鉄獄より愛をこめて 5F

”彼らは善なる目的のため闘う。あなたは悪の手先と見なされているようだ。”

「このあたりで少し休憩にしよう」

「そうだな」
承太郎と花京院はダンジョンの床に座り込んだ。このくらいのフロアになると敵も手強く、進む速度は落ちていた。とはいえ一人ではとてもここまで無事で来られるとは思えない。二人は油断せずゆっくりと、HPとMPに気をつけながら歩いていた。
ふと花京院が顔を上げる。
「どうした、何か……何が近付いてきてる?」
「エルフ……ダークエルフだな。おそらくダークエルフのメイジの集団だろう。まだこちらには気付いていないようだ」
「そうか」
承太郎は暗黒の魔法書を開いて、範囲攻撃の魔法を唱えられるように構えた。花京院もカオスの魔法書を開き、同じように準備をする。
「ん?」
「どうした」
「歩みが止まった。もしかしたらこちらを感知されたかも」
承太郎は舌打ちをした。ダークエルフ・メイジの集団にそこまで苦戦するとは思えないが、遠距離タイプの敵に感知されたなら面倒であることは確かだ。
承太郎は魔法書をぱたんと閉じた。
「援護してくれ。気付かれてんならコソコソする必要はねーだろ。一直線に近付いて殴る。メイジは脆いからな」
「……そうだな」
承太郎はちらりと花京院を見下ろした。
「今のはお前への悪口じゃねえぜ」
「分かってるよ。メイジが脆いのも事実だ」
「俺だって気配を消すのは苦手だぜ。今回も俺が感知されたんだろ」
それを聞いて、花京院はプッと吹き出した。
「なんだよ」
「いやね、君がまさか、僕のご機嫌取りをするとは思わなかったから」
「……るせーな」
承太郎はごまかすように帽子のつばをぐいと引き下げ、斧を手にして走っていった。花京院はそんな承太郎の背中に、属性攻撃への耐性をつける魔法を飛ばした。
ダークエルフたちのものと思われる悲鳴が聞こえてくる。それを聞きながら、花京院は思案した。メイジなんざ脆いだけ、そう言って笑ってきた相手を何人屠ったか、もう覚えがない。けれど、さっきは……。
承太郎が斧を振り回しながら後ずさりしてきた。冷静に対処しているので、自分の攻撃範囲内にうまいことおびき寄せているだけだろう。花京院は致命傷の治癒の薬を握りしめた。
息も絶え絶えのダークエルフが、はっと花京院の存在に気付く。彼が治癒の薬を承太郎に向けて投げられるようにしていることも。ダークエルフは目を釣り上げた。
「悪魔の……売女め!」
ダークエルフがそれを言い終わらないうちに、彼の首から上はなくなった。
花京院は、その言葉を承太郎が聞いていないといい、と思った。僕はまったく気にしないが、承太郎が気にするといけないから。