鉄獄より愛を込めて 13F

”誰も「それ」を見た者はいない。”

承太郎は机の上に例の瓶を置いて、それを眺めていた。花京院が来ることは分かっていたのだろう、自分はベッドに座り、粗末な椅子を勧めてきた。

言われるままに腰掛けて、花京院もそれを見やった。淡く光る瓶はとても美しく、素人目にも高級、いや特別製のものであるのは明らかだった。
花京院はふと思いついて、瓶を手にして魔力を込めてみた。すると瓶から、まるで水のようにふつふつと光があふれだし、それは部屋全体を明るく照らした。
花京院はふうっと息を吐いて興奮を逃がそうとした。
「間違いない。これはガラドリエルの玻璃瓶だ」
「ああ、とんでもないものを手に入れたな。エルフの奥方の遺品とは」
「これで冒険が更に楽になるぞ。最近僕ら、すごく調子いいんじゃあないか?」
「まったくだ」
そう、そんな伝説のアイテムを手に入れて、二人とも気分が高揚していたのだ。顔を上げて目を合わせれば、相手の目は熱を持ってきらきら光っていた。
……出来心だった。承太郎はつい首を伸ばして、つい頭をかしげ、つい花京院の口に己のそれを重ねた。
花京院は弾かれたように立ち上がった。目をいっぱいに開いて、唇を触っている。もしかして、この感触は。硬くて熱い、これは。
「……悪い、嫌だったか」
「いや…いやその……嫌っていうか……驚いて」
「嫌、では、なかったんだな?」
「………うん」
花京院は目を泳がせた。それから意を決したように顔を上げる。
「あの! ………承太郎」
「……何だ」
「僕、その、今……『そんな気分』だ」
「……奇遇だな、俺もだぜ」
花京院は困ったように笑った。承太郎の方はニヤリと悪どく笑って、花京院の腕を引いた。