花京院は普段、ダンジョンには、エルフの行糧エルフの行糧レンバス。「行糧」は意訳。元ネタは指輪物語。特別なエルフしか作ることができない、薄い焼き菓子で、軽く持ち運びやすく、一枚で一日たっぷり歩けるほど、その上うまいという代物。ゲームに置いても、軽くてすぐ満腹になってくれる便利アイテム。食べ物はこれ一択。魔法で作り出すことはできない。、レンバスを持っていく。 これは葉に包んで割れないようにしておくだけで保存でき、非常に軽く味もいいので、多くの冒険者がダンジョン飯にしている。 花京院は自然の魔法領域に食糧生成の呪文を持っているので、節約のために、MPに余裕があるときはレンバスを取っておいて、そちらで生み出した食料食料食べ物アイテムの一つ。味気ないらしい。を食べていた。 これはレンバスほど腹は膨れないから、ちょくちょく片手を上げて呪文を唱える必要がある。 「承太郎、ちょっと休憩いいかい」 「おう。疲れたか?」 「いや、お腹が空いたんだ」 「そうか。俺も食事にするかな」 そこで二人は、辺りにモンスターの気配が感じられないことを確かめてから、腰を下ろした。 承太郎は自分のザックから、土気色をした人間の死体を取り出した。 ぐんにゃりしている体を丁寧に整え、死者が安らかに眠れるよう、という「いただきます」を捧げて、それから魂を取り出し、食べる。 その間ずっと、花京院は承太郎のすることを見ていた。 承太郎の食事が終わってから、花京院はザックからレンバスを出した。 少々MPが減っているし、まだレンバスも数が残っている。 最近魔法で生成した食料ばかりを食べていたから、久しぶりのレンバスは優しい甘さで、体の芯から活力が湧いてくるようだった。 「それ、うまいのか?」 「かなりうまいよ。一枚で十分満腹になれるけど、もっと食べたいと思うくらいさ」 そう言って花京院は、なるべくちまちまと焼き菓子をかじった。 承太郎はそんな彼の横顔を、じっと見つめた。 かりりと歯を立て、うまそうに頬張る様子。 口の端についた食べかすを舐め取る様子。 上下する喉元。 知らず、承太郎は自分の喉を鳴らしていた。 「どうしたんだい、」 つい尋ねてから花京院は、承太郎の目に浮かぶ熱の意味を正しく理解して、気まずそうに尻をもぞもぞさせた。 「…さっき食べたばかりだろう」 「ああ、だから胃が食いもんを寄越せと言ってるわけじゃあねえ。もっと別のところが、お前を食いたくて仕方がねえと言ってる」 「それで、君は、僕を……食べるのかい」 「意地の悪いことを聞くな?」 「……すまない」 花京院はレンバスの残りを急いで詰め込んで水をあおり、立ち上がった。 「君がどうしたいのか、そしてどうしてそれができないのか、僕は分かっているつもりさ。同じように、僕がどうされたいのか、どうしてそれができないのかも、分かってくれていると思うが」 「そうだな」 承太郎も水袋から水を飲んで、腰を上げた。 「いつかその日が来るのを、楽しみに待ってるぜ。来ないことを望みながらな」 >>戻る |