さて、承太郎と花京院は”鉄獄”をうろうろしていた。 これはいつものことだし、強敵に出くわして戦い、休憩するのもいつものことだ。 今回の敵はドローレムドローレムドラゴン型のゴーレム。中盤初期のやばいやつの代名詞。毒ブレスも厄介だが、テレパシーや邪悪感知に引っかからないのが特につらい。だった。 こいつはテレパシーで感知できないのがいやらしいモンスターで、知らぬ間に近づかれた承太郎と花京院は苦戦を強いられた。 「あ、やばい。承太郎」 「ああ。あっちの通路から何か来てるな」 「まだ回復しきってないのに……仕方ない」 花京院は立ち上がり、ザックに手を突っ込んで薬を取り出した。 ぐいと一気に煽る。 途端。 「ぐ、う…!?」 花京院の手から滑り落ちた薬の瓶は、ダンジョンの床にぶつかってがしゃりと割れた。 「か、は…」 「花京院!?おい大丈夫か!?」 肩を掴んで、承太郎は彼の目を自分の方に向けさせた。 その目が大きく見開かれる。 それから花京院は盛大に顔を歪め、素早く魔法書をめくってテレポートの呪文を唱えた。 彼の体は一瞬のうちに消え去り、承太郎の腕はだらりと空を切った。 承太郎は息が詰まるのを感じた。 花京院が見せた表情、あれは、紛うことなく、恐怖だった。 承太郎は花京院に何が起きたのか調べようと、床に散らばった薬の瓶を手にとった。 そこでふと気づく。 瓶の色は、薄い青色をしている。 だが体力回復の薬体力回復の薬HPを大幅に回復する薬。中盤以降の起死回生アイテム。ブラックマーケット以外の店では売っていないので、見つけたらきちんと拾おう。の瓶の色は、濃い青色ではなかったか? 彼は間違えて別の薬を飲んだのだ。 ではそれは何か。 花京院に向けられた、恐怖に歪んだ顔を思い出す。 ああいう表情にはとても覚えがある。 すなわち、食べ物となる人間やエルフ、ホビットなんかが見せる顔である。 承太郎はため息を吐いた。 十中八九、彼が飲んでしまったのは、記憶喪失の薬記憶喪失の薬ハズレアイテム。鑑定済みの状態では店で売ることもできない。だろう。 自分がそうなってしまったことはあるが、まさか彼まで。 魔法や薬による記憶喪失は、自分がどこの誰か分からなくなるとか、覚えた魔法が使えなくなるとか、そこまでの症状は引き起こさない。 花京院も、自分の持ち物に見覚えのないものが入っていて、しかもそれらが未鑑定の状態になってしまっているから、自分の身に何が起きたかは分かるだろう。 ……願わくば、自分のこともすぐに思い出すように。 承太郎はそう思って、彼を探してダンジョンを歩くことにした。 >>戻る |