お犬さまと一緒 (6)家出されました

 
僕が2回目にあの威圧感が半端でない猫に出会ったのは、今度は人型の承太郎と歩いているときだった。
何かいいことがあった日で、ちょっと遠くのデパートまで、いつもよりは高級な食材を買いに行こうとしていたところだったと思う。
以前あの猫と会った路地へは入らないように気をつけていたのに、ある高級住宅街の道端に、彼はいた。
忘れるはずも無い、金色の長い毛に真っ赤な瞳。
途端に冷や汗がどっと流れ出て、つい繋いでいた承太郎の手を強く握る。
もっと強い力で握り返されて、僕は何とか息をすることが出来た。
承太郎が僕をかばうように前へ進み出たそのとき。

 

蹲っていた猫の体がふわりと宙に浮いた。
猫をくわえて持ち上げた犬がいたのだ。
僕はあまりの驚きに、猫への恐怖も忘れて目を見開いた。
「……承太郎?」
いや、その犬は承太郎よりは明るい緑の目をしている。
だがその均整の取れた体格、すっと通った鼻、漆黒の毛、形の良い耳は、承太郎と寸分違わぬものだった。
その犬は、少々機嫌を損ねた様子の猫を、しかし優しくくわえ上げ、承太郎を見据えている。
ふっと僕の手を握る力が弱くなり、僕も承太郎を振り向いた。
彼は僕以上に目を見開いて、呆然としている。
「ジョナサン…?……だったらそっちは、DIOか…?」
「じょ、」
呼びかけようとするや否や、僕の体は承太郎に引きずられ、もと来た道を倍以上の速度で戻っていった。
一瞬だけ目が合った、承太郎にそっくりな犬の瞳は、その力強さと温かさまで似ていた。

 
 
 

一言も口を利かない承太郎に、ほとんど力ずくで部屋に引っ張り込まれる。
「いっ、た…どうしたんだい承太郎」
やっぱり彼は何も言わず、僕にも何も言わせないかのように荒々しく口付けた。
いきなり侵入してくる舌、まだ冷たい手に直接腰を撫でられて「ひゃっ」と声が出る。
がたんとまず音が聞こえ、次に背中に痛みを感じて、机の上に押し倒されたと分かった。
キスはあったけど、承太郎から明確に「したい」と伝えられたのは初めの一回だけだ。
犬としての性質かもしれない、今までいつもベッドに誘うのは僕の方からだけだった。
それなのに今の彼は、僕の意向も確認せずに一人で勝手に進めていく。
「承太郎、承太郎」と声をかけても知らんふりだ。
こんな風に無理矢理みたいにされるのはとても怖いけれど、承太郎の目が、
極力無表情を保とうとする承太郎の瞳だけが、まるで泣きそうに歪んで見えて、
「承太郎」ともう一度声をかけて体を預けた。

 
 
 

ほとんど服を着たままで、たいして慣らしもせずに入れられた。
机に突っ伏す形にされたので、体勢としては楽なのだが、承太郎の顔が見えなくて不安だ。
「う、…は、ぁあ、っあ、……」
吐息と汗で机が濡れて気持ちが悪い、が気にしている余裕はあまり無い。
がり、と硬い表面を爪が引っかく。
いつもなら承太郎の背中に回されているはずなのに、と思って淋しくなった。
腰を掴まれて深く引き寄せられ、背中が反る。
内側に何度目かの熱を感じて、小さく悲鳴を上げて気を失うのを、どこか客観的に見ている自分が居る。
その自分もまた、暗い闇に引きずり込まれた。

 
 
 

目が覚めたとき、僕は暖かなベッドの中に居た。
隣に承太郎は居なかった。
そうだ、思い出した、そういえば昨日は僕の誕生日だったんだ。