鉄獄より愛をこめて 29F

”もちろんプレゼントを独り占めするためです!”

承太郎と花京院はテルモラへ来ていた。ここで何やら人を募っているクエストがあって、それに挑戦した何人もの冒険者が帰ってこないというのだ。モリバントの酒場でそんな話を聞き、二人は腕試しにとテルモラにやってきたのだ。

テルモラは大きな城があって、その城下町になっているという町だ。ここは商いが盛んで、町の商店街には活気があふれている。ここでは、ブラックマーケットさえ堂々と店を構えているのだ。
二人はその商店街を冷やかしながら歩いた。二人とももう、ダンジョンの深層まで潜る冒険者であるので、こういった店で買うものはほとんどない。サブの武器として一応持っている弓の、その矢を補充するくらいで、あとは店に用事といえば、拾ったものを売るくらいだ。
そうして二人がビスケットをかじりながら町をぶらぶらしていた時、町角にいる男が目に止まった。男は大きなポスターをかざしながら、「挑戦者求ム!」と叫んでいた。何とはなしに見ていたら、その男と目が合った。
「お、そこのハーフエルフのお兄さん、かなりの手練だね? 言われなくても見れば分かるよ。どうだい、アリーナに挑戦してみないかい?」
「アリーナ?」
「おや、バルログさんも興味あるのかい?」
男は大きなイークが描かれたポスターを二人に見せた。
「うちのアリーナはいつでも挑戦者を待ってるよ! 勝てばすてきな賞品を進呈! ルールは簡単、一対一でどちらかが死ぬまで戦うだけだ」
「一対一?」
花京院はポスターを覗き込んだ。『彼に勝利すれば装飾のアミュレットをプレゼント!』と書いてある。
「ちょっと賞品がしょっぱすぎるんじゃないか?」
「そりゃあお兄さん、初めてのチャレンジでそんないいものはもらえませんよ。勝ち数を稼いでいけば、比例して賞品の質も上がっていくんです」
「なるほど?」
花京院はふむふむと顎に手を添えた。
「一対一って言ったね。二人で挑むのはなしかい?」
「二人?」
アリーナ呼び込みの男は、きょときょと花京院と承太郎を見比べた。
「まさかと思うが、あんたら……」
「ああ、俺たちはコンビで冒険してるんだ」
「そりゃあおったまげた!」
男は目を瞬いて驚きの声を上げた。
「だが、悪いね。アリーナのルールは一対一なんだ。ペットを連れたまま入れるのも、魔獣使い騎兵だけさ」
「ふーむ」
「興味があるのか、花京院?」
「ちょっとね。面白そうじゃあないか?」
「クエストの前に行っておくか? 俺は構わねえぜ」
「ふむ。それじゃあ挑戦してみようかな。案内してもらえるかい?」
「さすがお兄さん! わたしの目に狂いはなかった!それではついてきてください。こっちの建物です」
花京院は呼び込みの男に連れられて、アリーナの会場へ向かった。承太郎もその後を追う。こうして二人は、闘技の世界へ足を踏み入れた。