「おい、あのバルログ」 「ああ、ハーフエルフと一緒にいたやつだろ」 「とうとう食っちまったのか」 「長いこと一緒だったからな、さすがに飽きたんだろ」 承太郎はざわざわとうるさい酒場の客をじろりと睨んだ。 慌てて目をそらされる。 怖い怖い、次はこちらが食べられるかもしれない。 そんな風に言われているのを無視しながら、承太郎は考えた。 帰還のロッドはこちらにある。 今花京院には、ダンジョンから地上に戻るすべはない。 彼も出会った頃に比べればかなりレベルが上がっている。 一人ですぐにピンチになるということはないだろうが、何が起こるか分からないのが”鉄獄”である。 承太郎は一人で町に戻されてから、またすぐダンジョンに帰ろうとロッドを振るおうとして、その手を止めた。 今行ったところで、また同じことになるだけだろう。 そう思って、承太郎は今一人で、イライラしながら酒を飲んでいたのだ。 ちっともうまくないし、酔える気もしない。 ぐいとあおって立ち上がり、承太郎はもう寝てしまうことにした。 目覚めは最悪だった。 自分はいつからこんなに情けないやつになっていたのか。 自分自身しか信じてはいけないのがこの世界だ。 それなのに、一人でいるだけで気分が晴れないなんて。 無意識に博物館の方面は避けていたのに、雑貨屋に買い出しに来ていたらしいテンメインと鉢合わせてしまって、大きく舌打ちをした。 向こうはそんな承太郎の様子にビビったのか、逃げるように帰ってしまったが。 別に、彼に対して恨みがあるわけではない。 ただちょっと、誰かと背格好が似ていて目を引かれてしまっただけだ。 承太郎は頭を振ってその誰かを頭から追い出し、気分を変えるために倉庫に突っ込んだままにしていた装備品を持ちだして、図書館図書館アイテムの鑑定と*鑑定*をしてくれるところ。もちろん*鑑定*のほうが高い。に行くことにした。 司書は承太郎を目に留めると「おや」と言った。 「お一人かな?珍しいですな」 「悪いか」 「まさか、悪いだなんて言ってはおりませんよ」 色の黒いマインドフレアマインドフレア顔がイカやタコのようになっている種族。魔法使い系にぴったりのステータスをしている。の司書は、承太郎の持ってきたアイテムを検分しながら笑った。 「二人でいつも楽しそうにしているでしょう。今日は一人で、分かりやすく不機嫌なものだから、つい気になって…ムゥン、この帽子は」 「何だ」 「お前さん、スランドゥイル王スランドゥイル森エルフの王。草木で作った冠を被っている。かのレゴラスの父親。はご存知かな」 「当たり前だ。闇の森のエルフの王だろう?」 「これはその、スランドゥイル王が狩りの際に被った帽子スランドゥイル王の硬革帽子帽子欄アーティファクトの一つ。比較的入手しやすいものだが、テレパシー能力のおかげでかなりお世話になるアイテム。に違いない。知能や賢さを強め、盲目になることを防いでくれるだろう。そして何より……テレパシーテレパシー思考能力のあるモンスターの位置が常に分かるという能力。とても嬉しい。ゴーレムや虫、エレメンタルなんかのモンスターは感知できない。の能力を得ることができる」 「……本当か」 承太郎は司書に報酬を弾み、さっそく帽子を被…ろうとして無理だったので角に引っ掛けた。 なるほど確かに、村人の様子が手に取るように分かる。 これなら、花京院もすぐに見つかるだろう。 そこまで考えて苦笑した。 何だ、結局あいつに落ち着くのか。 いいだろう、どこにいようと見つけ出してやる。 その上でどうするかは、未来の自分に丸投げすることにした。 >>戻る |