚えはない」
「ああ、これは花京院の要望だった。あいつは元々、学習前の既存パターンだとか教師パターンだとかを持っていなかっただろう、それで演繹も帰納も出来やしないから、よりどころになるものが欲しかったんだと思う」
「………『不安』、だったんじゃな」
ふう、とジョセフがため息を吐いた時、部屋にスタッフがやってきたが、彼の伝言は「いまだボディ復旧には時間がかかる」ということだった。
「仕方ないのう、電子頭脳だけ研究所のメインコンピュータに移しておくか」
「そんなことが出来るんですか、ドクター・ジョースター?」
「あやつは一個体で完結しておるロボットじゃ、互換性はない。これから仮死状態にならんように気をつけてシステム変更をするしかあるまいよ」
「おい、じじい」
「なんじゃ承太郎」
「俺を使え。俺の体にあいつを組み込め」
一瞬、二人の工学者の動きが止まる。
「何を…そりゃあ君もロボットだから組み込みはしやすいだろうけど、そんなことをすると君の処理能力ががた落ちになるぞ」
「俺は構わねえ。仕事が出来なくなるのを、あんたらが構うってんなら俺はどうしようもないが」
「待て待て構わんとはどういうことじゃ」
今度はジョセフが承太郎に詰め寄った。
「お前の存在理由は、お前に与えられた仕事じゃ。それが出来んくなって構わんとは、そりゃ一体どういうことじゃ」
「……優先順序が更新されている。現在のトップは花京院だ」
その事実に、承太郎本人も今まさに気が付いたように顔を上げた。
彼の緑に光る硬質の瞳は、確かにジョセフ・ジョースターを捉え、撮影し、個人認識を行っていた。
けれど彼の頭の中を占めるのは、一時記憶装置のほとんどを用いて考えるのは、花京院のことばかりだ。