お犬さまと一緒 (4)仲良しです

 
くちづけをほどいて承太郎を解放する。
彼は固まってしまって動かない。
なんだ、自分からするのはいいのに僕からは駄目か?
しかし綺麗な瞳だよなあ、こんな近くでまじまじ見る機会は少ないからなあ・・・とぼんやり考えていると、がばと覆いかぶさられて首筋を舐められた。
手探りでボタンを外しにかかられたので、僕も彼のシャツを脱がせてやる。
彫刻みたいに完成された筋肉が顔を見せて、同じ男として少し悔しい。
彼の舌がそのままゆっくり僕の体をおりてゆく。
男を相手にこういうことをするのは、勿論初めてだ。
承太郎はしたことがあるんだろうか。
ないんだろうな、舐め方がなんか、犬だ。
それでも僕の体は彼の唇が触れたところから熱を持ち、彼が離れていった後も収まろうとしない。
一番熱いところに着いて、承太郎が目で許可を求めてきた。
そんなに緑をきらきらさせたら、許すしかないじゃあないか。
僕は口の端を上げてみせた。

 

彼の口の中は熱くて、その中に含まれた僕自身に絡み付いてきて、僕は簡単に追い上げられる。
飼い主の僕がこれでは示しがつかないとは思うが、意味を持たない高い声が出るのを堪えるすべが、僕には無い。
「は、…ぁあッ!」
一度強く吸われて、彼の頭を引き剥がす間もなく出してしまった。
承太郎は決して上手いわけではなく(彼の名誉のために言っておくと、下手というより慣れていないだけだと思う)、僕も何というか、感じるのが上手くなくて、なのにコントロールも出来てない。
なんだか涙が出てきそうだ。
けれど承太郎は満足そうに口を離して、赤い顔のまま僕の精を飲み込んだので、僕は大層焦った。
「ちょっ…、君なに飲んでるんだ!」
「不味い」
「当たり前だろ!出せ!口の周りを舐めるな!!」
「うるせえな。犬が飼い主から貰ったもの食べるのは当然だろ」
こんなときだけ従順なペットの振りをする。
後で覚えてろよ。
「さて、次は俺の番だな」
妙に上機嫌で承太郎が言う。
僕も舐めてやればいいのかと思って体を起こしかけたが、体重をかけられてベッドに沈んだ。
はちきれんばかりの…なんだこのサイズ…彼自身を下半身に押し付けられて、頭に血が上ると同時に血の気が引く。
器用だな僕。
しかし、これは、まさか、もしや。
「ち・ちょっと、承太郎……何をするつもりだ?」
「分かってて聞いてんならタチ悪いぞ。お前としたいって言っただろ」
真摯な瞳に詰め寄られて目が逸らせなくなった。
「でも、その…承太郎、やり方分かるのか?」
「やれば出来るだろ」
「嫌だよ!どう考えても僕に負担が大きいだろ!」
「…どうすればいい」
「………」
口ごもる。
ええと、その、とつぶやいているとまた覆いかぶさられた。
「ええいッごちゃごちゃうるせえぞ!やれば出来るって言ってるだろ!」
「まっ待て!待て承太郎!どこかで読んだぞ、何か使うんだ何か」
「何かって何だ」
「だから、君のを入れやすくする…ローションとかだよ」
「あー……潤滑油か?」
「そういうことだ」
妙なところで二人納得する。
だがここは和む場面じゃあない。
「でも悪いけど承太郎、そんなものうちにはないぞ」
「なんか代わりになるものはねえのか」
「ええー?肌に塗っても害の無いやつだろ?」
「…思いついた」
そういって承太郎は立ち上がり、引き出しをごそごそやり始めた。
微妙な感じに反応したままベッドに取り残される僕。
この間はセックスの最中の間として何かおかしいぞ。
そこまで考えて、自分で使ったセックスという言葉に一人赤面する。
「これでどうだ」
承太郎が何かを手に戻ってきた。
僕が手の乾燥を防ぐために使っているクリームだ。
なるほど、それならまだマシかも。
件の微妙な間のせいで少し落ち着いてしまっていた僕だが、承太郎に触られてあっさり反応を返す。
これはいよいよ腹を括らなければいけないなあ、と思っていると、承太郎の指が侵入してきた。
思わず、うえ、とかいう色気の無い声が上がるが、構わずに承太郎は指を動かしている。
真剣な表情で一点を見つめているので、なんだか居た堪れなくなって顔を逸らした。
一応濡らした彼の指は、そこまで抵抗も無く僕の中に入ってくるが、異物感が気持ち悪い。
シーツを握って必死に耐える。
「…う……」
それでも漏れてしまう声を聞くたび、承太郎が不安げにこちらを見るので、目で先を促した。
だって彼も、僕以上に辛そうだ。

 

十分に解されたらしい頃には、僕は全身で息をしていた。
同じくらい荒い息をした承太郎が、自身を宛がってくる。
覚悟を決めてぎゅうと目を瞑ったら、頬をぺろりと舐めあげられた。
いつもの、親愛の情を示すやり方だ。
その仕草にこれ以上ないほどの安心感を覚えて、全てを承太郎に任せることにした。

 

頭の中がぐちゃぐちゃになって、自分が今どういう状況なのかよく分からない。
頬が冷たいから涙が出ているみたいだ。
承太郎はとてもゆっくり動いてくれているが、圧迫感がひどい。
「う、……ぁっ、じょう、たろ…承太郎!」
「…なんだ」
「ぼ、く…なら、いいから……もっと、動いて…いい、よッ……」
言った途端に一気に貫かれ、悲鳴が上がる。
僕が承太郎に揺さぶられているのか、僕ら以外の世界ががくがく揺れているのか、判断できない。
花京院、と熱を含んだ声で彼がつぶやき、僕の名前だと気が付いて何も考えられなくなった。
「承太郎、承太郎ッ……承太郎!」
うわごとのように彼の名を口にする、承太郎も僕を呼ぶ。
びりびりした正体の分からない衝撃に襲われて、僕は果てた。
同時に僕の中に熱いものが放たれて、そのことに何故だかひどい満足感を覚えながら、意識を手放した。

 
 
 

目覚めたときに、何だってこんなに体がだるいのかと一瞬考えて、原因に気付いて真っ赤になった。
節々は痛くてたまらないが、不快なところは無い。
どうやらあの後、承太郎が僕の体を清めてくれたみたいだ。
昨晩は完全に存在を無視されていた掛け布団が、ちゃんと僕を暖めている。
「承太郎……」
僕の隣を暖めるふくらみに、布団の下から手を伸ばし、
 

もふ。
「…………ちょっ…!?」
飛び起きて布団をめくり上げた。
案の定そこに居たのは、つややかな毛並みを持つ大きな黒い犬。
すぴよすぴよと気持ちよさそうに眠っている。
この野郎…そりゃ僕は女の子じゃあないけどさ、もうちょっとムードというものを考えてだね……。
ふつふつと湧き上がってくる怒りは、しかしどうも甘い味をしている。
仕方が無いからそのふかふかの体に身を寄せて、
……次の瞬間、ムードもへったくれも無い目覚まし時計に承太郎と二人、たたき起こされた。