鉄獄より愛をこめて 28F

”岩のように固く、味もだいたいその程度。”

花京院は普段、ダンジョンにはエルフの行糧、レンバスを持っていく。これは葉に包んで割れないようにしておくだけで保存でき、非常に軽く味もいいので、多くの冒険者がダンジョン飯にしている。

花京院は自然の魔法領域に食糧生成の呪文を持っているので、節約のためにMPに余裕がある時はレンバスを取っておいて、そちらで生み出した食料を食べていた。これはレンバスほど腹が膨れないから、ちょくちょく片手を上げて呪文を唱える必要がある。

「承太郎、ちょっと休憩いいかい」

「おう。疲れたか?」
「いや、お腹が空いたんだ」
「そうか。俺も食事にするかな」
そこで二人は、辺りにモンスターの気配が感じられないことを確かめてから、腰を下ろした。
承太郎は自分のザックから、土気色をした人間の死体を取り出した。ぐんにゃりしている体を丁寧に整え、死者が安らかに眠れるよう、という「いただきます」を捧げて、それから魂を取り出し、食べる。その間ずっと、花京院は承太郎のすることを見ていた。
承太郎の食事が終わってから、花京院はザックからレンバスを出した。少々MPが減っているし、まだレンバスも数が残っている。最近魔法で生成した食料ばかりを食べていたから、久しぶりのレンバスは優しい甘さで、体の芯から活力が湧いてくるようだった。
「それ、うまいのか?」
「かなりうまいよ。一枚で十分満腹になれるけど、もっと食べたいと思うくらいさ」
そう言って花京院は、なるべくちまちまと焼き菓子をかじった。承太郎はそんな彼の横顔を、じっと見つめた。
かりりと歯を立て、うまそうに頬張る様子。口の端についた食べかすを舐め取る様子。上下する喉元。知らず、承太郎は自分の喉を鳴らしていた。
「どうしたんだい、」
つい尋ねてから花京院は、承太郎の目に浮かぶ熱の意味を正しく理解して、気まずそうに尻をもぞもぞさせた。
「……さっき食べたばかりだろう」
「ああ、だから胃が食いもんを寄越せと言ってるわけじゃねえ。もっと別のところが、お前を食いたくて仕方がねえと言ってる」
「それで、君は、僕を……食べるのかい」
「意地の悪いことを聞くな?」
「……すまない」
花京院はレンバスの残りを急いで詰め込んで水をあおり、立ち上がった。
「君がどうしたいのか、そしてどうしてそれができないのか、僕は分かっているつもりさ。同じように、僕がどうされたいのか、どうしてそれができないのかも、分かってくれていると思うが」
「そうだな」
承太郎も水袋から水を飲んで、腰を上げた。
「いつかその日が来るのを、楽しみに待ってるぜ。来ないことを望みながらな」