鉄獄より愛をこめて 43F

”情報がなければ人生は極めて短い。”

翌日目を覚まして、また自分の顔をぺちぺちやった花京院は、昨日ほど悪い気分ではなくなっていることに気がついた。

僕は何を弱気になっていたんだ?
彼に自分から食べて欲しいだなんて、そんな、まだまだ冒険を続けられる身で言うことじゃあない。
その後すぐに起きてきた承太郎は、すっきりしたような顔の花京院を見て、「オメー、心は決まったのか」と言った。
「ハーフエルフだろうがエントだろうが、花京院って名前のやつは、俺と一緒に行く。異論は?」
「……ないよ」
そう言って花京院がニヤリと笑ったので、承太郎は彼の頭を小突いてそれに応えた。
「ああ、でも、装備品はちょっと見なおさなきゃな。知っての通り、エントってのは火に弱い。耐火をバッチリにしておかないと、危なくて先には進めない」
「そうだな」
そこで花京院と承太郎は、自分たちの倉庫の前であれでもないこれでもないと言いながら、武器や防具を選んだ。
それから酒場へ。
酒を注文して、ついでに食事も頼もうと思った花京院は、「あれ!?」と声を上げた。
「エントって肉やパンを食べないよね!?何を食べるんだ!?」
「木の精だもんな。何だ?」
「あそこのテーブルのドワーフが食べてる肉料理、全然おいしそうに見えない………あ、ちょ、ちょっとすみません!」
ちょうど二人のテーブルの横を一人のエントが通りかかったので、花京院が声をかけた。
顔についた苔が髭のよう、体には紫の茨が巻き付いている。
「何じゃ、お前さんらは?」
エントは怪訝そうな、油断なく光る目を向けてくる。
「実は僕、放射能廃棄物のせいでエントになったばかりなのです。エントが何を食べるのか、教えていただけませんか?」
花京院はそう尋ねながら、やってきた酒を老エントの前に差し出した。
それに手を伸ばしながら、老エントは「水じゃよ、もちろん」と言った。
「水?」
「水分じゃ。こういった酒でもいいんじゃが、ダンジョンに持っていくのは基本的に薬じゃな。体力回復の薬みたいな実用的な薬とは別に、ヒーローの薬とか、致命傷の治癒の薬とか、店で安く買えるものじゃな、そういうのを多めに持っていくんじゃ」
「なるほど」
花京院は頷いた。
「分かりました。ありがとうございます。願わくば、お互いダンジョンでは出会いませんことを」
「そうじゃな。ま、もしそうなったら、わしは逃げるなり戦うなりさせてもらうよ」
物騒な台詞の割にはおちゃめな様子でウインクして、老エントは去っていった。
花京院は承太郎に向き直った。
「あとで寺院か錬金術屋へ寄って薬を買っていこう。食糧生成の呪文の意味がなくなってしまったのは辛いが、薬なら役に立たないこともないだろう」
「ああ、死体よかずっと邪魔じゃねえだろうしな」
そういうわけで二人はその晩、酒場でエールを楽しんだあと、部屋に戻ってめいめいの食事をとったのだった。