闘技を引退した花京院と承太郎は、テルモラの城へと向かった。 そこで、何人もの冒険者が帰ってこなかったというクエストを受けられると聞いたのだ。 城の役人は、二人のことをうさんくさそうにジロリと見やった。 「ま、仕事さえやってくれるのなら、コンビだろうがなんだろうが構いやしないがね」 「で、そのクエストの内容っていうのは?」 「うちの城が持ってる宝物庫のことなんだ」 役人はため息を付いて首を振った。 「町外れにあって、財宝やら武器やらを入れていたんだが、いつのまにやらワイトワイト幽霊みたいなやつ。下級のワイトはそんなに強くないが、上級のもののブレスは凶悪。やらエレメンタルエレメンタルエネルギー体みたいなやつ。属性攻撃が厄介。やらが入り込んでな、魔物の巣窟になっちまったんだ。そいつをキレイにしてくれっていうのが、当初のクエストの内容だったんだが、あまりに難しいみたいでな。今はモンスターの殲滅までは期待してはいないんだ。ただ、宝物庫の4つの部屋のどこかにある、ウォー・ハンマーのアーティファクトを持ち帰ってきてくれるだけでいい」 「それだけでいいのか?」 「それだけ、ができる冒険者がいないんだよ。あれは伝説の武器だ。使いこなせる兵士がいないから蔵に入れていたのだが、このまま朽ちさせるにはあまりに惜しい。もちろん、中のモンスターを倒してくれるのなら、とてもありがたいんだがね」 「なるほど、分かりました。できるだけのことはやってみましょう」 「頼んだよ」 そこで二人は、その宝物庫へと向かった。 鍵は開け放してあるらしい。 つまり、中に忍び込む盗賊がいないということだ。 「なかなか手ごわそうだ。気を引き締めて行こう、承太郎」 「おう」 宝物庫は、扉を開けたすぐは小部屋になっており、そこには地下への階段が顔を見せていた。 階段を降りると、早速四方が罠で固められている。 承太郎がトラップ解除をしている間に、花京院はモンスター感知の魔法を唱えた。 「うわあ、ワイトにエレメントだけじゃあない。ゴーレムやらドラゴンやらクリーピングコインクリーピングコイン財宝のミミック。銅や銀のクリーピングコインはたいして強くもないし動かないが、ルビーやミスリルのそれは無数の小さな足で歩いてくる。倒すとお金を落とすのでちょっと嬉しい。やら、ぎっしりだ」 階段からは4つの地下通路が伸びている。 その先に、部屋が4つあるのだ。 「一部屋制圧して、残りの部屋のモンスターを1匹ずつおびき出して戦おう」 「それが一番だろうな」 二人は花京院の感知したデータを元に、ワイトたちがたくさんいる部屋へ、最初に向かうことにした。 この部屋にいるモンスターが一番弱そうだからだ。 明かりをつけてモンスターを起こすわけにはいかない。 承太郎が先頭、花京院がそれに続く形で、そろりそろりと歩を進める。 部屋の扉を開けると、二人に気付いたらしいコールド・ボルテックスコールド・ボルテックスボルテックス(渦巻き)の一種。冷気のブレスを吐く。不規則に移動して薬を割ってくる。が突っ込んできた。 こいつはテレパシーで感知できないのだ。 花京院は薬を守ろうと、とっさにザックを抱え込もうとしたが、コールド・ボルテックスのほうが速かった。 吐かれた冷気のブレスがスピードの薬を割り、ボルテックスのスピードが上がった。 承太郎が、近付かれる前にボルテックスに向かって火炎のブレスを吐く。 ボルテックスは塵となって消え去ったが、今の騒ぎで何匹かのモンスターが目を覚ましたらしい。 部屋の中、そして別の部屋からモンスターが動く気配を感じる。 だが、ダンジョンやアリーナでレベルを上げていた二人には、そうたいした脅威ではない。 体力と攻撃力の高いミスリル・ゴーレムミスリル・ゴーレムゴーレムモンスターの一種。変わった能力は使ってこないが、純粋に殴りが強く、油断できない相手。には少しだけ苦戦したが、一部屋制圧するのはそんなに難しいことではなかった。 それにしても、武器や財宝に化けたミミックモンスターがたくさんいる。 巻物や指輪なんかのアイテムミミックも多い。 立てかけてある武器や置いてあるアイテムを遠くからチェックチェックゲームシステム的に、見えている(暗がりになっていない)ものは、照準を合わせると判別できる。財宝記号やアイテム記号のものも、変な動きをしていたら確認してみよう。して進みつつ、二人はモンスターを倒していった。 部屋の奥に、ウォー・ハンマーが3つかけられているのが見える。 「……全部、デスソードデスソード武器ミミックの一種。強い。初心者殺しのモンスター。動かないのが救い。だが動く武器はミミックだとすぐに分かるので、化けるという意味では逆に厄介かもしれない。だ」 「分かった。後回しにしよう。近付くなよ」 「誰に言っているんだ」 承太郎は光源・ガラドリエルの玻璃瓶の能力を使い、部屋を明るく照らした。 この光と承太郎の足音で、他の部屋のモンスターがまたしても目を覚ます。 それこそが狙いだ。 二人は狭い通路に陣取って、1匹ずつおびき寄せて戦える体勢を取った。 足の遅いゴーレムには遠距離魔法を、速いボルテックスは承太郎が直接叩いて、だんだんに数が減ってきた時だ。 ぱ、っと、承太郎の目の前に、同じくらいの大きさのバルログが現れた。 振り下ろしてくるロング・ソードの攻撃を斧で受け止める。 花京院はさっとモンスター感知を行った。 向かって左の通路に、悪魔崇拝者悪魔崇拝者人間タイプのモンスターの一種。デーモン召喚がとにかく面倒な相手。がいる。 「承太郎!そのバルログ、任せたぞ!」 「おう!」 承太郎が敵のバルログの鎧の隙間に斧を滑りこませたのを横目で見ながら、花京院は左の通路に駆け込んだ。 召喚主を真っ先に倒さなければきりがない。 悪魔崇拝者は赤い衣に身を包み、落ち窪んだ目で花京院をギョロリと睨めつけた。 パッと花京院の周りを砂に棲むもの砂に棲むもの下級デーモンの一種。群れで出てくるが強くないし結構な確率でアイテムを落とすので見つけたら積極的に戦おう。が取り囲む。 花京院は落ち着いて、テレポート・アウェイテレポート・アウェイ鉄獄6階を参照。の魔法棒を使い、自分と悪魔崇拝者の間にいたデーモンたちを退かした。 一直線に攻撃魔法を放つ。 ギャア、と甲高い声を上げて悪魔崇拝者が骨になってしまったのを見届けてから、花京院は残りの下級デーモンたちを倒していった。 掃除し終わる頃に、通路の角から一匹の大きなバルログが姿を現した。 それはもちろん、承太郎であった。 >>戻る |