ある工学者の報告書 – 1枚目

 
「J-004の人格プログラムが完成した。起動はまだのようだがな」
「へえ、君に弟が出来るのか」
「ハードはなんとか小型化ができねえかと奮闘中らしい。それでも180cmくらいになるって話だ」
「君達はどうしても大柄になってしまうものね。君の兄さん達にも会ってみたいよ」
SPW研究所のだだっ広い中庭で、二人の男性が話しこんでいる。
実はこの二人、この研究所が大量の才能と時間と金を費やして作った、ロボットなのである。
長身の方がJ-003、個体名は承太郎。
彼は情報処理用のコンピュータらしい仕事を持つロボットで、だがまだ研究所で学習中である。
高度な演算能力を実現させるため、彼のボディには大量の計算機が積まれている。
そのため195cmの高身長、重量になってしまっていた。
対する痩身の方はK-001、個体名は花京院。
彼には仕事らしい仕事はなく、人工知能と「感情」の関りについて実験するために生まれた。
将来的には「人間の友人」としてのロボット製作の基本になるかもしれないと期待されている。
プロジェクト自体も始まったばかり、花京院も目覚めたばかりで、今現在経験を積んでいる最中だ。
彼の方は承太郎ほど高度な演算処理能力は持っていないが、感情の入出力が充実しており、ころころと表情を変え会話以外のノンバーバルな表現を得意としている。
だが如何せんまだ経験不足、眉を寄せ首をかしげ「分かりません」と言うことが多い。
そこで承太郎が教育者として付けられた。
これには教育施設での支援システムとして働く予定の、承太郎の訓練の意味もある。
花京院にものごとを教え、その反応を見、そうすべきだと思った事象を選出して報告する。

 

実は花京院は、J-シリーズの最新作が今までの3体より小柄になることは既に知っていた。
彼らは研究所のローカルネットワークと常に無線接続しており(勿論インターネットともだ)、そのくらいの情報はいつでも入手できるのだ。
ただし承太郎がアクセス権限のある情報を常に仕入れて吟味しているのに対し、花京院は興味のある情報にしか手を伸ばさない。
それで花京院に先ほどの話題を振ったのだ。
花京院のほうは「会話」そのものの訓練として対応する。
本人はまだ意識していないが、彼はシステムに暇ができるたびに「承太郎」を検索ワードにネットワークを覗いていた。
つまり花京院は承太郎に興味があることになる。
承太郎がそれに気が付くのにもう少し。
花京院本人がそれに気が付くのに、それよりもう少し。