承太郎は”鉄獄”に舞い戻った。 比較的すぐに、次の階層に行ける階段を見つけたが、スルーすることにした。 彼はまだ、このフロアにいるだろう。 彼があんなに怒っていた理由は、自分のことを嫌いになったからではなく、むしろその逆なのだ。 承太郎は帽子の感知に注意を払い、一歩一歩ゆっくり歩きながら花京院を探した。 やがてテレパシーに、一人のエルフらしき人物が引っかかった。 帽子のテレパシーでは大体の種族までしか分からないが、承太郎には確信があった。 これだけうまそうなのだ、彼でないわけがない。 承太郎は息を潜めた。 それは苦手なことではあったが、彼を再び手に入れるためなら、何だってできると思った。 果たして通路の奥からやってきたのは、緑のクロークに身を包んだハーフエルフ、花京院だった。 彼は暗い部屋を見渡して、それから「日の光」の呪文を唱えた。 大きな影が現れて、はっと身を引く。 ところがそれが見知ったバルログだと分かり、彼は詰めていた息を吐いた。 「何だ、来たのか。承太郎」 「ああ。会いに来たぜ」 承太郎は大股で花京院に近づいた。 花京院はしかめつらを作ったが、逃げることはしなかった。 その彼に手を伸ばして、腕をつかむ。 それをぐいと引いて、承太郎は自分の胸に彼を抱きとめ、そしてその唇にキスをした。 やわ、と唇が開いたので、承太郎は自分の舌を入れた。 そして思い切り、噛まれた。 「……いったァ!!どうして噛み付いた僕の歯のほうが痛いんだ!君の舌は鉄か!解せない!!」 「元気そうでよかったぜ」 「おかげさまでね!別に僕は、君がいなくたってやっていけるさ。君も、そういうことがしたいなら、誰か他の人を探したらどうだい」 「俺はそういうことをしたいわけじゃあねえ」 承太郎が低い、けれどしっかりした声でそう言ったので、花京院ははっとして承太郎を見上げた。 「お前だから、したいんだ。分かるだろ」 「……僕は怒ってるんだ」 「ああ。俺が悪かった。妙なことぐちぐち考えちまったぜ。もうどうでもいい。お前がしたいことなんざ知るか。俺は俺がしたいことをするだけだ。だからお前は、俺と一緒にいろ」 「…………ものすごい俺様だな!?」 「悪いか」 「あーあー、ムカつくことに僕も同じ気持ちなんだ。仕方ないから一緒にいてやるよ」 「そうか。それは仕方ないな」 承太郎はニヤリと笑った。 花京院も同じように笑い返した。 そして二人で、また背中合わせ、一緒にダンジョンを進むことにしたのだった。 「一体何を吹きこまれて、あんな馬鹿なことを言い出したんだい?」 「…てめーは、エルフんとこ行かなければ死すべき定めにあるんだそうだ」 「ハァ!?そんなことで!?」 「そんなことって」 「不老不死の悪いとこだぞ。定命の生き物を哀れんだり下に見たりするの。僕が死にたくないって言うのは、モンスターに殺されることの話をしてるんだぜ。寿命だろうがなんだろうが、あるならもらっとくよ」 「そんなもんなのか」 「そんなもんだよ」 承太郎はふと、寿命のない自分たちこそ、憐れまれるべき種族なのかもしれない、と思った。 >>戻る |