「このあたりで少し休憩にしよう」 「そうだな」 承太郎と花京院はダンジョンの床に座り込んだ。 このくらいのフロアになると敵も手強く、進む速度は落ちていた。 とはいえ一人ではとてもここまで無事で来られるとは思えない。 二人は油断せずゆっくりと、HPとMPに気をつけながら歩いていた。 ふと花京院が顔を上げる。 「どうした、何か…何が近付いてきてる?」 「エルフ…ダークエルフダークエルフ闇のエルフ。プレイヤーが選べる種族の一つでもある。エルフをちょっと強くして、得意な属性を変えた感じ。だな。おそらくダークエルフのメイジの集団だろう。まだこちらには気付いていないようだ」 「そうか」 承太郎は暗黒の魔法書を開いて、範囲攻撃の魔法を唱えられるように構えた。 花京院もカオスの魔法書を開き、同じように準備をする。 「ん?」 「どうした」 「歩みが止まった。もしかしたらこちらを感知されたかも」 承太郎は舌打ちをした。 ダークエルフ・メイジの集団にそこまで苦戦するとは思えないが、遠距離タイプの敵に感知されたなら面倒であることは確かだ。 承太郎は魔法書をぱたんと閉じた。 「援護してくれ。気付かれてんならコソコソする必要はねーだろ。一直線に近付いて殴る。メイジは脆いからな」 「……そうだな」 承太郎はちらりと花京院を見下ろした。 「今のはお前への悪口じゃねえぜ」 「分かってるよ。メイジが脆いのも事実だ」 「俺だって気配を消すのは苦手だぜ。今回も俺が感知されたんだろ」 それを聞いて、花京院はプッと吹き出した。 「なんだよ」 「いやね、君がまさか、僕のご機嫌取りをするとは思わなかったから」 「…るせーな」 承太郎はごまかすように帽子のつばをぐいと引き下げ、斧を手にして走っていった。 花京院はそんな承太郎の背中に、属性攻撃への耐性耐性属性攻撃は耐性を張ることができればダメージを抑えることができ、薬を割られるなどの副次効果を防ぐことができる。中盤は耐性のついている装備品を探すのが冒険のメインになる。をつける魔法を飛ばした。 ダークエルフたちのものと思われる悲鳴が聞こえてくる。 それを聞きながら、花京院は思案した。 メイジなんざ脆いだけ、そう言って笑ってきた相手を何人屠ったか、もう覚えがない。 けれど、さっきは…… 承太郎が斧を振り回しながら後ずさりしてきた。 冷静に対処しているので、自分の攻撃範囲内にうまいことおびき寄せているだけだろう。 花京院は致命傷の治癒の薬治癒の薬軽傷の治癒の薬、重傷の治癒の薬、致命傷の治癒の薬の3種類が存在する。とはいえどれも回復量は少ないので、主に毒や切り傷を治す薬として致命傷の治癒の薬が使われる。を握りしめた。 息も絶え絶えのダークエルフが、はっと花京院の存在に気付く。 彼が治癒の薬を承太郎に向けて投げられるようにしていることも。 ダークエルフは目を釣り上げた。 「悪魔の…売女め!」 ダークエルフがそれを言い終わらないうちに、彼の首から上はなくなった。 花京院は、その言葉を承太郎が聞いていないといい、と思った。 僕はまったく気にしないが、承太郎が気にするといけないから。 >>戻る |