お犬さまと一緒 (7)探しています

 
朝起きて会社に行って仕事をして帰ってものを食べて眠る。
何も変わらないずっと続けてきた何もおかしくない。
だのに何故だろう、朝起きても会社に向かっても仕事をしてもものを食べても、そこには色がない。

 
 
 

承太郎が何も告げずに僕の部屋を出て行ってから、幾日たったのか良く分からない。
日付がさっぱり意味をなくしてしまったからだ。
与えられた仕事をする以外の時間をどう過ごしていたのか、思い出せない。
彼と会うまでは一人で過ごしていたはずなのに。
ふと目に留まった男が、つまり鏡の中の僕が、ずいぶんとやつれた顔をしていて驚いた。
無理矢理苦笑を作って、無理矢理体を動かして、コートも着ずに外へ飛び出した。

 

当てがあるでもない、どこをどう歩いたかは覚えていない。
どこも同じような道すがら、後ろから「花京院さん?」と声を掛けられた。
振り向けば、同じ職場の後輩になる女性。
少女らしい感じのワンピースを着ている(そういえば彼女の私服を見るのは初めてだ)。
驚いた表情を見せているのは、僕がそれだけひどい顔をしているということなのだろう。
「花京院さん、あの……大丈夫ですか?」
心配そうに近づいてくる、彼女の前に進み出るのは一匹の犬。
写真を見たことがある、彼女の飼い犬だ。
飼い主を顔色の悪い不審な男から守るつもりだろうか。
優しげな顔つきに、しかし今は強い意志を宿して、大きな体を僕の前に誇示する。
その様子に、外見は似ているとは言えないけれど、僕の大事なものを思い出して、
もうどうしようもなくて、
彼女に挨拶もせずに走り出した。

 
 
 

承太郎と一緒に歩いた街角を、土手を、あるいは本屋やスーパーへの道を、
必死に彼を探して走ったけれど、けれど彼は居ない。
はあ、はあ、五月蝿いのは僕の息遣いだ。
僕の足はこんなに遅かっただろうか、僕の目はこんなに悪かっただろうか。
どうして彼が見つからない?
はあ、はあ、そうかそうではないんだ。
彼が僕の前から姿を消したのは、あの猫が原因だ。
僕との繋がりなど、あの猫に関する事象に比べればどうでもいいのだ。
だから僕と一緒に歩いた場所などに、彼が居るはずもない。
僕はあの猫と、承太郎に酷似した犬とに出会った場所に向かった。
今度は歩いていった。

 

高い塀が続く住宅街の、ひとつの角を曲がったとき。
広い背中が目に入り、心臓が跳ねた。
名を呼びたいのに声が出ない。
ここ数日まともに喋っていなかったからだ。
背中が歩いていく。
黒い髪が揺れている。
男が道をそれて行ってしまう、直前に何とか喉から音を搾り出した。
「……承太郎!」