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鉄獄より愛をこめて - 36階


”「あと12個の頭蓋骨で俺のボスから褒美がもらえるんだ!」”


「花京院、ちょっと休憩してもいいか?」
「え?構わないが、さっきもしただろう。お腹でも空いたのか?」
「いや、腹は膨れてるんだが」
「どうかしたのか?」
「分からん。だがなぜか、体が重い気がする」
「?」
周囲にモンスターの気配がないことを確認してから、二人は腰を下ろした。
花京院が自然の領域の治癒魔法を承太郎にかける。
「どうだい?」
「うーむ…変わらん気がする」
「不思議だな。今日はここまでにして、地上に戻ろうか」
「そうするか。悪いな」
「気にするなよ」
二人は帰還のロッドを振るい、地上へと舞い戻った。
ダンジョンには昼も夜もなく、一日をリズムよく過ごす冒険者などは皆無だ。
何日も平気で起きていられる種族が多いのもある。
そのためこの世界では、宿や店などは基本的に24時間オープンしている。
二人が地上に出たのは、太陽が沈みきった真夜中だったが、冒険者向けの宿の主人は嫌な顔ひとつせずに部屋を開けてくれた。
「うちには二人部屋はないんだ。悪いね」
彼はそういったが、バルログや半巨人半巨人プレイヤーが選べる種族の一つ。その名の通り、ハーフの巨人。脳筋タイプ。なんかのための、大きめの部屋を用意してくれた。
「ふう、なんだかんだ僕も疲れていたみたいだ。今日はもう寝ようか」
「そうだな」
二人は倒れるようにしてベッドにもぐりこんだ。
花京院はふと、小さな違和感をおぼえた。
なんだろう。
だがその正体を知る前に眠気がやってきて、彼らはぐっすりと眠り込んでしまった。


ごろり、と寝返りをうつ……寝返り?
承太郎と一緒のベッドに入って、寝返りがうてるなんてありえない。
もう起きだして、ベッドから出たんだろうか。
花京院はうっすらと目を開けた。
その視界には、しかし、黒い人影がある。
「………んんん!?」
花京院ははっきりと覚醒して、体を起こした。
自分の横で寝息を立てている人物。
夜の闇のように黒い肌、太い角、体に走る白い筋。
間違いなく承太郎のものだ。
だが。
「ちょ、ちょっと承太郎、きみ承太郎だよな?起きろ!」
花京院がぺしぺしその頬を叩くと、彼のまつげが震え、その瞳が開かれた。
深い深いエメラルドグリーン。
「ああ、よかった承太郎だ。きみ一体どうしちゃったんだ?」
「どうしたって何が……ん、俺の声、なんだか高くねえか?」
「声だけじゃあないぞ。とりあえず鏡を見てみろ」
花京院に促されて、承太郎は起き上がった。
「ん?この部屋、こんなにでかかったか?」
首を傾げながらも、鏡の前に立つ。
そこで承太郎は仰天することになった。


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