理髪師の食卓

前ブログからサルベージ。
グロい話。


 
 
 

「おかえり承太郎!遅かったね、寂しかったよ」
仕事場から家へと帰ると、愛する妻がそんなことを云いながら飛びついてきた。
彼の背中へ腕を回し、抱きしめてやる。
「まさか、今日が何の日か、忘れたわけではあるまいね?」
片眉を歪めてそういう顔は、しかし軽く微笑んでいて、彼が本気で俺をなじる気がないのは容易に分かった。
青白い頬に唇を落として応えると、ころころ声を上げて笑う。
「今日は僕らの、初めての結婚記念日だからね。ご馳走を用意してあるんだよ」
なんだ、と聞く代わりに、彼の頬へ顔を寄せたまま、息だけで笑った。
彼はくすぐったそうに身を捩じらせ、俺の腕の檻から抜け出すと、台所へ向かった。
そう、今日は彼と俺との初めての結婚記念日なのだ。
忘れるわけが無い。
今日だって、少々帰りが遅くなってしまったのは、そのために準備をしていたからなのだ。
かちゃかちゃと音がして、右手に皿を持ち、左手で壁を確かめながら、彼が台所から歩いてきた。
皿の上には大きなパイが。
目の見えない彼が落としては不味いと、軽く腕に触れて合図をしながら、皿を取り上げた。
美味そうな匂いが鼻に届く。
「ミートパイだよ!何のお肉だと思う?」
そりゃあ勿論、血の滲んだ包帯を不器用に腹に巻いた、目の前の彼のものだろう。
「答えは僕の肝臓でした!美味しく食べてね」
美味そうだ、と口で云えないので、ぴちゃりと音を立てて舌を舐める。
だがその前に。
パイをテーブルに置き、彼の唇に手をかけた。
指を滑り込ませれば、従順に口を開く。
そこへ、俺からの贈り物を入れてやった。
「んむ・・・何だい?結構・・・大きい・・・」
軽く顎をつまんで促してやり、彼がぐちゅりと噛み潰すのを見守った。
端から透明な液体を垂らしながら、じゅくじゅく口を動かす姿の卑猥さは、他に例えようも無い。
こくりと喉を鳴らし、最後に唇を舐める。
「ご馳走様、美味しかった・・・どっちの眼?」
彼の手を取り、左目―――のあった場所―――に導く。
眼孔に何も入っていないのを指で確かめ、彼は笑った。

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