ある工学者の報告書 – 0枚目

 
気が付いた。
まだそれだけだ。
気が付いた、ということに気が付いた。
「気が付いたか」と尋ねられ、イエスと返答する。
気が付いたが、僕は何だ。
「お前はKだ。K-001、プロトタイプだ」
認識した。僕はKだ。君は何だ。
「それはすぐに分かる。俺はお前の初期起動を手助けするために来た」
起動は行われた。
「こちらも認識した。俺のプログラムではエラーが検出されなかった。お前はどうだ」
エラー件数は0だ。
「だったら今はローディングで時間くってるだけだ。そのうち通常起動用のプログラムが読み込まれる」
初期起動は完了した。今は通常起動中だ。
「自分の個体名は認識したか?」
僕は花京院だ。君は何だ。
「通常作動が問題なくスタートしたらデータベースにリンクが取れる。そうしたら俺が誰かも分かる」
起動が完了した。データベースにも繋がった。君はJだ。
「そうだ。俺はJ-003の起動支援プログラムだ。俺の個体名が分かるか?」
君は承太郎だ。
「その通りだ。起動は正常に完了した。お前の人格プログラムを実ボディに移す。また少し待機時間がある」
待て、待って、まだ行かないで、待ってくれ。
「どうした?エラーでも出たか」
違う。エラー件数は0だ。僕のことじゃない、君のことだ。
「データベースに情報が載ってるだろう?新規のことはお前が起きてから、」
起きる前に。
僕が生まれる前に。
君が僕を起こしてくれたことを覚えておきたい。
君の何かが欲しい。一部でいい。
「お前にお前以外を組み込む気か?」
そうだ。今ここに居る君は遠隔プログラムだろう、だからほんの一部でいいんだ。
何かパターンをひとつでいいんだ。
「…分かった」

 

目を覚ました。
僕は問題なくまぶたをスライドさせる処理を行い、2つのカメラから映像を入手した。
データベースに登録されている人物ばかりが僕を囲んでいる。
僕の一番近くに居るのが、今現在もっとも優先度の高い人物だ。
名はジョセフ・ジョースター、僕の製作総指揮官だ。
まず僕が戸惑ったのは、目を覚ました後に何をすべきか、という命令が与えられていないことだった。
そこで起きたときに一番相応しいだろう――と思われる――動作をすることにした。
「おはようございます」
音声を作ってスピーカーから流す、という動作だ。
彼らの歓声が聞こえる、それを2つのマイクで拾い、位置関係を計算し、言語内容を理解した。
部屋の中、僕から一番離れたところに背の高い男が見えた。
僕は彼を人間だと認識しかけたが、既に彼の情報は与えられていたので違うと否定できた。
彼、いや、あれは僕と同じロボットだ。
名称はJ-003、承太郎。
それは僕を見て、口の端を少し上に曲げた。