翌日、少々日が高くなってから目覚めた二人は、気まずそうに見つめ合ったあと、どちらからともなく笑い出した。 「ふふ、別に君とどうなったって、一緒にダンジョンを潜ることに変わりはないわけだ」 「そうだな。ソロンドールソロンドール”山”のボス。指輪物語に登場する大鷲たちの王。ただ”山”そのものが必ずしも攻略しなくてもいいマイナーダンジョンなので、ソロンドールもスルーされがち。が待ってるぜ」 彼らはその日、油つぼをすべて売り払い、できた金で食料と薬を多めに買い込んだ。 承太郎も倉庫から、自分の食べ物を多めに取り出した。 途中でいらないアイテムを鑑定して捨てられるよう、鑑定の杖も持った。 さあ、”山”だ。 途中に出てきた十一首ヒドラ十一首ヒドラヒドラ系モンスターの一種。ユニークではないヒドラの中では最強。お金をいっぱい落としてくれる。に少々苦戦したものの、それ以上は何もなく、彼らは地下49階、下り階段の前にいた。 「行くぜ」 「ああ」 二人は目を合わせて頷きあい、階段を駆け下りた。 降りた先は異様に静かだった。 ………静かすぎる。 けれどそれは、『何もない』静かさではなかった。 『いる』。それもたくさん。 承太郎は斧を握りしめた。 花京院は彼の陰に隠れ、魔法書を両手持ちした。 中指だけで所定のページをめくるテクニックはとっくの昔に身につけている。 空気を切る音。 風の音。 とても静かなそれ。 「行くよ」 「おう」 花京院は短く息を吸い込み、日の光日の光自然の魔法の一つ。部屋の中を照らすことができる。の呪文を唱えた。 ぱ、と部屋が明るくなった。 それを合図に、暗がりに隠れていた鳥どもが、一斉に飛びかかってきた。 その多くは大鷲である。 花京院がものすごい速さで遠距離攻撃の魔法を放つ。 炎、雷、カオスの球。 それらは次々と鳥を撃ち落としていった。 ギャアギャア鳴きわめきながら、それでも息の根を止められなかった鳥が、承太郎の斧によって首とそれ以外に分かたれた。 そのまま踏み込んで、鷲たちに武器を叩き込む。 花京院は2冊の魔法書を器用にパラパラして、鳥達には攻撃魔法を、承太郎には治癒魔法を飛ばした。 ギイィイ、と、およそ鳥の鳴き声とは思えない声が響き、二人は視線を上へ、はるか上へと向けた。 そこにいたのは。 果たしてこれを、大鷲などと呼んでいいものだろうか。 『ソロンドール』はあまりにも……あまりにも大きかった。 大柄な承太郎でさえ、楽にその背に乗れるだろう。 そいつは翼を畳んで地に足をつけていたが、それでも二人は見上げなければならなかった。 ソロンドールは巨大な丸い目で二人を睨めつけ、その巨体に似合わぬ素早さで爪を鳴らしながら走り寄ってきた。 それからデカく硬いくちばしで、近くにいた方、すなわち承太郎へと攻撃を繰り出した。 それを斧でガードする、が、重い攻撃を完全に受け流すことができず、斧を抑えた承太郎の両手がビリビリと震えた。 その間に、花京院がソロンドールの目に向けて魔法を放った。 鷲は少し頭を動かしただけで、その額で魔法を受けはしたが、ほとんど堪えていないようだった。 承太郎は一旦後ろに跳んで下がり、斧を体の前で構えたまま、片手で魔法書を開いて暗黒の魔法を撃ち込んだ。 ソロンドールはそれを物ともせずに一気に間合いを詰めてくる。 それを更に退いて逃げながら、魔法をさまざま唱えた。 ソロンドールはバルログを走って追いかけていたが、とうとうしびれを切らして宙に飛び上がった。 ダンジョンの淀んだ空気が、巨大な羽根に打ち付けられて疾風と化す。 それらは勢いをつけて承太郎を襲い、黒い血を体中から吹き出させた。 腕を体の前でクロスさせているものの、その腕に、顔に、腹に、足に無数の切り傷ができる。 それに気をよくしたソロンドールは、幾度か同じように翼を振るったあと、承太郎にとどめを刺そうと急降下の体勢をとった。 つまり、後方に向かって大きく腹を晒した。 その柔らかい腹と、広げた羽根に向かって、大鷲の後ろにショート・テレポートして息を潜めていた花京院が、連続で魔法攻撃を叩き込んだ。 ギィイイイィィン、と鐘の割れるような悲鳴を上げて、ソロンドールは地に落ちた。 すかさず承太郎が走り寄り、両の目を斧で潰す。 花京院も攻撃の手を緩めず、カオスの球を降らせた。 ソロンドールが痙攣するだけになって、くちばしがもう動かないのを確認してから、承太郎が首元に近づき、その喉にとどめの一撃を振り下ろした。 こうして彼らは、”山”を制覇した。 >>戻る |